2018.12.04



カーテンに柔らかく風が吹き込んで、教室内にふわりと白が舞い踊っている。

「のう、柳生。今日は何の日か知っとるかの?」

机の上に寝そべりながら、首だけをかろうじて上にあげて、本を読みふけっている柳生へと言葉を投げかける。本越しに眼鏡を押し上げた柳生は少し俯いてから考え込むような素振りを見せて、口を開いた。

「血清療法の日ですね」
「は?なんじゃそれ」
「1890年、エミール・ベーリングと北里柴三郎が血清療法開発につながる破傷風とジフテリアの抗体を発見したことから名付けられた日だそうですよ」
「ほーん、柳生さんは物知りじゃのう」
「今調べただけですけどね」

瞳を愉快そうに弓なりに曲げて、本の後ろからスマホを取り出してひらひらと振る。してやったり、みたいな顔は到底紳士なんて呼び名とは程遠い。

「…お前さん、良い性格しとるの」
「今頃ですか?仁王くん」

にっこりと人好きのする笑みを浮かべた柳生に、仁王もまた呆れたように大きく息を吐いた。頭を持ち上げて、机の上に頬杖をつく。銀の尻尾をくるんと指で弄りながら、半目で柳生を見やる。いつの間にやらスピンを挟み込んだ文庫本が閉じられて、スマホと一緒に机の上に置かれていた。
机にかかっている鞄をごそごそと探って、柳生がなにか袋らしきものを取り出す。茶色の小袋に包まれたそれは、チョコレートカラーのテープで封をされていて、仁王の目の前にずいと押し出される。

「ん?なんじゃ?」

突然の紙袋の登場に仁王の声色が少し慌てる。

「お誕生日おめでとうございます、仁王くん。の、品です」

急に改まって言うから、思わず仁王の目が点になる。透明度の低い眼鏡が柳生の瞳を隠すから、仁王からは柳生の表情が上手くは読み取れないが、かすかに赤くなった耳に吸い寄せられるように目線が向いた。ありがとう、と呟きながら受け取って教室に持ってきていた鞄の中にそっとしまい込む。

「…本当に忘れられとるのかと思った」
「忘れませんよ、大事なパートナーが生まれた日ですから」

そう言ってブリッジを押し上げる柳生は口元に柔らかく笑みを浮かべていた。一応、さっきまでのはぐらかしも全部、照れ隠しだということなのだろうか。柳生もよっぽどの詐欺師だ、と仁王は心の中でそっとごちた。本人に言うと面倒な言い争いが始まるので絶対に口にはしないが。

「やっぱりお前さん、良い性格しとるの」
「そんなに褒めないでくださいよ」
「褒めとらんよ、そういうところ、好きだけどのう」

顔を近付けて耳元で甘く囁けば、柳生は首元までを真っ赤に染め上げる。その様子を見て、仁王はケラケラと笑い声をあげて、満足げな笑みを口元に浮かべた。

家に帰って袋をあけるのが楽しみだ。けどその前に、恋人と一緒に帰り道を歩くのだって自分にとっては幸せなプレゼントなのだということは、もう少し先まで黙っておこうと思う。