たまにはそちらもいいけども



「わー!日吉、今日メガネなの?レアだね!」

ガチャリと部室のドアが開いた音がしたと思えば、鳳の声がまだまだ人の少ない部室に響き渡った。目を向ければ確かに。ドアからかなり遠い位置に鎮座するソファーに座っているとはいえ、常人とは比べ物にならないほど良い眼を持つ跡部にとってみれば、問題なく迷惑そうな顔をしている日吉の表情までが見える。そしてもちろん、普段見たことのない縁が太めの黒フレームのメガネも。

「コンタクトが切れたんだ、いちいち騒ぐな鬱陶しい」
「ねえねえ、珍しいから写真撮ってもいい?」
「...おまえ、人の話ちゃんと聞いてたか?」

呆れきった声色を隠そうともしない日吉を全く取り合わず、鳳はロッカーから自分のスマホを取り出して自撮りを始めた。初めはかなり嫌がっていた日吉も、ごねればごねるほど解放されるまでが長くなるだけだと勘づいたのか、途中から大人しくされるがままになっている。この空間にいるもう一人、宍戸はそんな後輩二人を暖かな目で見つめている。

「宍戸さん!跡部さん!良かったらお二人も一緒に写真撮りましょう!」
「鳳!お前何勝手に...!」
「お、いいぞ」
「宍戸さん!止めてくださいよ!」
「どれ、俺様が撮ってやろう」
「跡部さん!?」

鳳からスマホを受け取り、内カメになっていることを確認してから、4人全員が入るように調整する。宍戸と鳳が仲良さげに肩を組んでいる横で、肩身が狭そうに映り込んでいる日吉が面白くてそのまま写真を撮る。

「なあ、日吉よ」
「なんです...、っ!」

一声かけてからグイッと肩を引き寄せて、再度写真を撮る。確認すれば、なかなかにキメ顔で映っている自分と、今度はポカンと間抜けな顔をした日吉が綺麗に映っていた。これ、後でくれ、と鳳にスマホを返すと、はい!と元気な声が返ってくる。

「あんた一体なんのつもりで...っ!」

語気を荒げて俺に詰め寄ってくる日吉は、怒っているのかそれとも照れているのか耳まで真っ赤だ。そんな状態で詰め寄られても1mmも怖くないんだがな。丁度いい身長差になったので、いたずらにその顔からメガネを奪い取る。長ったらしい前髪から覗く琥珀色の瞳がよく見える。

「...やっぱりそっちの方がいいな」
「はあ?」
「レンズ越しだなんてムカつくぜ、そんなもん通さずに俺を見てろ」
「...っ、普段もコンタクトなんでレンズ越しですがっ!」
「む、確かに」

俯いたのちに顔を上げた日吉は、俺が一等大好きなギラギラと人を睨めつける挑戦的な光を瞳に宿していた。

「...言われなくても、下克上するまではアンタしか目に入ってませんよ」
「ほーう、それならまあ、いいだろう」

満足気に髪の毛をわしゃわしゃと撫でたら、あっという間にボサボサになったというのに、日吉の頭の一振で髪型がすっかり元に戻るのが楽しくて、無心でいじり倒すとまたもや耳まで真っ赤にして日吉が静止の声を上げるのもまた可愛いものだ。