ぜんぶ初めて



告白をしたのは日吉からだった。

告白というより事故のようなもので、部長職の引き継ぎをしている最中、本当に無意識に言葉が漏れてしまったのだ。
カリカリと紙にシャーペンを走らせる音を響かせながら、ふと目線を上げれば同じように机に向かってペンを走らせる跡部の姿が目に入る。
紙へと向かう眼差しは真剣で、けれどそこに試合中のときに見える苛烈さはない。それが随分と寂しく感じた。

もっと跡部さんのテニスを見ていたかった。華やかで、綺麗で、一目見ただけで惚れ込んでしまった貴方のテニスを、もっと見ていたかった。
戻らない夏を思えば、手の中のシャーペンを握りしめる力が強まった。

「好きです」

こぼれた言葉は常日頃自分の語彙にはないもので、そして同時に今の自分の心境を表すのにとても適していた。
手をはたと止めて、まるでスローモーションのように跡部が顔を上げて日吉を見返す。

「それは、何に対してだ」
「たぶん、全部です」
貴方を構成する全部が好きです。

とても愛の告白をしているとは思えない表情だった。苦しげに眉根が寄せられていて、ともすれば泣き出してしまいそうな雰囲気だった。

「熱烈な告白だな」

跡部はくるりと手の中でペンを回し、コトリと小さく音を立てて机の上にペンを置いた。
席を立って日吉へと足を進めれば、緊張したように日吉の体が固まった。椅子に座っている日吉を見下ろす形で跡部が目の前へと立つ。

白シャツに包まれた右腕が伸ばされて、トンと日吉の胸の中央に指が置かれる。
「努力を忘れないひたむきな向上心が好きだ」

日吉の座っている椅子に片膝を乗せ、さらに跡部は体を近づけた。左手がズボン越しに日吉の太ももに触れた。
「真っ直ぐに俺を追いかける姿が好きだ」

長い指先が前髪の隙間を割りいって、隠れがちの瞳を明らかにする。
「好戦的な瞳が好きだ、背中が焦げ付きそうなほどの熱視線が特に好きだ」

顔の輪郭をなぞり、そのまま唇へと触れる。カサついた唇の感触が指へと伝わる。
「俺の名前を呼ぶお前の声が好きだ」

親指で唇の縁をなぞれば、中からチロリと赤い舌が覗く。
「お前のに比べたら熱が足りねぇか」

独り言のように呟かれた跡部の言葉に、日吉はブンブンと首をふる。そんなにも雄弁な目つきをしていて何を言い出すのか。そこにはありありと跡部の心境が映し出されていて、試合のときとは別ベクトルの熱で燃え上がっていた。
ゆっくりと近付いてくる跡部の顔から目をそらすことも、瞑って凌ぐことも出来なかった。深い青がまっすぐと琥珀を射抜いている。

キスをしたのは跡部からだった。