黒尾と匂い
ちょうど月末で席替えが行われた。席替えは公正に行うために事前に先生がくじを作ってきて、そのくじを引く仕組みだ。
自分が引いた席は窓側の後ろから2番目。どうせなら1番後ろが良かったと思ったがすぐにその考えは打ち消された。
「ん? あぁ黒尾か。これからよろしくのう」
「……おお、よろしく」
目の前からやってきた銀髪は自分の後の席だったようで、挨拶をして自分の隣を過ぎていった。この席当たりだな、そう思った時鼻に何かが掠めた。
「どうかしたか?」
「……なんでもねェ」
甘い、匂い。男臭い自分達とは無縁のもの。くどくないくらい、ちょうどいい香り。
ちょっとした動揺を彼女には見抜かれたが何もなかったことにして誤魔化した。後ろからはふーんという興味無さげな声。うまく行ったようだった。
先程のは一体何だったんだろうか。女子というのはああいうものなのだろうか。頭の中で同じ様な事がぐるぐると回る。ああ、何も身に入らない。周りから見てもそうだったようで夜久がわざわざ自分の席まで来て心配の声をくれた。それに対して大丈夫だ、と返事をしてまた物思いに耽る。
最近の自分はどこかおかしい。いつだったかは忘れたが研磨にも同じことを言われた。なにか心配事があるわけでもないのにここまで心ここにあらずの状態が続くのはおかしい。正直に言って、こんな女子の匂いだけでここまで翻弄されたのは初めてだ。恋愛経験皆無、なんて純情を持ち合わせているわけがないんだから女子の匂いなんて何度も嗅いでいるはずなのだ。それなのにここまで翻弄されるとは。一体どういうことなんだ。
「おまん……おい……黒尾」
「……あ、ごめん。ボケっとしてたわ」
「午前中ずっとそうじゃったのう……。本当に大丈夫か?」
「平気だって……ノートなんにも書いてないけど」
何を思ったのか後ろの席の銀髪から肩を叩かれた。それに加えて自分もを呼んでいたみたいだが、案の定気が付くまでに時間があった。その理由が貴方です、とは言えずまた平気だと誤魔化せば目の前には4冊程のノート。どういう意味だ、と頭にはてなマークを浮かべていれば彼女は写さんのか、と疑問符で返事をしてきた。
「いいのかよ」
「いいからこうやって渡してるぜよ。早う受け取れ」
ん、とノートを受け取れと言わんばかりに突き出してくる彼女の手。ありがとうと言いながら受け取れば満足したのか、先日見たニコリとした笑みを浮かべた。彼女の笑っている顔なんて、妖艶なものか企みがありそうな顔しか見たことがなかった。先日に引き続き今日も見たこの笑顔は彼女の大人っぽい見た目や中身には似ても似つかない純粋な笑みで、自分はそれに弱いようだった。
「しっかりするぜよ、主将サン」
そう彼女は言ったときには悪戯な笑みに変わっていた。
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