黒尾と銀髪
「おはよう黒尾。今日も朝練か?」
突拍子もなく聞こえてきた特徴的な声に少し驚いた。
振り向けば綺麗な銀髪が目に入ってきてその眩しさに少し目を細めた。
「あぁ仁王、おはよう。そうだけど、お前今日早いな」
「ん……朝早く来て寝ようと思ってのぉ……」
「それ朝早く来た意味あんのかよ」
「家はおかんがうるさいから寝れん」
だから学校がいいんじゃ、という彼女に少し呆れながら笑った。
綺麗な銀髪を襟足の方で束ねている彼女−−仁王雅美はクラスメイトだ。一際目の引く銀髪に、透き通った金色の瞳。端正な顔立ちをしていて、口元の黒子が妙に妖艶だった。最初は見た目から不良かと思ったらそうでもないらしい。派手な髪の毛は地毛で瞳の色もカラコンでないそうで、弟も同じような感じだと誰かに話していたのを聞いた。方言も独特で、以前出身地を聞いたときは上手くはぐらかされた。
自分の中で仁王雅美はただの美人なクラスメイト、という印象だ。たった一つ何かを上げるなら、中庭で猫とじゃれて遊んでいる姿を見て少し親近感を持っていた。
「寝癖、ひどいぜよ」
「あ? ああ、これどうやっても直せねェんだよな」
「トサカっぽいのぉ……プッ……」
「笑うなよ、自覚はしてんだから」
「……く、ククッ……考えなければ良かったぜよ……腹が痛い」
「お前なあ……」
腹を抱えて笑う様はあんまり普段の生活では見ないもので少し驚いた。基本的に学校では寝るか食うかしかしていないからか、ガッツリ動いているところを見るのも珍しい。笑っている姿を観察すると髪を束ねているのは髪ゴムではなくて赤い紐とか、思った以上に身長が大きいとかいろいろな発見をした。ジッと仁王を観察している自分が変態のように感じてきて、どうにもむず痒い感覚に襲われた。そうしている間にも彼女は笑っていて。お前笑いすぎ、と文句を言えばごめん無理笑う、とご返事を頂いた。
彼女はひとしきり笑い終わると、ふうと息を吐いた。
「ほれ、朝練に行かんくてええのか?」
「そうだな……そろそろ行かねェと」
スマホで時間を確認すれば丁度朝練が始まる15分前だった。
教えてくれた彼女にお礼を言うと、スポーツバックを持つ手に力を入れた。頑張れよ、と言われたので彼女にはおやすみと返事をしておいた。そうすれば笑って、ほら早う行けと急かされる。
「ん。じゃあな」
「また教室でのう」
右手を挙げて返事をする仁王に自分も右手を挙げて返事をした。
そのまま体育館へ向かおうと足を進めようとしたとき声が掛かった。
「あ、黒尾」
「なんだよ」
振り向けば先程と同じように銀色は眩しかった。
「面白かったぜよ。黒尾との会話」
そう言ってニコリと笑う仁王。
柄にもなく顔が火照ってしまいそうになったから、少し早足で体育館へ急いだ。
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