山吹の場合。


ゲーセンはハマると怖い。と、私は思う。それでも不器用な私は、格ゲーや音ゲー等のアーケードゲームはどうも長続きせず、結局クレーンゲームばかりやってしまう(クレーンは得意。お店にもよるけど)。そんな私が珍しく、ほんとに珍しくハマったアーケードゲームが音ゲーで。本気で私にコレを薦めた男友達を恨みたい。そして今日も今日とて馴染みのゲーセンへと足を運ぶのだけど?

(あ、珍しい。人がいる)

最近台を入荷したばかりなのと、周りに他の店舗もあるからか、4台あるにも関わらず人が入ることの少ない此処は穴場スポットだとよく通っている。クレーンやりにきて偶然見つけただけだけど。そんな穴場スポットで男の子達がワイワイと楽しそうにmaimaiに向かっている。あの制服は山吹だな。


「…ほいっ」
「はいっ!あ、パーフェクト出たです!」
「それスライドー」
「あああ!」
「ほらほら壇くんリズムよくー」
「が、頑張ります!」


左の2台でオレンジ髪の人とヘアバンくんがチュートリアルをやっているようだ。チュートリアル画面こんななんだ。やらなかったから初めて見た。真ん中側にヘアバンくんがいてその両脇でタイミングを指示している二人組がいる。一人、頭に葉っぱ生えてるけど。え、オシャレー。何あれほしい。なんてぼんやり見てて、ふと右の2台がAimeカードを読み込んだ状態でカウントが進んでるのに気付く。あれ?と首を傾げると、葉っぱくんともう一人のぐるぐるほっぺくんが右の台を指差す。


「じゃ、壇のチュートリアルも終わったし、俺達始めてるねー」
「うん、ありがとね新渡米、喜多」


オレンジ頭くんが軽く手を上げると、2人はヒラヒラ手を振って右の2台に移動する。なるほど、別々でやるのか。いいなぁ、あんな風に優しく教えてくれる人がいて。私なんて初めての時、チュートリアル無しのEXPERTスピード4.5でやらされたのになー。スコア50%とか超ボロボロだった頃を思い出しつつ、彼等へと近付いていく。待機列は恐らく4人の友達であろう4人…1人めっちゃ怖そうなのいるけど、とにかくその4人が座ったりのぞき込んだりしていて、座れそうにはない。じゃあクレーンでも見てようかな。


「ぶちょー。そこ、待機列だから退いた方がいいかもー?」
「え?」


なんかいいの入荷してるかな、なんて考えながら踵を返すとこでそんな会話が聞こえてきて、振り返ればぐるぐるくんが私を見て、ねー、と同意を求めるように首を傾げた。あ、やるんだってバレてる。えっと、とどもる私に、ライオンヘアーくんとオールバックくんが振り返り、私を見るや慌てて立ち上がる。


「すみません!俺達やらないんでどうぞ!」
「あ、あの、どうも」
「あー!南、女の子ナンパしてズルい!!」
「違う!!」


曲選択していたはずのオレンジ頭くんが此方を振り返り叫ぶのをライオンヘアーくんが全力で否定する。その間にオールバックくんに促されるまま、待機列に座った。下らない事言ってないで始まりますよ、ともう一つの待機列に座る色黒ゴーグルくんが呆れたように溜め息を吐くと、不満を言いつつも画面に向き合う。隣のヘアバンくんは、頑張るです!と気合い充分だ。レベルはヘアバンくんがBASIC、オレンジ頭くんがHARDを選択している。あ、なんだろ微笑ましい気持ちになる。そういえば、右の2人は馴れてる風だったけど、レーディングどのくらいなんだろ。


「うげ」


何だありゃ。レーディング13とか初めて見た。え、ていうかあれMASTERほぼSSなんだけど。しかも、もしかしなくとも全曲MASTER解禁してない?え、やば、何あれ訳わかんない。


「やっぱアイツらのアレって凄いんですか?」
「え」


オールバックくんに突然話し掛けられ、ハタと我に返る。顔を上げれば、俺達初めて見るんですよコレ、と笑い掛けられた。そうなのか、でも何で私に話し掛けたんだ?なんてぼんやりしてたら、ゲッて声出てましたよ、と逆隣のゴーグルくんに言われた。あらやだ私ったら声が漏れてたなんてうっかりさん。
愛想笑いを返して、左の2人に視線を移す。ヘアバンくんがタップの度にはいっ!とか掛け声を上げててちょっと五月蝿いけど可愛い。そんでもってオレンジ頭くんは…随分余裕そうだ。目でスピード追えてるし、EXPERTでも全然出来たんじゃ。



―――…


「随分余裕じゃねぇか」


左の2人が一曲終わったところで強面さんが喋った。ていうか強面さん喋るんだ。話し掛けられたオレンジ頭くんは、イエーイとVサインしている。ふと画面を見ればランクSSSだ。ん?SSS?って事は100%超え?フルコンしたのは見たけど、は?HARDでも私出せませんけどそんなスコア。何あれ訳わかんない。オレンジ頭くんのスコアガン見してたら、曲が聞こえたと同時に軽快なタップがして右の台を見る。あっはっはっ、なんだあの動き。目で追うことは出来る。でも何やってんのかさっぱり分からん。それは追えてない、とか言わない。そんでもって2人とも動きがほぼ一緒とか、え、シンクロ100パーじゃん。え、何者。コンボは切れないし何あれ訳わかんない。


「は?」
「だから声出てますよ」


あらやだ私ったら声が漏れ以下略。



―――…


「いやー、EXPERTになると一気に難しくなるねぇ!」


眉を下げてオレンジ頭くんが笑う。この言い方だとまるでEXPERTクリア出来なかったーみたいに聞こえるが、余裕でクリア、ランクAAだ。喧嘩売ってんのかこの野郎。最初の一曲以外オレンジ頭くんはEXPERTに挑戦していて、AAA・AA・AAと高スコアだ。この曲知らないとか色々言ってたけど絶対嘘だ。お前初見さんじゃないだろ。


「千石はスピード8.0でも丁度良いと思うよ」


選曲に迷いが無かったからか、先に終わっていた葉っぱくんがオレンジ頭くんに話し掛ける。


「いやいや、4.5はスローに見えるから出来ただけだよ。8.0とか目で追えたとしても体がついてかないって」


いやいや、リングの出てくるスピードが違うだけで叩くのはどのスピードでも同じテンポだから。


「見えるスピードが違うだけでタップ数もスピードも変わんないよー」


隣で嬉々として新しく手に入れたアイコンをセットしていたぐるぐるくんが、そう言ってから、はいどうぞー、と場所を譲ってくれた。私の代弁ありがとうぐるぐるくん、そしてMASTER民の後やるの超やだ。なんて気持ちが顔に出ないように、お礼を言いつつニコリと笑って立ち上がる。


「俺らまだやってくけど皆どうすんのー?」


葉っぱくんが他の人達に問い掛ける。あ、やっぱりまだやっていくのか。と思いつつ百円とAimeカードを準備する。


「うーん、じゃあ俺お姉さんとやろうかな!」


凄くナチュラルにオレンジ頭くんに肩を抱かれて思わずフリーズする。ライオンヘアーくんとオールバックくんもフリーズして、ゴーグルくんは盛大に溜め息を吐いた。そんな中ヘアバンくんは強面さんに「アクツ先パイ一緒にやりましょ!」と超空気読まずに話し掛けている。少しだけ冷静になって、オレンジ頭くんを冷めた目で見上げれば、当の本人はニコニコとしていて向かいにいるゴーグルくんには、顔ヤバいですよ、とまたしてもツッコまれた。ようやく我に返ったライオンヘアーくんが私とオレンジ頭くんを引き剥がす。


「バカ!何考えてんだよお前!!」
「可愛い女の子とやりたいなーって」
「欲望に忠実すぎんだよ!!」


ホントそれな。でも可愛い女の子、って言葉は素直に喜んでおく。駄目だからな、と言うライオンヘアーくんにオレンジ頭くんは納得いかないのかぶー垂れている。と思ったら、ぽんっ、と手を叩いた。


「じゃあ、亜久津と壇くんと4人でやろう!」
「「どうしてそうなった」」


ライオンヘアーくんとオールバックくんが同時にツッコんだ。シンクロ100%だね。葉っぱくんとぐるぐるくんはケラケラ楽しそうに笑っていて、恐らく私並みに巻き込まれているであろうアクツくんは心底嫌そうな顔である。


「うわぁ!それは凄く楽しそうです!」
「でしょー?流石壇くん分かってるねー」


ヘアバンくんはキラキラ笑顔で微塵も否定しない。おっとこれは断りづらくなるじゃない。こうなると私の唯一の頼みの綱はアクツくんである。縋るように彼を見れば、一瞬目が合って、直ぐに舌打ちされた。よし!これは「やるわけねぇだろクソが」確定フラグktkr。


「やるわけねぇだろ」


ほらね!クソが、まで言わなかったけど。そこまで口悪くないのかな。まぁ、此処までこの人達と来るくらいだから良い人なんだろうけど。


「いーじゃんやろうよ亜久津」
「そうですよ!やりましょう先パイ!」
「俺はやらねぇぞ、下らねえ」


待機席から微塵も立つ気の無いアクツくん。よーしいいぞー。そのまま押し切ってくれアクツくん。


「……分かった。亜久津、女の子の前でその『下らねえ』遊びで負けるの怖いんだ」
「ぁあ!?」
「止めろって千石」
「じゃなきゃやり方見てたんだし亜久津が出来ない訳ないもんねぇ。俺に負けるの、怖いんでしょ」


あ、今私にはブチって音聞こえたよ。聞こえちゃったよ。


「…上等だ、あとで泣きみんじゃねえぞ」


ゆらりと立ち上がるアクツくん、ヘアバンくんは嬉しそうに笑って、オレンジ頭くんは何でか私に向かってピースして、ライオンヘアーくんとオールバックくんと私は頭を抱えた。あ、でも私断ったっていいんだよな。そう思って顔を上げれば葉っぱくんが目の前にいて、どっちにする?と聞いてきた。そうか、逃げる選択肢は無いのか。だったら、隣でやる相手くらいは選ばせてもらうかんな。


「じゃあ、左の台の、一番左で」
「隣誰にするー?」
「勿論俺だよね!」


台を指差せばぐるぐるくんに聞かれる。ニコニコと自信満々なオレンジ頭くんはもう放っておいて、迷わずその人物の制服の裾を掴む。


「嫌でなければ、アクツくんで」


彼の制服を掴みながらそう言えば、全員が目を見開いた。ゴーグルくんは目見えないけど驚いてるのは分かるぞ。皆からアクツくんへと視線を移せば、彼も眉間を寄せていて不思議に思っているようだ。
そんな変な事言ったかな。でもオレンジ頭くんは何か事ある毎に絡んできそうだし、ヘアバンくんはあの掛け声が気が散りそうなんだもん。妥当だと思うのだけど。


「あ、分かった」


ピンと指を立てて葉っぱくんが呟く。え、と私が彼を見ればニィっと笑った。


「太一の隣は気が散りそうだなーって思って、千石はナンパされたり絡まれるのメンドくさいなーって思ったんだ」
「「「なるほど」」」


葉っぱくん名推理ー!そして満場一致とかヘアバンくんは兎も角、オレンジ頭くんのアレはいつもなのね。ちらりとアクツくんを見れば、興味ねえ、と言って左の台の右側に向かった。彼良い人だ!後に続いて彼の隣に立つと、後ろからオレンジ頭くん…センゴクくん?の不満の後にゴッと良い音がした。絶対今のグーパンだグーパン。



―――…


という訳で、並びは左から私、アクツくん、センゴクくん、ダンくんだ。
まさか知らない人とmaimaiやる日がこようとは。手袋を出しつつ、ちらりと右3人…というより、アクツくんとセンゴクくんの上の画面を見る。アクツくんは210Bくん(葉っぱくん)ので、センゴクくんは1uma(ぐるぐるくん)のプレイデータである。レーディング13.73とかもういっそ気持ち悪い怖い。ちなみに何でプレイデータを借りているのかというと、ゲストプレイや新規プレイの場合、スピードがMAX4.5までしか選べないので、「2人ともやりにくいでしょー?」と有無を言わせず2人がAimeカードをかざしたのだ。ダンくんはゲストプレイである。閑話休題。


「でもいいの?このレベルみたいなの、新渡米も喜多も下がっちゃわない?」


センゴクくんが自分の台のレーディングを指差して聞く。それは私も思う。レーディング高くなると上がりづらいけど直ぐ下がっちゃうのに。お陰で、ちょっとMASTER挑戦したら一気に9.78から9.26まで下がっちゃったし。


「大丈夫大丈夫」
「すぐ上げれるから〜」


ハッハッ、MASTER民怖すぎかよ。言ってみたいわそんな台詞。私なんて一度下がって以降9.42から上がらなくて悩んでるのに、何なの訳わかんない。


「この曲にするです!」


私達が会話(主にセンゴクくんとMASTER民が)してる間にダンくんが決めたらしい。あ、ソニックだ。EXPERTレベル10のBPM172か。やったこと無いけど、スピード6.0でいけるかなぁ。むう、と悩んでいると、私とアクツくんの間にニトベくん、アクツくんとセンゴクくんの間にキタくんがふっと現れる。


「亜久津と千石はスピード9.0ね」


パパン、と慣れた手付きで勝手に設定していく。おい、とアクツくん。え、とセンゴクくんの声が同時にしたと思ったら、アクツくんのスピード設定をしていたニトベくんが、Mareさんはスピードそのままねー、とこれまた勝手に決定ボタンを押してくれた。他の人が選択中、という表示が出なかったと言う事はダンくんはもう選択済、曲が始まるという事だ。そんな私は今、手袋をはめている最中な訳で。


「っちょ、嘘!」


慌てる私の後ろでMASTER民2人の笑い声がした気がするけど今はそれどころじゃない。知らない曲なんだってば!



―――…


「イエーイ、俺の勝ちー!」
「チッ」


アクツくんに向かって嬉々としてピースするセンゴクくん。スコアは98.2%でランクSクリアだ。お前初見さんとかぜってー信じねぇからな。舌打ちしたアクツくんは97.6%、やはりランクSだ。頭おかしいんじゃないの。かく言う私は97.1%、ギリランクSクリアである。初見でMASTER解禁とかレベル10の曲でよく頑張ったよ私、偉いぞ私。3人ともすごいですー!とキラキラして言うダンくんはランクA、82.2%クリアだ。ホント微笑ましいな。機体に寄りかかって深い溜め息を吐く私に、お疲れ様です、と労いの言葉を掛けてくれるライオンヘアーくんとオールバックくんは、THE・良い人だと思う。


「亜久津さんはスライドが速すぎるんだよー」
「あっ、亜久津にだけアドバイスずるーい!」
「だって千石さん見えてるッショ?」


キタくんの言葉に、まあね、と答える。スピード9.0が見えてるって何。訳わかんない。今日訳わかんないって何回言っただろ。話し掛けられたアクツくんがニトベくんを無言でジッと見下ろす。もしかして「どういう事だ」って説明催促してるのかな。ニトベくんもそうとったらしい、両手を開いてあのねー、と気だるげに説明を始める。その喋りはデフォなのね。


「スライドは最初のタップだけ良くてもダメなんだなー。あとテキトーになぞってもダメなわけ」
「えっそうなんですか!?」
「全部同じスピードで流れてないからねー。ゆっくりなのもあれば、速いのもあんの」


何故か驚くダンくんにキタくんが答える。流れるスピード違うのは知ってたけど、適当にやってもダメなのか。回転させてなぞるのたまに手抜いちゃうんだよな。首を傾げる私に、ニトベくんが、なぞる過程は大した判定ないけどね、と教えてくれた。あ、そうなんだ。ていうか良く分かったな。なんて思っていたら、ひらりとニトベくんが手を振る。


「まぁ、スライドのスコア判定は、要は最初と最後が肝心って事」
「あぁ、だから見えてる千石さんのがスコアが良いんですね」


ゴーグルくんの言葉に、そーゆー事、と2人が返す。そっか、じゃあもうちょっとスライド見てやった方がいいんだな。ふむ、と画面を見れば曲が既に選択されていて思わずフリーズする。待って、ダンくんはさっきみたいに「コレにするですー!」とか言ってないぞ。やった事の無い曲のレベル選択画面に、未だフリーズしていると、キタくんが私の左隣に立つのが分かったと同時にパンッと良いタップ音がした。画面は、スピード6.0の設定のままEXPERTのレベル9で確定。何となく嫌な予感がして右隣に立つニトベくんを見れば、ものすっごく良い笑顔で親指を立てられた。ニトベくんの後ろ、右のセンゴクくんダンくんのいる2台が既に確定画面になってるのが微かに見えて、思わず顔が引きつる。


「「それじゃ、スライド多い曲いってみよー」」


やはりゆるい感じでアクツくんの決定ボタンを押してハモる2人。だから知らない曲なんだってば!!



―――…


「はーいお疲れー」


ヒラヒラ手を振るニトベくんに若干の殺意を抱きつつ機体にうなだれる。結局、残りの3曲全てMASTER民の選曲でやらされた。最後の方とかEXPERTの10+とかやった事無いわ訳わかんないわで、死ぬかと思った。隣のアクツくん、センゴクくんは4曲全てランクSクリアだ。バカじゃないのバーカ!!


「千石さんはスライドタップの交互とか苦手な感じー?」
「いやーだってさ、右手でなぞってるのに右にタップ来るとか手がゴッチャになるって」
「あと同時押し連続の回転も苦手」
「うん、全然分かんない!見えるけど叩いてられないよ」
「そゆ時はボタンじゃなくて、画面をなぞっちゃえばオールオッケー」


親指と人差し指で輪っかを作るキタくんに、成る程ね、とセンゴクくんが画面に触れる。そっか、ボタンじゃ間に合うか!って思ってたけど、画面でもタップ出来るもんね。そんでねー、とニトベくんが私とアクツくんの間に来る。


「亜久津はやっぱりスライドが速いのと、同じとこのタップ続くのだねー。その代わり不規則に叩くのと千石が苦手なのは得意なのかな」
「そりゃ、反射神経は亜久津のが上だもん」


そう、タイプの違う4曲をやってアクツくんとセンゴクくんの対決(?)は2勝2敗、引き分けだ。ホント正反対なんだなぁ、なんて息を整えながら見てたら、ニトベくんが私へと振り返る。


「Mareさんはー、リズム良くスライド少なめのバコバコ系はめっちゃ得意だけどスライドもの凄く嫌いとみたー」
「うっ」
「あと、タン、タタタみたいな片手に集中するタップもー」
「うぐぐっ」


その通りです、はい。ニトベくんとキタくんに言われて唸るとケラケラ笑われた。くぅ、悔しい。にしても皆の動き見てたとか流石MASTER民。あ、そうそう、とキタくんがダンくんに向き直る。首を傾げるダンくんに、グッと親指を立てた。


「壇はもう少しガンバリマショー」


その言葉に、私を含め、アクツくん以外の皆が笑った。そんな時、不意に視界に何かが見えてそっちを見れば、ライオンヘアーくんがミネラルウォーターを差し出していて、訳が分からず首を傾げる。


「あんな動いたから喉渇いたかなって。好きなものとか分からなかったから」


どうぞ、と手渡されしばし考える。もしかしてわざわざ買ってきてくれたのだろうか。受け取るのは躊躇われたが、正直なとこ喉は渇いた。凄く。まぁ後で返せばいいか、小銭は無駄にあるし。ありがとう、と受け取れば後ろでセンゴクくんが、あー!と叫ぶ。あれデジャヴ。


「南、そうやってMareちゃんの気を引こうなんてズルイぞ!」
「違う!!」


ライオンヘアーくんもといミナミくんが全力で否定しながら、ほら、とセンゴクくんにミネラルウォーターを投げた。よく見れば、その横にはオールバックくんがあと2本ペットボトルを抱えている。もしかしなくても4人分買ってきたのだろうか。流石THE・良い人。いや別に私にだけ買ってきてくれたとは思わないけど。さっきまで文句を言っていたセンゴクくんはコロリと態度を変えて、わーいありがとー、と笑ってペットボトルを開けた。何だコイツ。オールバックくんがアクツくんとダンくんにペットボトルを手渡すと、アクツくんは無言で飲み始めて、ダンくんが、ヒガシカタ先パイありがとうございます!と笑った。ヒガシカタってなんかカタカタして言いづらいね。
キャップを開けて口に含んだところで、何となくゴーグルくんと目が合った。合った、気がする。水を飲む手は止めずに彼を見つめ返していると、何してんのムロマチ、とセンゴクくんが呟く。するとゴーグルくんもといムロマチくんが、私からセンゴクくんに視線を移す。


「いや、随分落差があるなって」
「落差?」
「千石さんと亜久津さんは平均的に97%以上でクリアしてますけど、Mareさんは2曲目は83%でクリア、その次は98.7%でお2人より良いスコアでクリアしてたんで」


そう機体を見ているムロマチくんに、私も機体を見る。ムロマチくんの言う通り、実はちゃっかり1曲だけ全曲ランクSクリアコンビに勝ったのだ。最近入ったらしい『初音ミクの消失』で。曲自体は知ってたけど、レベル10+とか恐怖しかなくてやってなかったんだよね。でも譜面メチャクチャ楽しかった。後半の同じとこ連続タップ死ね!って思ったけど。あと2人に勝ったのが普通に嬉しくて、やったー!なんてバンザイして大ハシャギしてしまった。まぁ、2人とも97%だからたった1%なんだけどさ、初見でこんなスコア出したのも、化け物みたいな自称初見コンビに勝ったのも嬉しかったんだもん。あとMASTER民にも褒められた。嬉しい。


「そりゃそうでしょー。亜久津達と違って『ちょっと苦手』じゃなくて」
「『もの凄く嫌い』なんだしー?」


ニトベくんとキタくんに、ねっ!と親指立てられた私は、はい、と小さく頷きながら俯いた。だって嫌いなんだもんスライド。目を逸らしていじけていたらアクツくん以外に笑われる。やっぱりアクツくんだけが私の味方だ。あれ?そういえば、MASTER民まだやるって言ってたような。機体の前から退いてMASTER民を見れば、2人が同時に首を傾げる。双子かな。


「まだやってく、んだよ、ね…?」


山吹の制服だから多分同い年か下のはず、とぎこちなくタメで話せば、ポン、と2人が手を叩く。


「「Mareさんも一緒にやる?」」
「MASTERは無理ですごめんなさい」


2人の提案に間髪入れずに頭を下げれば、ドッと笑いが起きた。そんな面白い事言ってない。それに何だかんだもう帰らないとだし。ちらりと時計を見れば、ミナミくんがあっ、と声を上げる。


「もしかして時間とかヤバイ感じか?」
「あ、うん。そろそろ帰ろっかな」
「なんだー残念!」


もっかいやりたかったのにー、と文句を言うセンゴクくんに渇いた笑いが漏れた。コイツ絶対女たらしだ。そんな私にミナミくんとヒガシカタくんが、気をつけて帰ってね、と心配してくれた。良い人だ良い人。ほんとはもっかいやりたかったけど、MASTER民の隣とかやだ怖い。それにいつもはいないんだし、今後会う率は無くなるだろう。
じゃあ、と去る間際で急にセンゴクくんが、分かった!と手を叩く。なんだ、ケー番もメアドもLINEも教えないぞ。


「此処に来ればいつでもMareちゃんに会えるんだよね!」


ニコニコと笑う彼に思わず冷めた目を向ける。俺頭良い!なんて自画自賛する彼をムロマチくんが馬鹿ですか、なんて返すのに、ほんとにな、なんてうっかり口にするとこだった。穴場だけど此処来るのやめよっかな。


「じゃあ今日は楽しかったです。お疲れ様でした。お先失礼します」


なんて心の声を笑顔で隠してゲーセンを出た。あ、ミナミくんにお水代払ってないや。




prev next

top