温もりの腕(2)


「おう、嬢ちゃん。起きてきたか。おはよう」
「おはようございます」
「よぉ嬢ちゃん!」
「あっ、おはようございます」

昨日食事した部屋に着くと、部屋の中にいた人達が挨拶してくれた。

「昨日はいろいろありがとうな。座ったらどうだ」
「私もベッド。ありがとうございます」

首を振りながら答える。いやぁ俺得でした。あれが天国か。

「なぁ、」
「?」

朝の幸せを噛みしめていると、何か気まずそうに話しかけるおじさん。どうしたんだろう。

「具合悪い?風邪?お腹痛い?」
「いやいや違う!何ともない!」
「よかった。どうしたの?」
「あー…お前っていつ帰るんだ?」

静まりかえる部屋。

「病人が、健康なるしたら帰るさせていただきます。それまでは此方でおせっかいを焼かせていただきたくおもっています」
「え゛、…そ、そうっ…か……」
「はい。…では、具合悪い方の様子を見てきます」
「お、おい」

出してもらった椅子を片づけ、先程通った扉を開け優祈は部屋から出ていった。

「…お前らどうした?」
「あっ、スピードワゴンの兄貴!」

入れ違いで部屋に来た彼に事情を話す手下達。そんな彼らに怒号が飛ぶまで、あと少し。(これから何しよう)

看病は予想よりも早く終わり、暇になってしまった優祈。
今はスピードワゴンの部屋にいた。
彼女の荷物は丁寧にスピードワゴンの部屋にまとめてあった。誰かが運んでくれたんだろう。

(え?さっきのこと?いや気にしてないよ。──すみません嘘です。でも、皆は生活がかかってるし、邪魔くさかったんだろう)

「…このまま出ていくか」

彼から直接言われたら、やっぱり悲しくなっちゃうだろうから。

「ユウキ嬢ちゃん」
「!」

急いで振り返る。
いつの間に来ていたのか。ため息をついたところでスピードワゴンに声をかけられた。
何か用だろうか?いや、元々ここは彼の部屋だ。主が帰ってきて何が悪い。

「あぁ〜さっきの話なんだが…気にするなよ!あれは俺が説明していなかったせいだ。嬢ちゃんは此処にいていいからな!」
「…」
「…じょ、嬢ちゃん?」

返事もなく、こわばった笑みを浮かべるだけの優祈。
そんな彼女の反応にスピードワゴンは焦った。
対する優祈。

(やべ、全然話聞こえていなかった…)

あくびを我慢して話が聞こえていなかった。そこで愛想笑いをしていたのだが…。

「…」
(も、もしかして出て行く気じゃあ…!)
「…」
(もう一回言ってくれないかな…)

お互いに相手の言葉を待ち構えて小康状態になってしまった。

(な、なんで何も言わないんだろう…怖いよワゴンさん!)

「あの…看病してきます」
「え゛ええぇっ!?」

横を駆け足で通り過ぎようとするがスピードワゴンに捕まる。

「痛いっ!」
「おぁあ!?す、すまねぇ嬢ちゃん!」

すごい力で掴まれ身体が持ち上がったせいで、二の腕が引きつるように痛む。すぐに離してくれたが、そのまま彼の手が肩に乗せられる。

「大丈夫か?」
「…はい」

しゃがんで顔を覗きこまれて思わず後ろに一歩下がるが、その途端彼の太い眉毛が八の字になったため動くのをやめる。ちくしょうこのスピードワンコめ。

「あの、怪我無い。ちゃんといなくなる。はい」

言われる前に自分で言おう。その方が気が楽でいい。
ところが、

「馬鹿言ってんじゃあねぇッ!」
「!?」

思いっきり怒鳴られた。私はびびってその場に座ってしまうが、スピードワゴンはそのまま話し始めた。

「初対面の嬢ちゃんにあの偽モン紳士2人から助けてもらって、さらに仲間の看病まで……俺は、俺は!アンタに感謝してもしきれねぇッ!!だからせめて俺がこの礼を返すまで…いやきっと返しきれねぇが!それまで此処にいてくれ!頼む!!」
「…」
(あの指輪、雑貨屋さんで1000円くらいだったから気にしなくていいのに)

彼は優しいな。
流石ジョジョを三代に渡って助け、未来にその意志を繋げるだけある。
いつ帰れるか分からないし、ダメ元で誘いに乗ってみようかな。

「いいの…?」
「あぁ!此処にいてくれ!」
「じゃあ、よろしくお願いします」
「よし!」

こうして優祈は食屍鬼街オウガーストリートで生活していくことが決定したのだった。

(騙してごめんね。スピードワゴン)


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