さよならラッキーストライク
「いやだ。クソだりぃ」
「そう言わないでくれヤミ」
──某日。呼び出された王宮にて煙草を吹かす黒の暴牛団長は、魔法帝からの頼み事をズバッと断った。
側近達は眉を顰めるが、彼にガンをつけられ、口に出す者はいない。
「オレの耳がおかしくなったんすかね?貴族との交流だぁ?」
「正確には黒の暴牛にいる"七つ葉の魔導書の所有者"とだね。彼女との面会を望む者が多くいてね。頼めないかな?」
「その機会を設けろ、と」
異民だなんだと五月蠅い連中の前に連れて行ったら、嫌な思いをさせるに決まっている。
「オレんトコの団員を?貴族や王族の前に、犬みたいに呼び出せと?」
うげぇ、と顔をしかめる。
膨大な魔力のわりに魔法を使い慣れていない、平和ボケした奴。
しかし、自分の不器用な誘い文句に笑って着いてきてくれた女なのだ。
(めんどくせぇが、)
投げ出すつもりもない。だが、断ることはできないだろう。
だから、こうして魔法帝は形だけでもオレに話を通そうとしているのだ。
「そいつが提示した条件を飲めばいいぜ」
「貴様!魔法帝になんて口の利き方を」
「ア゛ァ?」
短い悲鳴を上げ黙った側近の男を気にせず、魔法帝は頷く。
「いいよ。突然の話だからね。じゃあ三日後によろしく」
どこか楽しそうに、魔法帝ユリウス・ノヴァクロノは告げた。
「あ、おしゃれしてきてね」
「はぁ?」
黒の暴牛のアジトの一角。名前はしかめ面して、その話を聞いていた。
「うわぁ…堅っ苦しそうですね」
「だよなぁ。でも決定事項なんだとよ」
《前にノエルちゃんとアスタ君馬鹿にされて、騒ぎ起こしかけちゃったからなぁ》
《何だ?ビビってんのか?》
《こちとら一般人!それに嫌な思いするって結果が明らかなら、なるべく避けたいよ》
「はぁ……帰りたーい!教会のみんなに癒されたい!」
遠い目をして黄昏る名前の様子に、自分も愛しい妹に会えない気持ちが分かるのだろう。珍しくゴーシュが憐れみを持って彼女を見ている。
「お前さんの言った条件を呑むみてぇだし、まぁ、なんだ。無理難題でも出してやったら?」
「……じゃあ、第一のお願いです。知らない人怖いのでヤミさんついてきてください」
「げ」
ヤミが嫌そうな顔をすると、途端に名前の顔が歪む。
下民や異国民に差別意識が強いこの国の、貴族や王族の権力を鼻にかけた奴等の相手をするのは面倒だ。
それが分かっている名前は、今の会話で口を閉じた。
悲しそうに、でも無理強いはできないなという諦め。
読んだ氣で彼女の心境が分かってしまったヤミ。
彼は吸っていた煙草を消すと項垂れていた名前の頭を撫でる。
「ったく、仕方ねぇな。着いてってやるよ」
「本当ですか!」
「他の奴等に勧誘されたりしたら面倒だしな」
「ありがとうございます!!」
「で?他にどんな条件をつけるんだ?」
「えっと…」
二人は思いついたことを紙に書きながら、作戦を練っていく。
途中任務から戻ってきた団員も混じり、少しずつ名前の顔にも笑顔が戻るのだった。
前へ /
トップページへ /
小説に戻る /
次へ