(5)
「いい加減本気出してみろ!今度はヤるぞ!!」「ギャアアアアアアア!!?」
「あ〜あ〜…ドSに火が着いてるぞ。こりゃやべぇな」
「ゲスな…破廉恥極まりない!」
「彼女、泣いてないか?」
偲は必死に魔法を避け、距離を取っていた。涙目である。
《偲!どうにかしないとヤバそうだぞ!》
《分かってるよ!》
《意表を突け!驚かせろ!隙を作れ!》
《そんなこと簡単に出来たら苦労は無いの…あ!》
《どうした?偲?偲!》
集中するため念話を遮断した彼女は考える。
(兵は詭道なり)
(皆が驚くとか、インパクトがある…予想外?)
攻撃を躱し続けていた動きを止めて、偲はジャック・ザ リッパーに向き合う。
「何のつもりだ?」
「貴方の得意魔法はそれですか?」
「あぁ。これでも加減してやってんだぜ?」
「そうですか…」
そう言うと、
「じゃあ、"換装"久遠の衣」
徐に魔法を唱えた。
偲の肢体は、シスターから譲って貰った衣服から魔導書の魔法で現れた異国の衣装に包まれていく。
白地に垂れ桜の上衣がたすき掛けにされ、濃紺の袴がきりりと締まる。
黒のブーツに足が納まれば、大正ロマン溢れる姿の彼女が完成だ。
「ストリップが始まるかと思って見ちまったが…服替えたくらいで大した変化はねえなぁ!」
「いやぁ…私、形から入るタイプなんで」
《何をする気だ!?》
「"我が心に在りし古の朋よ。遠き地からの呼び声に応え、汝の力を以て今一度我に力を与えん"!」
「!?」
「招来魔法"封印解除(レリーズ)"!」
密度ある魔力の奔流が発生する。
光が満ち溢れる魔導書からは、見たことのない意匠の杖とタロットのようなカードが現れ、彼女の前に滞空していた。
艶めいた杖の柄を握り、求める力に向けて降り下ろす。
「剣よ(ソード)!」
「!?」
変容する杖。
数秒後、彼女が握っていたのは白鞘に納められている日本刀だった。
「テメェ…斬り合い勝負だと!?」
「えぇ、お好きなようなので。あ、私の魔法が一度でも当たれば終わりにしてください。死なれては、騎士団の方も困るでしょう?」
「ハハハハハハッ!良いぜ!気に入ったぁ!来い!!」
「勝負!」
ジャック・ザ リッパーの断魔法の刃と彼女の剣が打ち合わされると、相対した魔力により衝撃波が生まれ、地面や試験会場の壁を抉り斬る。観戦していた受験者は悲鳴を上げながら逃げ惑った。
「いい!いいぞ!もっとオレを楽しませろぉおお!」
「せいやぁあああっ!」
彼女の出した魔法の剣は、ただの剣ではない。持つものを剣の達人にしてくれる効果があるのだ。そのため偲は相手の太刀筋を読むことが出来るようになり、受け流したり反撃をすることが可能になった。
「オラオラオラァ!どうしたァ?オレに一太刀浴びせるんだろう?」
「──ふっ!ていっ!」
「ハハハハッ!そうだ!もっとだァ!」
「ぜやぁあーーっ!」
バリアの向こうでは。
「……いいなぁ。楽しそうだなぁ」
「ヤミ。今貴様が行ったら収拾がつかなくなる」
「え〜?だってアイツだけずるいだろ」
「野蛮な…」
ヤミが不満気に二人の試合を見ており、
「お前だって興味津々なくせに。アイツ着替え始めた時ガン見してたろ。良い体してたな…」
「ふ、不埒なことを言うな!!」
また揉めていた。
「それにしても…まるで二人だけの世界だな。周りの被害も少しは考えて欲しいものだが」
「………やっぱずりぃ」
「子供か貴様」
笑顔で戦う二人は、まるで踊っているようだった。