第18話 『キスの格言』



キスにも意味がある。

手なら尊敬、額なら友情
頬なら厚意、瞼なら憧れ
掌なら懇願

首と腕は欲望
それ以外は狂気の沙汰

そして…唇は愛情だといわれている……

あながち外れてもいないだろうと私は思う。




***




「うえぇ〜。」


妙な吐き気と割れるくらいの頭痛。
これが世にいう『二日酔い』とやつなんだろうか…
まだ体の中にアルコールが残っている気がする。
きっと、今の私に火をつけたらよく燃えるはずだ。


「女の子がお酒の香りさせて仕事くるなんて…なんてゆーか、ワイルドだね☆」

「…うっさい……」


あぁ、お願いだからこんな近くでしゃべらないで欲しい。
というかしゃべらせないで欲しい。
頭に響くからさ。


「そんなに飲んだんですか?」

「……そんなに飲んでないと…」

「嘘とは見苦しいな。」


アヤナミさん、ひどい…


「…う〜飲んだような気がする……かも……お゛ぇ……」

「色気ないなぁ…」


二日酔いの私に色気を求めないで欲しいものだ。
しばらくお酒は控えよう。
二日酔いは地獄そのものだ。


「名前さん、喉渇いたでしょ?はい、お水。」


コナツが私の手元にすごく冷えている水を差し出した。


「ありがと。」


二日酔いはノドが異様に渇く。
コナツの優しさで涙が滲みそうだ。


「おいし?」

「うん。少しはスッキリした。」


といっても胸のむかつきはまだおさまらない。


「酒は飲んでも飲まれるな。ってね♪」


頼むから少し黙っていてくれ、ヒュウガ。
突っこむ気力も無くなり、私は机の上にうつ伏せになってうな垂れた。


「大丈夫ですか?」


心配そうなコナツの声がする。


「あー、大丈…っっ!!」


顔を上げると、私の顔を覗き込もうとしていたらしいコナツの唇と私の唇が微かに触れた。


……


あー
コナツー?
そんな目玉が落ちそうなくらい驚かないでよ。


「あ、ごめん。」

「ご、ごっごごごごめんなさい!」


いや、急に顔上げてぶつかったの私のせいだから。


「そんな気にしてないし…」

「でっででっでも!!」

「そんなファーストキスじゃないんだから…。」


少しホッとしたのか、コナツの肩が下がった。

「あれれぇ〜。なんかあだ名たん、その言い方ってキスぐらい慣れてるよぉ〜って感じだねぇ……」


別に慣れてるわけじゃないけど…


「まさか。でもあっちの世界では何人かと付き合ってたから、キスくらいは…。しかも減るもんじゃないし。」

「あだ名たんってば男食い漁って…」

「いや、キスしかしてないし。それに私から誘った覚えもないんだけど。」


そんなことするわけないじゃんか。


「キスの一つや二つ減るもんじゃないっていうならさ〜。オレと…」

「却下。」

「え〜!」

「確かに減るもんじゃないって言ったけど、ヒュウガとしたらなんか減る気がする!」


しかも舌とかいれられそうだし、アヤナミさんの前でそれだけは避けなければ!!


「いいじゃーん。」

「ギャァー!セクハラはヤですよ!近い近い…ひゃぁっ!」


執務室を逃げ回っていたら、急にアヤナミさんに腕を引かれた。


「え?」

「アヤたん?!」


息が、出来ない……なんで?!
私がアヤナミさんにキスされているのだと気づくのに数秒はかかった。
触れるだけじゃない濃厚なキス。


「んっ!」


ここにいるのがヒュウガとコナツという少数でよかったと心から思う。
私はやっとのことでアヤナミさんから離れた。
イヤじゃないけど、人前でされるのはあまり好きじゃない。
それに…なんでアヤナミさんがキスするのか意味が分からない。


「な…んで……」

「キスの一つや二つ……気にしないのだろう?」


イラッときた。
キスの一つや二つ、本当に気にしていないのはこの人の方だ。
それがすごく、悲しかった。
意識サレテイナイ……


「っ…好きでもないのにこんなキスするなんて…サイテーですっ!!」


パンッと渇いた音が執務室に響いた……




***




「アーヤたん。頬大丈夫?冷やす?」


赤くなっているアヤナミの左頬にヒュウガが手を伸ばした。


「必要ない。コナツ、名前を追いかけろ。」


放心していたコナツはアヤナミからの命令で気を取り戻した。


「はいっ。」

「いいよコナツ、追いかけなくて。」

「え?しかし…」


アヤナミとヒュウガの命令の板ばさみに合い、コナツは立ち止まった。


「何の真似だ、ヒュウガ。」

「ん?あだ名たんを慰めるのはコナツじゃなくて、アヤたんのほうが上手なんじゃないかなぁって…ね。」


アヤナミの眉間に皺が寄る。


「アヤたんさ、あだ名たんのコト好きでしょ?」




***




勢いに任せてアヤナミさんの頬を叩いてしまった。
まだジンジンと痛い掌。
きっと、アヤナミさんの頬も痛かったはずだ。


「…気まずいなぁ…」


アヤナミさんにキスされた瞬間あんなに痛かった頭痛も、気持ち悪かった吐き気も、どこかへ飛んでいってしまった。
このまま戻るのはあまりにも忍びなくて、私はサボろうと行く当てもなく歩き出す。


「…はぁ。」


深くため息を吐くと、後ろから急に口をハンカチで塞がれた。


「んっ!!ん゛ん!!」


必死に逃げようとするが、だんだんと重たくなっていく瞼になぜか逆らえず、私はそのまま気を失った……

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