青学の場合。


この時間は人が少ないから、と訪れる馴染みのゲーセンで今日も今日とて練習に励む。まだまだHARDしか出来なくて、ADVANCEDはレベル低いのがクリア出来たり出来なかったり、なんて私は沢山人がいるところでやる勇気は無くて、誰もいない時に1人で黙々と練習している。友達がやってて「一緒にやろう」と誘われて興味があったからやってみたら楽しくて、友達が一緒なら誰がいてもやるんだけど、1人だと流石に怖くてやれません。だってmaimai勢の皆さんMASTERさんばっかなんだもん。友達だってEXPERTさんだし。だから友達がいない時はずっとやらなかったんだけど、此処のゲーセンはある時間だけ凄くいないって事に気付いてからは練習三昧だ。おかけでスピードは2.0から3.5で出来るようになったし、HARDもランクSが出せるようになった。うん、頑張ろ。
1曲目をランクSでクリアして、あと3曲何をやろうか、なんて悩む。


「何だあれ、見た事ねー!」
「あ、ツイッターで見た!ドラム缶洗濯機!」
「英二、それ多分ドラム式洗濯機じゃないかな」


不意にガヤガヤと騒がしい声がしてちらりと様子を伺えば、男の子の集団がこちらを見て話している。此処のゲーセンは6台置いてあり、私は一番左の右側でやっているので、あと4人私の右隣で出来る訳で。茶髪の美人さんがmaimaiの看板をジッと見つめる。


「最大4人まで一緒に出来るんだって、コレ」
「マジっすか!?よっしゃ越前やろうぜ!」
「メンド…」
「俺もやるーっ!!」


あぁ、やっぱりやるんだ。うう、怖いよぅ。


「不二はやるかい?」
「ううん、見てるよ。タカさんは?」
「俺は壊しちゃいそうだしなぁ」


壊すってどういう事。
そっと見ればとても筋肉ムキムキな優しそうなお兄さんが立っていた。壊す理解。なんて思いつつカウントも少ないので、とりあえず(好きな曲だから)オルフェのADVANCEDを選択した。



―――…


「……ふぅ」


良かった、ランクS出た。隣のお兄さん達がたまに見てて怖かったけど、うん、よし。にしても隣の人達、タップ音的にEXPERTな気がする。見た事無いって言ってた気がしたよ?え、最初からクライマックスかな。そーっとやっていた3人のスコアを見れば、奥の外ハネさんが92.8%、真ん中のツンツンさんが91.2%、私の隣の後輩さんは81.1%、そして全員EXPERTだ。やだ、初見とか嘘だよぅ。なんて横の3人から顔を逸らして機台に項垂れると、えー!と声が上がり、ビクリと声が上がり、ビクリと肩を揺らす。


「おチビ、スコア悪くない!?」
「スピード6.0じゃ遅すぎとか言うんじゃねぇよな?」
「まぁ、もっと速くても見えるけど」
「俺もー!」
「マジっすか!?」


マジっすか。6.0とか未知の世界だよ。3.0が限界だよ私。あ、でも友達も6.0でEXPARTやってるんだよね。スピード6.0じゃないと出来なくなったわ、とか言ってて……あ、別に最初から6.0じゃないからやっぱりお隣さん怖い。うう、なんて思いつつ曲選択をしていると隣の彼がぽつりと呟く。


「―――っスよ」
「え?」
「にゃんだって?」


ツンツンさんと横ハネさんが同時に聞き返すのに、私も彼を見れば、後輩さんは凄くバツが悪そうに顔をしかめていた。


「―――……届かないんスよ、上のボタン」


そう呟いて息吐く彼に、皆さん静かになる。
そして次の瞬間。


「ギャッハッハッハッ!流石おチビ!!」
「そうだよな!高さ足りなブフォwww」
「2人とも笑いすぎだよ」
「なるほど、届かなくて触れなかったからスコア悪かったんだね」
「……っス」


あぁああ分かるぅぅぅ!私も最初届かないってやってたもん、背低いって不利だよねぇぇ!
美人さんが言うのに小さく頷く彼に、私はダンッと台にもたれた。後輩さん、身長私と同じくらいだよ、ね。ボタンって言ってたから、多分気付いてないよね、教えてあげた方が、いいよね。顔を上げたお隣さんを見れば、踏み台とか使うか!?とかまだ笑っていて、キュッと唇を結ぶ。


「あ、あのっ……!」
「ん?」
「え?」


あぁぁ思ったより声が出たぁぁ!美人さんと筋肉さんに振り返られて、ヒィッと声が漏れそうになるのを寸での所で耐える。すると2人の様子に気付いた3人も私の方を見てきて、コミュ障の私はちょっとだけ泣きそうです。しどろもどろする私に、後輩さんが何、と素っ気なく聞いてきた。が、頑張れ私!


「っ、あの、タ、タップは、画面でも、出来ます、よっ」


何とか声と勇気を振り絞って液晶画面を指さして伝えると、全員にきょとんとされる。あ、ダメ心折れそう。こんな時、人見知りしない友達居てくれたらいいのに。えぇっとぉ、と再びどもる私に、美人さんが首を傾げた。


「タップ、ってボタンを叩く事?」
「へ?!あ、あの、ボタンと言うかっ、このリングきた時に叩く事と、いうか!」
「画面でも、ってどういう事?」


後輩さんが私に向き直り聞いてくるので、えっと、と彼が使っていた台の左上を指差す。


「曲が始まると、丁度ボタンの位置にちょんって点が、あの、あってですね」
「スライドの時に見る!あのポチってスライドの時の目印じゃないの!?」


ひょこっとツンツンさんの後ろから顔出す外ハネさんに、ブンブン勢い良く首を横に振る。


「そこ、さわると、ボタンタップと同じこと出来るんです。その、私も、上のボタン、届かない、ので」


おずおず答えれば、ツンツンさんと外ハネさんが、へー!と声を上げ、後輩さんはジッと画面を見つめていた。大丈夫かな、説明下手だから、ちゃんと伝わればいいな。
オロオロとお隣さん達を見ていれば、筋肉さんが私の方を見て首を傾げた。何、だろ。同じように首を傾げると、それに気付いた美人さんがあぁ、と声を上げる。


「ねぇ」
「はっはいっ!!」
「曲始まってるけど、大丈夫?」
「え、ぅわぁぁぁままま待ってぇ!!」


私の使ってた台を指差す美人さんにつられて見れば、何か全然知らない曲が始まっていて慌てて台に向かった。ドッと笑い声が聞こえてくるし、知らない曲だしADVANCEDだしで訳わかんなくて泣きそう!!;;



―――……


「お疲れ様」


ヒィヒィ言いながらやった2曲目はギリギリだけど81.1%、ランクAでした。ぷよ〇よじゃないけど始める前に「はっじまっるよー!」とか言ってよ。労いの言葉をかけてくれた美人さんに、ありがとうございます、と頭を下げてからお隣さん達を見る。あれ?外ハネさんと後輩さんのスピード上がってない?え、怖い。
あ、でも。なんて上のスコアを見てたら丁度曲が終わった。


「っしゃ」
「だぁあ!!越前急にスコア良くなってんじゃねぇか!!」
「やーい、桃がビリー!」
「英二先パイひでぇ!!」
「まだまだだね」


3人のスコアは後輩さん……越前さん、が96.3%、ツンツンさん(桃さんかな)91.6%、外ハネさん、じゃなくて英二さんが98.8%だ。え、やだ怖い。そしてやっぱり桃さん以外の2人はスピード9.0だった。待って、6.0から一気に上げすぎじゃないですか?しかもスコア良くなってるとか、え、私もうmaimai出来ない。ちゃんと次にやる曲の画面にしてから呆然とお隣さんを眺めていたら、隣の越前さんが私の方をふっと見る。


「画面のがやりやすかったよ、どーも」


なんて手をひらひらさせる彼の後ろで、桃さんと英二さんが目を見開いて口を大きく開けていて、私は越前さんではなく後ろのお二人をきょとんと見つめる。


「おチビが……!」
「お礼言った……!?」


そんなに驚く事なんですか。美人さんが肩震わせて笑ってて、筋肉さんもハハッと苦笑していた。とりあえず役に立てたみたいで良かった。いえいえと深々頭を下げれば、ふっと私の隣に影が出来て顔を上げると、逆光でよく見えないけど長身の眼鏡さんとバンダナの強面さんが立っていた。突然だったので、ヒッ、と声が漏れて距離を取るように勢い良く台の方へと逃げる。


「乾、海堂ー!女の子恐がらせちゃダメだろー!」
「あぁ、すまない。そんなつもりは無かったんだが」
「乾は背が高いから」


美人さんがそう笑っていて、乾さんと呼ばれた眼鏡さんが頭をかいて、海堂さんが私に向かって軽く頭を下げた。良い人、そう、だけど、怖い。私も小さく頭を下げれば、お二人の後ろに更に二人いるのが見えて固まる。


「お前達、一体此処で何をしている」


なんか先生来た。
いやでも、まだ4時半くらいのはずだから怒られ……ないよね?大丈夫、だ、よね……?ピタリと固まった私の横で越前さんが、部長、と呟いた。…………部長?


「あっ!手塚に大石!皆もやる!?」
「やるって……これか?」
「そっす!結構面白いッスよ!」
「反射神経を鍛えるゲーム、って感じかな」


英二さん、坊主頭さん、桃さん、美人さんと口々に話していく。あぁぁ皆さん知り合いなんだ、どうしよう此処凄く心臓に悪い。男の人いっぱい。どんどん縮こまっていく私に、筋肉さんが大丈夫かい?と声を掛けてくれた。優しい。そんな中、ジッと部長さんが私のいる台を眺めていて、私はそんな部長さんを眺める。先生にしか、見えない。見えないけど、良く見たら学ラン着てるし、テニスのバッグ持ってるし、本当に学生さんなのかな。ちらりと他の皆さんを見れば、皆同じバッグを持っていて、バッグには『SEIGAKU』とロゴが入っていた。あ、青学の人達なんだ。え、て事は私の2つ下か1つ下か同い年しかいないの?え、嘘だー。それに青学テニス部って確か凄く強いんだよね。そんな凄い人達、なのか。


「おい」
「はいぃぃ!!」


あぁぁ声裏返ったぁぁ。海堂さんごめんなさいごめんなさい、ビックリしただけなんです!若干半泣きで彼を見れば、少し困った顔をしていて更に申し訳ない気持ちになる。ごめんなさい、でも急に声掛けるから。なんて思いつつ見つめていれば、スっと指さされる。


「始まってるけど、いいのか」
「え?きゃぅえあぁぁ!うそうそうそ!!」


慌ててタップを始めれば英二さんと桃さんの笑い声がして、もう本当に心が折れそう、やだ。



―――……


「お疲れ様」


今度は坊主頭さんが労いの言葉をくれて、ヒィヒィしつつも頭を下げた。83.4%クリアで良かった。最初叩けてなかったのに良かった。


「成程、あの輪をタイミング良く叩いていくのか」


部長さんがお隣の3人のを見ながら呟く。輪って。何か部長さんが言うと凄いお父さんとかと話してる気にな、あ気にしてたらどうしよう。なんて思ってたら、乾さんが書き込んでいたノートから私へと向き直る。


「えっと……Mareさん、でいいのかな」
「あ、はっ、はい!」
「Mareさん良く言えば丁寧、悪く言えば鈍臭いかな」
「うあ、はい……」
「乾先輩……」
「直球過ぎるよ……」


海堂さん筋肉さんありがとう。乾さんの言葉でちょっとだけ心抉られたよ。いや鈍臭いけど、けどね。シュンとしていたら不意に乾さんが近付いてきて、私が顔を上げた時にはmaimaiと乾さんの間に挟まれていた。


「設定ボタンは……これかな」


う、うわぁぁぁあ!か、壁ドン、壁ドンされてるぅぅう!あ、maimaiだからmaiドンかな!?ていうか乾さん最初も思ったけど背高いですね!?あああこうして見上げると顔立ち整ってるし、もしかしてイケメンさんなんじゃないでしょうか!ひぃぃ私イケメンさんに人生初の壁ドンならぬmaiドンされ、あぁぁ距離!距離近いぃぃい!!


「Mareさん、知らない曲はやらない人?」
「いっいやっ!知ってるのの方が少ないであります!」
「じゃあ問題無いね、はい」


そう言って私の肩を掴むとくるりと反転させた。目の前が乾さんでは無く筐体になって、ボーカロイドのおちゃめ機能のEXPERTで選択されていて、え、と声を漏らす。


「一度これでやってみようか」


パン、と後ろから決定ボタンが押されて目の前の曲が始まって。


「うぇぇえぇ!?ままままっふえあぁ!?」


EXPERTなんかやった事ありません!!なんて鬼畜な事してくれるんですか!!



―――……


「おっ、おわっ、おわ……った……」


筐体にもたれかかってゼーハーしていると美人さんと筋肉さんが拍手してくれて、海堂さんがお疲れっス、と一言くれた。良い人だ。そしてド鬼畜乾さんは何やらメモをとっていて、私1回殴ってもいい気がするの。ときめきとか色々な意味で。もうきっと散々なスコアなんだ、なんてスコアを見て目を丸くする。スコアは89.3%ランクAAだった。え、嘘。本当にこれEXPERT?ううん?と首を捻れば後ろに乾さんがやってきて、やっぱりね、と呟いた。やっぱり?と上を見上げれば彼の顔が見えて、乾さんは眼鏡をくいっと上げた。


「スピードを+1.5上げた方が完全に目で追えなくなる分、切羽詰まって反射だけで追うようになるからね。EXPERTの簡単なのなら出来ると思ったんだ」


お疲れ様、と肩を優しく叩かれる。呆然とする私の横に誰かが立っていて、見れば部長さんがいて。


「初めて挑戦するのだろう?最後まで諦めないその姿勢はとても良かった」


先生だ……!グッと拳を握れば美人さんがクツクツと笑った。何だか私の気持ちバレてる気がするの。でも本当に嬉しい。今度は友達と同じレベルで出来るって事だもん、ね。えへへ、と笑えば終わったらしい隣の英二さんがやったね!とVサインをしてくれたので深々頭を下げた。青学さん良い人達だ。あれ?というかお隣さんもう4曲やっちゃったんだ、早い。なんてお隣の終了画面を見つめていたら、桃さんが海堂さんの所まで近付いていき声掛ける。


「マムシ、次やろうぜ!」
「あ?やらねぇよ」
「んだよ、負けんのが恐いのかぁ?」
「……上等だ、なめんじゃねぇぞ」
「やんのかコラァ!」
「やってやろうじゃねぇか、ぁあ!?」


怖い、待って怖い。
一歩後ずされば、あれいつもなんだゴメン、と坊主頭さんが苦笑した。いつもなの?え、怖い。お2人共良い人なのにヤンキーさんなんだ。


「桃と海堂が始めちゃって、あと4台空いてるけどどうする?」


曲選択に入ってるお2人をぼんやり見つめていたら、筋肉さんが首を傾げる。皆さんやってかれるのかな。人いる所でやるの怖いけど、さっきの感じもう一回だけやっておきたいから終わるの待ってよう。筐体から離れてこっそりと待機列に座ると、目の前で青学さん達が話し始める。


「ちょっと面白そうだから僕やってみようかな。手塚も、どう?」
「……そうだな、あまりこういったものはやらないが」
「大石やろー!」
「え、俺はいいよ。見てるから」
「チェッ、じゃあ俺も見てるー!乾とタカさんはー?」
「俺はいいよ」
「面白いデータが取れそうだからね、見てるよ」
「じゃあ俺入っていいっスか?部長と不二先パイと戦える機会って早々無いし」


いつの間にか私の隣に座ってジュースを飲んでいた越前さんが、不敵な笑みで手を上げる。それに一拍あってから、不二さん?が、いいね面白い、と微笑んだ。そっか、テニスだとチームメイトだから滅多に試合とかないものね。でも代わりがmaimaiでいいの?なんて思って越前さんを見れば、何故か目が合ってビクリと肩を揺らす。


「あと一台空いてるから、やるなら入れば?」


そう言って筐体を指差す彼にフリーズする。え、初見でEXPERTをスピード9.0でやる人と、その先輩方に交ざってとか何の苦行、あ違う修行かな。するとぽんと肩を叩かれてそっと振り返ると、良い笑顔の乾さんが居た。あ、嫌な予感しかしません。


「どうせやるつもりだったのなら、VSモードにしたら皆違うレベルで出来るんだし入ったらどう?その方が効率もいいし、何ならサポートはするけど?」
「ううう嘘だ!彼女が入った方が面白いデータが取れそうだ、とか、もう少しスピードを上げてみたらスコアはどのくらい変わるのか気になる、とかどうせそんな理由なんだ!」
「それは心外だな」
「乾……」
「この短期間で性格バレバレじゃんw」


坊主頭……確か大石さんと英二さんが肩を落として呆れている横で、ハハッなんて笑う乾さんに猫よろしくフーっと警戒していれば不二さんに物凄く笑われた。だって乾さん、絶対私で遊ぶ気だもん。


「でも、僕達とやるのが嫌じゃなかったらほんとにどうかな?」


クスクスと笑いながら不二さんが問い掛けてくるのに一瞬躊躇する。本当はちょっとだけ、一緒にやってみたいとは思うけど。でも。少し悩んでから顔を上げる。


「「やりたいです」」


……ん?今、私以外の声がしたような?まさかと思って見れば乾さんがにぃと笑った。


「……と言う確率88.2%」


もうこの人嫌い。



―――……


そんなこんなでやる事になったのですが、並びが左から越前くん・不二さん・部長さんと並んでいまして、必然的に私は部長さんの隣な訳でして。


「部長さんっ、おっおおお、お隣失礼致しますっ!!」
「此方こそ不慣れだが宜しく頼む」
「上司と部下……」
「英二、シー!」


気分はそんな感じです。
挟まれないだけマシ挟まれないだけマシ、と心の中で唱えながら隣に立つ。私だけAimeカードをかざした状態で曲選択画面まで移る。


「スピードはどのくらいがベストなのかな」
「あ、えぇっと、越前さんのスピードは見えて、ました?」
「ううん、越前と英二の動体視力はウチで随一だからね」


不二さんの言葉にそっと様子を伺えば部長さんも私を見て頷く。良かった、お2人も9.0は見えないんだ。そしたら私と同じくらいかななんて思っていたら部長さんが口を開く。


「曲が違うから判断し難いのだが、彼女がスピード4.5でやっていたのと桃城のスピードでは彼女の方が画面に輪が多いように感じたのだが出てくる個数が変わるのか?」
「いや、同曲で出てくるリングの数は同じだよ」


間髪入れずに乾さんが答える。4人で振り返ると彼は眼鏡をくいと上げてノートを開く。


「先程見た感じ、スピードに違いは合ってもトータルタップ数は全員同じだった。恐らくレベルが上がるだけタップ数が増えるからスピードが遅ければ遅いほど連なって出てくるんだよ」


まぁ難易度が同じなのに違う事はないだろうね、と乾さんが笑った。
あのノート何が書いてあるんだろう。ホント怖いよデータマニアなのかな、数学好きそうだもん。なんて見ていたら越前さんが、でどの曲にします?なんて画面をスクロールしている。我が道を行くなぁ彼も。置いてけぼりになっていると不意に部長さんに声を掛けられて顔を上げる。


「済まないがスピードを桃城と同じにしたいのだが」
「う、うわわ合点喜んで!!」
「ハハッ、Mareさんって面白いね」


うう、タカさん(鷹さん、なのかな)に笑われた……。あ、ごめん、と慌てて謝ってくれたからやっぱり良い人。
失礼します、と部長さんの筐体の設定を変えていると、不二さんも自分で設定を変えていて、そんな中越前さんがコレでいいっスか、と画面を指差す。うん、オススメ楽曲の一番上とかホントどれでもいいんだなぁ。あ、レベル9だからADVANCEにしよっかな。なんて思いつつ部長さんに出来ました、と頭を下げてから自分の筐体の前に戻るとEXPERTのスピード4.5のまま確定になっていてフリーズする。待って、私押した記憶無い。何故か右隣に立つ乾さんをゆっくりと見上げれば先程も見た笑顔。


「一旦これでやってみようか」
「もうホントに大嫌いです乾さんのバカ」
「ハハッ、酷い言われ様だな」


初めて会った人にこんな言い方したくないけど乾さん鬼畜、バカ、嫌い。全く気にしませんといった風に笑う彼にささやかな抗議の念も込めて乾さんの袖をブンブンと掴んで振っている私の後ろで、EXPERTにしておくか、と部長さんがボタンを押す音がした。青学さん自由すぎませんか。



―――……


「もう、もうやだ……」
「最後の曲は手塚に負けちゃったね」
「チェッ」
「中々面白いものだな。今日は良い経験をした」
「Mareさんはスピード4.5が限界、連続タップは得意で長押しとスライド同時が苦手、と」
「なぁ乾、そんなデータまで取って何に使うんだ……?」


それは私も気になります。大石さんの問いに私も乾さんを見れば、まあ一応ね、と彼がノートを閉じた。
結局最初だけでなく私の抵抗虚しく4曲全て乾さんに好き勝手設定されてしまい、半泣きでずっとやってました。こんな疲れたの初めてだよ、ヘロヘロだよ。ちなみに1曲目は越前さん、2・3曲目は不二さん、最後は部長さんが1位になりました。私はずっとビリです、何で初見EXPERTを90%超えするのか分かりません。でもさー、と英二さんが声を上げたので全員が其方を見る。


「Mareさん全部80%超えでしょ?乾のおかげか分かんないけどメッチャ頑張ったよね!お疲れ様!!」


ピースしてニカッと笑う英二さんに顔が熱くなって、ありがとうございます、と俯いた。皆さんより出来てないのにそんな風に言って貰えると嬉しい。他の皆さんや、お隣でやってた桃さんや海堂さんにまでお疲れ様なんて優しい言葉を掛けてくれて、皆さんにも頭を下げる。優しい人達で、泣きそう。
ちらりと乾さんを見ると、どうかした?と首を傾げた。


「あの、ホント、乾さんの鬼畜嫌い、って思ってたんですけど、EXPERT初めてこんなに出来て嬉しかったです。その……嫌いとかバカとか言ってゴメンなさい」


深々お辞儀すると、暫く反応が無くてそっと顔を上げれば乾さんが多分目を丸くしていた。変な事、言ってないよね?キョトンとしている私に不二さんが笑って肩を叩く。


「あれだけ好き勝手やってた相手に謝っちゃうんだからMareさんって良い人だよね」
「お人好し」


ぽつりと越前さんにまで言われて今度は私が目を丸くする。だってその場の勢いで酷い事言っちゃったから謝らなきゃって思ったんだもん。あ、それで乾さん驚いてたのかな。ふと腕時計を見て、うわ、と声を上げる。


「ゴ、ゴゴゴゴゴメンなさい!急いで帰らないとで、あの、今日はありがとうございました!」


慌てて鞄を引っ掴んでお辞儀してから走り出すと、Mareさん、と乾さんに呼び止められて振り返る。


「よく此処に来るならまた見に来るよ。気を付けて帰って」


そう微笑んだ彼に、少し合ってから、はい!と笑ってもう一度頭を下げてから再び走り出した。
色々あったけど青学さんにまた会えたらいいな。今度友達にも話してみよう。




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