ストーカーはいけません

「かわ……かわ……ふ……かわいい……はぁ……」
「……ストーカー、周り見ろ」
「今日も研磨くん……う、ふふ……」
「駄目だ、聞いてねェ」

今日も研磨に用事があって2年の教室に行けば、いた。
研磨に異常なほど執着を見せるストーカー女。基、伊東雅美。小学校……いや、幼稚園の頃から俺と研磨とストーカーは一緒だった。その頃はまだ普通だった、はずなんだが。

「研磨くぅん……はぅ……」

小学校の6年生頃。俺が中2、研磨が中1のとき。彼女はどこかに一本頭のネジを落としてきてしまったらしい。
夏の暑い日。突如俺の前に現れたヤツは大層赤い顔になって言った。

『どうしよう……研磨くんが、研磨くんがかわいくて仕方がないの……。クロどうしよううう!』

最初は可愛い恋だと思った。幼馴染の恋だから応援しようと思ったんだ。しかし、中学生のはずなのに高校に顔を出したり、異常なまでの登下校のエンカウント率に俺は気づいてしまった。
こいつ……ストーカーじゃねェか!

「クロ、どうしかした……って雅美もいる」
「私が居ちゃ悪いの?」
「別にいいけど、さっきもいなかった?」
「移動授業だったからじゃない?」
「そう」

しかも質が悪いのが彼女の必殺、猫かぶりだ。絶対に研磨の前ではボロを出さない。いやもう既にボロを出さなさ過ぎて軽くツンデレになってる。おい、少し前とは大違いだぞ。そして研磨。少しはこいつの変な行動を疑問に思え。お前人間観察得意じゃなかったか? コートの中だけなのか?

「そういえば、さっき3年の先輩がクロのこと探してたわよ。早く行ったほうがいいんじゃない?」

研磨に熱い視線を送っていたら突然ストーカーにそう言われた。最初は先輩? あれ誰だ? 山本か? それとも夜久? と思ったが彼女の顔を見てすべてを理解した。こいつ……俺を追い出そうとしてやがる……! 
先程の彼女の言葉(訳)は「てめえ私と研磨くんの空間を邪魔してんじゃねえよ。早くどっか行け地に落ちろ」だ。加えて激しい嫉妬の色を灯した目で訴えてくるものだから、これは一種の暴力だと思う。居づらい。居づらいったらありゃしない。
これは雅美の機嫌を取るためにもさっさと用件伝えて帰ったほうがいいかもな。

「あー、そうだな。研磨、今日の部活なくなったからな。それだけ伝えに来た」
「そう。わかった。ありがと」

「ちょ、ちょっと待って! 今日オフの日なの?!」

研磨達に背中を向けて自身のクラスに戻ろうとしたとき、彼女が話しかけてきた。先程言ったことだから少し呆れを含んだ声で肯定の言葉を紡げば、顔を真っ赤にさせて物凄い勢いで研磨の方を向いた。

「け、研磨……! きょ、今日……一緒に帰らない?!」
「え、別にいいけど」
「……じゃ、じゃあ……昇降口……」
「クロもいいよね?」
「あ? 俺?」
「え?」
「え、クロだめ?」
「や、平気だけど……」
「あ、ああ! そうね、クロもいないとね!!」


け、研磨あああああ!!!
お前、察しろよ! 一緒に帰りたいって行ってる時点で察しろよ! もう雅美に関しても俺に対する嫉妬どころか悲しみの淵にいるよアイツ!
少し俯きがちで暗い雰囲気を纏ったストーカーは愛想笑いをしながら、次の授業に行くと言って1年のクラスに戻って行った。
雅美の後ろ姿を見る研磨を見てため息をついた。

「クロ、どうかした?」
「いや、まあ、ストーカーに同情した」
「……ストーカー?」




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