迷惑なクラスメート



人は、視えないモノに恐怖する生き物である。
だがしかし、視えていようが視えていなかろうが、怖いもんは怖いと、私は思う。


「おいコラ白石テメェなんつーもん連れてんだボケ」
「朝からけったいやな、九十九。"また"おるん?」
「近付くなテメェ!あ、すみません貴方にじゃないです白髪のアホに言ったんです」


ホントすいません、と白髪のアホ白石―――の背後にいる凄い形相の女性に土下座した。恐らく彼女は生き霊だ。ちくしょうマダムキラーになってんじゃねぇよ、と内心毒づく。この辺やろか、と自分の左後ろ辺り(恐らく私の視線で判断したのだろう)を見て、ブンブンと手を振る白石に、女性は恍惚の表情で寄り添って見つめている。が、どの辺におるん?とかこのアホが私に問い掛けるたびに充血した目を思い切り見開いて睨まないでほしい。私は被害者だ。


「で、どうにかなるんか?」


窓の外をぼんやり眺めながら謙也が問い掛けてくる。どうもこうも、


「私、除霊師になった憶えないんだけど」
「「またまたぁ」」


眉間に皺を寄せてそう言えば2人同時に軽く返されてしまった。マジムカつくコイツら。
そう、もうお分かりだと思うが、私、九十九壱加は霊が視える。我が『九十九家』は何百年の歴史を持つ霊媒家系だとかそうじゃないとか。
兎にも角にも私は霊が見え、そして、


「白石テメェ半径2メートル以内に近付くんじゃねぇぞ。あーやだぁもうホント怖いぃぃ明るいとこで見ても怖いぃぃぃ」
「ほんま壱加は怖がりやなぁ」


人並み、いやそれ以下に怖がりなのだ。というかさ、振り返ったらクラスメイトに女性が(ほぼ)ハグしてんのにその本人はけろりと挨拶してくるとか普通に色んな意味で怖いと思うんだ。今回は霊でしたけど。
まぁ例えば、血まみれの女の人がペタリペタリと着いて来るとか、誰もいなかったはずの場所に血走った目の男性が急に立ってたら皆怖いでしょ?私も怖いんだよ!皆と一緒!!
だがしかし、この白髪金髪コンビは私がどんなに怖いって言っても絶対に巻き込んでくる。半強制的に巻き込まれたせいで、結果的にこの2人の前で悪霊なるものを浄霊してからいっつもこうだ。もうやだ怖い。


「壱加ー、憑いとるん男なん?女なん?」
「女の人デス」
「ほー。今どうなってん?」
「零距離でハグして『蔵ノ介好きや好き愛してん』ってお前の耳元でずっと囁いてる。何なら見えるようにしてやろうか?」
「………遠慮しとくわ」


若干青ざめた顔で白石が俯く。ハッ、ざまぁみろ。最初に聞いてきた謙也が、白石に小さく、すまん、と謝った。しかしちゃっかり白石から離れているのを私は知ってる。マジ、白石ぼっちざまぁ。


「九十九、この女の人は俺が好きなんよね?」
「へ?」


突然白石に聞かれてつい間抜けな声が出る。白石を見れば、ジッと真面目な顔で見つめられて、慌てて頷く。ちくしょうイケメンずるい。すると白石は口元に手を当ててブツブツと何かを呟いたかと思えば、再び私に向き直る。


「九十九壱加。お前が好きや」


真剣な顔でそう言って、私を急に抱き寄せた。
え、何これ何なの。あぁ、そうか自分の終わりを悟って最期に想いを、ってことね。今までの私に対しての嫌がらせの数々は愛情の裏返しだったのね。全く、白石ったら素直じゃないんだから。ほら、謙也が驚いてるし、女の人だってショックを受けた顔してる。私もビックリだもん、廊下で急にこんな告白。そんな反応になっちゃうよね。そのまま白石の腕の中で恍惚に浸っていると、怒りを露にした女性が一瞬視えた気がした。
………怒り、って、誰に?


『あ゛ぁぁぁあああぁ許さない許さない許さない!!!!!!』
「私かぁぁあああ!!」


彼女はいつの間にか白石から離れ(多分白石が私を抱き締めたとき)、私を思い切り睨みつけて叫んだ。ごっつ怖い!


「よしっ!今や九十九、やったれ!!」
「テメェ分かっててやったな殺す!!」
『殺してやる殺してやる!』
「「ぎゃあぁぁあああ!!」」


あまりにも女の人の怒りマックスなのか、白石にも謙也にも彼女が視えてるらしい。白石から離れたために私の横に居た謙也と絶叫しながら、私はポケットから御札を、謙也は前に私があげたお守りを飛び掛ってきた彼女に投げ付ける。すると、女性は悲痛に叫び、すっと消えていった。





────……

「お疲れさんっ」


物凄く爽やかに言ってのけるこの確信犯が憎い。何とか御札とお守りが効いたから良かったものの効かなかったら死んでたぞおい。謝れ。特にたまたま私側にいた謙也には本当に謝ってやれ。
そして私のときめきを、純情を返せ。


「いやー、これで安心や!俺は」
「ほんと打ち殺すぞ白石」
「で、でもちゃんと成仏したんやろ?」


ビクビクと周りを見ながら謙也が尋ねる。その横で、平気やろ?とけろりと言う白石にイラっとしたが、内心声高らかに笑い出しそうな気持ちを抑えて口を開く。


「いや?あの女の人は幽霊じゃなくって生き霊だから成仏はしないよ。また来るんじゃない?」


ドンマイ白石、とニヤニヤしながら言うと2人は口を開いてぽかんとしている。あー、いい気味!


「なぁ、壱加」
「何謙也?あぁ、白石から離れてれば被害はないから大じょ、」
「それ、今度は自分が狙われるんとちゃう…?」


きょとんと間抜け顔のまま謙也が私を指差す。
そして思い出す。白石に愛を向けていた彼女が消える直前、私に対して憎悪と殺意を一心に向けてきた事を。
恐怖で叫び声は音にならず、その表情は白石が、ムンクの叫びみたいや、と零したことで知ることが出来たのだった。


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