過去はいつも横たわっている
※百合



 愛多きガウェイン。大食らいのガウェイン。なんて彼女に似合わない呼び名だろう、と嘆息する私に、バーゲストははっと顔を上げて「何か悩みでもあるのか」と問うてきた。マイルームのドアの近くで番をしてくれていた彼女に、いいえとかぶりを振って「そうじゃないの」と答える。
「そうか」
「そう。ただ少し考え事をしてただけ」
 愛する恋人を■■てしまう本能に苛まれる彼女に、果たしてこのことを言ってもいいものだろうか。彼女はこの本能に少なからず苦しめられているはずだ。大食らいのガウェインなどという呼び名も——不名誉で、それでいて事実で、彼女にとっては苦しいものなのじゃないだろうか。

「考え事、というと?」
「んん……そうね、」
「言えないことか?」
「いいえ」

 不躾に話すのは気が引けてしまうことだけれど、決して言えないことではない。ふるふると横へ首を振った私に、彼女は「そうか」と頷いて、もし良ければ話してほしい、と続けた。
 「私はお前の恋人なのだから、できることなら力になりたい」と言外に訴えてくる真摯な眼差しに、小さく息を吐いて、なるべくなんてことないように告げる。

「私を■■たいと思う、バーゲスト」

 は、と彼女が息を呑むのがわかった。薄緑の目が驚きに見開かれ、「それは」とか細く震えた声がバーゲストの口から漏れる。その声は、強く高潔な騎士である彼女には、あまりにも相応しくない情けないものだった。
「そんな、ことは、……」
「いいの。正直に答えて」
 目を伏せた彼女にまっすぐ視線を向け、「嫌いになったり逃げたりなんてしないから」と告げると、バーゲストはちらりと瞳をこちらに向けて、二、三呼吸をし、そしてたった一言「ある」と答えた。
「お前を……お前を■■たいと思うことは、ある。だが私は、今度こそ——だから」
「そう……よかった」
 私、ちゃんと強いのね、と笑うと彼女はきょとんと呆けたような顔をして、「わ、笑い事では……!」とこちらに歩み寄ってくる。がしゃがしゃと鎧が擦れ合う音が部屋に響き、眼前に迫った熱量にちりちりと胸を焦がされながら「ごめんなさい」と一言謝って。

「でもあなたがそう思うってことは、きちんとあなたに愛されている証だと思うから。つい嬉しくて笑っちゃったわ。……ねえバーゲスト」

 甲冑に包まれた一回りも二回りも大きな手を握って、愛していると告げる。
 愛多きガウェイン。大食らいのガウェイン。強い者に惹かれ、恋人を作り、誰より愛しい彼らを■■てしまう哀しい本能に苦しむバーゲスト。その過去も、その凶暴な本能も丸ごと含めて。
「愛しているわ。バーゲスト」




title:カクテルパーティー
→afterward
top