四天宝寺の場合。


「……ふぅ」


最後の一曲を終えて一息吐く。EXPERTのスコアは上々、もう少しでランクSが出せそうだ。もう一回くらいやればフルコン出来るかもしれない。グッと小さく拳を握って、新しく手に入れたコレクションを眺める。鼻歌混じりに見ていたら、後ろが少し騒がしくなって団体が来たのだと気付く。


「財前、どれやるん?」
「あれですわ」
「あれ、てドラム缶洗濯機やん!!何すんこれ!!」
「音楽ゲーム言うたやないですか阿呆ちゃいます」


どうやら団体さんのお目当てはmaimaiらしい。チラリとまだ遠くにいる団体さんを確認して、人数的にもどいた方が良いだろうと荷物を手に取り、待機用の椅子に移動する。見覚えのある制服だから四天宝寺辺りだろうか。(自分も学生だが)学生集団は余り得意ではないから滅多に人が来ないこのゲーセンに通っていたのに、と溜め息を吐いた。その代わり4台しか設置されてないのだが。私の横を気にもせずすり抜けて、maimaiを物珍しそうに見ている。


「財前、そのカード何やのー?」
「Aimeカードや、これやるんに必要なん」
「あ?この洗濯機やるん初めて言うたやんか」
「チュウニズム…俺がいつもやっとんのとの連動企画があってこっちやらな欲しいアイコン手に入らないんすわ」


成る程、チュウニズム勢か。なら、一回でチュウニズムに移動してくれるかもしれない。そしたらあまり見られないだろう。見られてるとやっぱりやりづらいし。
俺も欲しい!と金髪の人がAimeカードを買いに行くのを着いていくヘアバンの人や、おサイフケータイでも出来るやん、と包帯を巻いた人が眺めている横で、チュウニズム勢の人が黙々と準備している。テニスバッグを皆背負っていて人数も人数なので、座っている私に当たりそうで、少しだけ後ろに座り直す。すると包帯の人が小さく声を上げる。


「お姉さん待っとるんちゃう?」
「あ、さっきやってたんでどうぞどうぞ」
「すんません、荷物邪魔ならんようするんで!」


赤髪の子にほんまおおきに!ありがとぉ!と言われて笑ってひらひら手を振る。


「で、謙也さんもやるんすか?」
「おう!」


いつの間に帰ってきたのか金髪の人がカードを掲げて大きく頷く。よく見ればイケメンさんばかりだ。1人明らかにお姉系がいるけれど。あと、修行僧。
チュウニズム勢の人が、まぁええっすわ、と呆れたようにAimeカードをかざしたのを真似するように金髪さん、それから包帯さんがカードとスマホをかざす。あら、と不意にお姉系の人が声を上げる。


「お姉さん、1台空いとるでー」


ニコニコとチュウニズム勢さんの隣を勧められ、全員に一斉に見られて一瞬戸惑う。チュウニズム勢さんも待ってるところを見ると、仕組みを知らないようだ。時間もあるので慌てて口を開く。


「あっと、maimaiは2台1セットなので、3人プレイの場合はその1台は待機になるんです」


だから終わるまで待ちます、と伝えたら、ほー!と声が返ってきた。堪忍な、と修行僧さんが眉を下げたので笑って手を振る。良かった、とても良い人達だ。


「ほなあと1人出来るで」
「ユウジ入ったらええやん」
「あ゛?めんどいわ」
「ユウくんの良いとこ見てみたい!!」
「ぃよっしゃぁあ!!見とってな小春ぅ!!」


あ、この2人が付き合ってるのか。
パァンといつの間に買ったのかAimeカードを叩きつけるヘアバンさんに、他の人は慣れてるのかほなやるでーとカウントを進めていく。
初めてなので名前選択になり、久々にこの画面見るなーとぼんやり眺める。


「え、財前決めるん早ない、てZenzaiてw」
「名字にかけとるん?好物にかけとるん?ww」
「どっちもっすわ」
「流石やなぁ財前」
「めんどいからUjiでいいわ」
「俺どないしよー!!」
「SpStでえぇんやないですか」
「えすぴーえすてぃー??」
「『スピードスター』の略やね」
「まんまやんww」
「ほな俺はEcstaで」
「白石ほんま捕まるやつやそれ」


ツンツン頭の人が止めるが迷わず包帯さんは打ち込んでいく。エクスタ、ってどういう意味だろうと思った辺りで包帯さんが、エクスタシー!と言ったので理解する。確かにイケメンじゃなかったら通報ものだと私も思う。


「ちゅーかこれあれか?このボタン叩けばえぇんか?」
「『スライドは軽くでも反応します』…ゆー事はなぞったりもするんやな」
「お、チュートリアルあるやん」
「あ、無しで」

パンッ

「「「鬼畜かwww」」」


コントのようなテンポに思わず堪えていても笑ってしまう。気付けば隣に座っていた癖っ毛さんが、おもしろかねーとケラケラ笑っていて、慌てて笑いを抑える。


「曲選んでえぇっすよ」
「ほんまか!助かるわ!!」
「なん、これどうやって選んだらええねん」
「オプション、てなんや?……お!スピード変えれるやん!!マックスやから……sonicとか分からんしとりま10で!」
「流石スピスタww」
「J-POPからのが無難か?……女々しくてあるやん、これなら分かるで」
「せやなー」


あ、これ私譜面見たこと無い。少し身を乗り出して覗き込んでから、そういえば初めてやる人達だった、と再び座り直す。


「レベル選べるんか」
「音ゲーは大抵選べますよ」
「よう分からんけどとりあえず一番難しいので」
「「せやな」」
「そっすね」


どうしてそうなるの。
マスクをしてて良かったと本気で思うくらい、めっちゃ必死に笑いを堪える。
そんな中、BPMの説明をチュウニズム勢さんが説明してそれぞれスピードを選んでから、最初の一曲目が始まった。



―――……

「なんやこれぇえ!いてこますぞ!!!」
「あっはっはっはっ!なんやこれよう分からん!!!」
「うぉぉぉぉお!!」
「先輩らほんまちょお黙って?!」


とりあえず、とても面白い。あとやっぱり騒がしい。でも初見で何だかんだ追えているのだから、男の子の反射神経って凄いと思う。ぜんざいさんはタイプは違っても音ゲーやってるからだろうけど、スピスタさんはほんと凄い。スピード10.0とかMASTERやってる人のしか見たことなかったけど、もう目で追うスピードじゃないのに30はコンボ繋いでる。譜面見やすいのは座ってる位置とスピード的にヘアバンさん…うじさん、かな、と譜面を見ながら手を動かす。隣のお兄さんにジッと見られてるのに気付いて手を止めれば、好きなんねーと笑われて恥ずかしくて俯いた。馬鹿にされてないのはトーンで分かるが恥ずかしいものは恥ずかしいのである。



―――……

「あと一曲かー」
「ほな最後は財前選んでえぇで」
「ほんまですか」
「おん。俺らに合わせとってもつまらんし、やりたいんあるやろ?」
「ボーカロイドでも東方なんたらでも何でもこいや!」
「ほなこれで」
「「「ヒメヒメwww」」」


あ、ぜんざいさんほんとにヲタクなんだ。



―――……

「いやーコレおもろいなぁ!」
「ワイもー!ワイもやるー!!」
「そしたら金ちゃん、俺とやんねー」
「壊すなや金太郎ー」


お待たせしてすんません、とエクスタさんに促されて慌てて荷物を持って立ち上がる。隣の癖っ毛さんが赤髪くんとやるためにゆっくりと立ち上がり、私と癖っ毛さんがいた椅子にぜんざいさんとスピスタさんが座る。これはもしかして見られるのでは。そう思いつつ手袋をはめて、百円入れてからAimeカードをかざして、カウントをスキップさせる。


「おぉーなんやプロ!っちゅー感じやな!」
「謙也、やりにくなるから黙っとき」


はい、出来ればそうして欲しいです。顔が熱くなるのをパタパタと手で仰ぎながら曲を探す。隣は楽しそうにアニソンを選んでいるので、ちょっと微笑ましくなった。ボカロ曲を黙々と見ていて、まだ挑戦してない曲で手が止まる。


「あ、財前好きな子やん」
「ちゃいます、俺が好きなんはリンって子で」
「え、あれちゃうん?この前聞いとったやん」
「曲が好きなんですわ、ストリーミングハート」


あぁ、がっつり見られている。というかほんとぜんざいさんヲタクなのか。イケメンでヲタクとか需要やばそう。
後ろで、レベル俺らやったんより高いなー、とかあれよりやばいんくるんか、とか聞こえる声を聞きながら、ストリーミングハートを選択した。



―――……

「っ、よし」


初見で94パーいった、やった!小さくガッツポーズして少し乱れた息を整える。でも、EXPERTでこれだとまだ見ぬMASTERが怖いなぁ。ふと視線を感じて隣を見れば、赤髪くんがキラキラとした目で私を見ていた。


「え、」
「お姉ちゃんごっつ上手いねんなーー!!!」
「え、えぇと、え、ありが、とう、ございま」
「は?何でそんな出来るん?何、あの動き」
「え、や、私そんな上手くは」
「お姉さんめっちゃ凄いなぁ」


隣の2人と、後ろの方々にも褒められてオロオロしていると、修行僧さんが落ち着きや、と皆を治めてくれて小さく頭を下げる。


「ほら皆、お姉さんあと2曲あるんやからあんま絡まへんの!金太郎はんも次の曲やらな!」


パンッと手を叩いてお姉系さんが仕切ってくれたので、すみません、とお礼を言ってから時間ギリギリまでゆっくりと曲を選んだ。



―――……

のに、なんで皆さん後ろで待機してるんだろうか。癖っ毛さんと赤髪くんが先に終わるようにゆっくりと選んだのに。そこまで考えてからもしかしてもう一回やるのだろうか、と慌てて荷物を纏めるとエクスタさんに声を掛けられる。


「お姉さんお疲れさん」
「へ?あ、ありが、とうございます」
「財前より上手いんやない?」
「は?あんなんすぐ出来ますわ」
「光くん、それ廃人の台詞ぽいで」


けらけら笑う皆に、ぜんざいさんは少しだけ眉間を寄せた。それから思い出したように声を上げる。


「ちゅーかテンション上がって、課題曲やってへんからアイコンもろてへんですわ」
「アホやん」
「クソワロ」
「ちゅーかテンション上がっとったんやな」
「うっさいっすわ」
「お姉さんの見たからあの曲やったら真似出来るで!」
「ほな他の曲で」
「財前のいけず!!」


ほんとに仲良しだなぁ、と眺めつつ、もう一回くらいやりたい気持ちが強いので、小銭入れの百円をあるだけスカートのポケットに入れてからテニス部さんが去るまでクレーンでも見ていよう、と手袋をしまった。


「もうやらへんで平気なんか?」
「え?」


修行僧さん(よく考えると失礼な呼び方な気がする)に呼び止められ、立ち止まると全員と目が合って少し怯む。


「小銭持っとったからまだいるんとちゃいます?」
「音ゲーマーあるあるか」
「小石川さん、その言い方微妙っすわ」


堪忍、と笑うツンツン頭さんに小さく息を吐いてから、ぜんざいさんに視線を向けられ思わず目を反らす。なんで百円持ってたの見てたのぜんざいさん。せやったら、とエクスタさんが首を傾げた。


「お姉さん一緒にやりません?」


え、と結構本気で声が出て、エクスタさんが困ったように眉を下げた。それと同時くらいにうじさんが、あぁと声を上げて手を叩く。


「そんならお姉さんの動き見たいから俺抜けるし、VSやったらお姉さんは好きなレベルやれるんやろ?」
「せやな!それならお姉さんやりたい曲やったらえぇし!」
「一曲だけ課題曲やらせてもらいますけど」


別にそれでえぇんなら、と一番反対されると思ってたぜんざいさんにまで言われてしまって戸惑う。俺ら下手やけどー、とスピスタさんが言うがレベルは一緒だから問題ないし、初見でチュートリアル無しでEXPERT75パー以上ならむしろ凄いと思う。それに多人数で貰えるアイコンや称号は、ぼっちmaimai勢の私にはちょっと惹かれるものがある。少し悩んでから、是非、と怖ず怖ず答えればエクスタさんとスピスタさん、ぜんざいさんにおう、と笑いかけられた。困った、イケメンすぎて今物凄く顔赤い気がする。



―――……

「ほなやるでー!」


並びはエクスタさんに促されるまま、左からスピスタさん・ぜんざいさん・私・エクスタさんだ。どうしてわたし真ん中。手袋をはめつつ、それ頭いいなぁとエクスタさんに言われて、貸し出しの手袋がある事を教えるとお礼を言われた。ぜんざいさんはチュウニズム用の手袋を出して、4人共手袋をしたところで曲選択を始める。


「えっと、コラボだからアルペジオの方です、かね?」
「そっす。 よう知ってますね」
「看板大々的に出てるから」
「あぁ、なんや財前ほしいのこの女の子か」


スピスタさんが自分の横にあるポップを眺める。そっすわ、と返しながら曲を黙々と探していく姿に、ぜんざいさん後輩じゃないのかな、とか考える。


「えっと……Mare、さん?」
「あ、はい」


私の画面上のネームプレートを見ながらエクスタさんが私を呼ぶので振り返れば、エクスタさんがニコニコ笑っていた。振り返ればイケメンとか心臓に悪いからちょっとこの立ち位置ほんと心臓保たない。


「Mareさんはやりたい曲あらへんの?」
「私、ですか…?」


首を傾げれば、おん、と頷かれうんと、と画面に向き直る。


「それこそチュウニズムコラボの曲がアイコン欲しいからやりたい、です」
「言ノ葉プロジェクトか」
「財前早いわ」
「キモイわ」
「シバきますよ」


やり取りに笑いつつ頷けば、ほな次にやりましょ、とぜんざいさんがSAVIOR OF SONGで、決定ボタンを押した。



―――……

「何でMareさん全曲90パー超えなん」


最後の曲を終えて、画面上のスコアをスピスタさんがげっそりとした表情で眺めて呟く。


「いや、スピスタさんのが凄いですよ、スピード10.0とか私何も見えないんで」
「スコアぼろぼろやけどな」
「うっさいわ財前!自分のが上やからって!」
「あとエクスタさんも、音ゲーやったことないとか信じられない」
「ほんまに?おおきにー」


大人数プレイは初めてやったが、なんだか楽しくて思わず笑みが零れる。そういえば今何時なんだろう。


「……うわぁ!!」
「うおっ!なんやどないしたん!」


スマホを見て声を上げた私に、うじさんが私のスマホを覗き込んで、ゲッと声を上げた。


「電話めっちゃきとるやん」
「お母さんに連絡忘れてた…!ご、ごごごめんなさい!私帰ります!」
「あ、それやったら送る、」
「ありがとうございました!おやすみなさい!」


鞄を掴んで皆さんに深々頭を下げてから出口へと走り出した。
何かエクスタさんが言ってた気がするけど、今はお母さんに電話が先だ。また会えたらいいな、なんて柄にも無いことを思いつつ、お怒りであろう母に電話を掛けて帰路を走った。



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