(9)


「ひぇえ恥ずかしかった…」
「ステージ立つよりはマシじゃない?」
「時と場合による!」
「まぁまぁ。旅の恥は掛け捨てっていうじゃないか」
「こいつらメンタル鋼かよ…!」

急いで店から出たかった満夜は、メローネが選んだ服も購入したため、決着は着かなかった。
他の面子が平然としていることに満夜は唖然とする。

「で?次はどこに行くんだい?」
「まだどっか行くのかよ」
「夕飯食べに行かないか?もういい時間だし」
「満夜は?」
「う〜ん…いいけど、一度ホテルに荷物置かない?」
「そうだね。洗濯してくれた物も乾いているだろうし」

(このまま一緒に行くならおすすめを聞いてみようか)

渚沙が本場の美味しい料理に思いを馳せていると。

「…ごめんなさい。やっぱり、ご飯は後日でいいですか?」
「え?」

先程まで乗り気だった満夜が、いきなり意見を変える。
鋭い目線を送られ、理解した渚沙は頷いた。
渚沙のスタンド【マナクル・サウンド】は、本人の護衛中ボディーガードである満夜を媒介にしている。
人間を媒介した際は感覚が繋がっているため、緊急事態だと声に出さずに用件を伝えられるのだ。
彼女は周りに見えないようにスタンドを発動させ、メローネとギアッチョにも媒介させる。

「…何かあんのか?」
「いやぁ、今日はもう疲れちゃって。あ、連絡先教えておきますね」
《自然な態度を。尾行されてます》
「!」
《私の電話番号は──です。お二人も無事帰れたら留守電ください》

満夜が同時に渡したメモは白紙。盗まれても問題がないようにブラフだ。

「グラーツェ!寝る前におやすみの電話しちゃおうかな〜?」

渡されたメモにちゅっと口づけるメローネ。

「馬鹿か。…馬鹿だったな悪ィ」
「え、嘘!本気で謝られた!」
「「どんまい」」

ふざけつつ、二人は満夜と渚沙をホテルの入口まで送ってくれた。

「じゃあまた明日。荷物取りに来るから」
「はい。すみません、こちらの都合で」
「気にすんな。…すぐホテル変えられるようにしておけよ」
「!?」

耳打ちの後、唐突に縮まる距離。
ギアッチョの性格上、すると思ってなかった別れ際の挨拶に、満夜の頬が赤く染まっていく。
触れた頬は案外温かく。どうしていいか分からず惚けていると。

「無防備だなぁ。オイ」

ハッとして顔を見ると、意地の悪い笑みを浮かべたギアッチョが見下ろしていた。

「そんな顔してると、喰われちまうぞ?」
「へ?」
「ミツヤ。Buona notte, sogni d'oro.」

落ち着いた声色で囁かれた言葉の響きに、とうとう満夜は顔を両手で覆いその場にしゃがみこむ。

「じゃあな渚沙」
「アッ、ハイ」

ギアッチョは目を見開いて固まるメローネの喉元めがけラリアットをかますと、さっさとホテルから出ていった。


「お、おめでとう?」
「嘘でしょ…」

ロビーでは、冷やかすような、祝福するような音色の口笛や拍手が起こっている。
満夜はこの場ですぐチェックアウトしたいと思ったが、メローネの荷物があるのでそれは無理で。
耳まで羞恥で赤く染めた状態のまま部屋に戻るしか出来ず。彼女はその夜、一睡もできなかった。



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