第19話 『ここは戦場の真ん中』




ふと、身体中が痛くて、目が覚めた。


「…い…たい…」


硬い床で寝ていたせいか、全身がガチガチになっていた。
特に手足を縛られているわけでも、口を塞がれているわけでもない。
でも、見たことのない部屋。
ゆっくりと起き上がろうとすると、すぐ横から声が聞こえてきた。


「やっと起きたか。」


待ちくたびれたとばかりに伸びをしながらその男は近づいてきた。
どこかで、見たことがある顔だ。


「…誰?」

「ほう…この俺を覚えていないとは…。パーティーのときはあんなに威勢がよかったのにな。」


そう言われてやっと気づく。


「あの時の嫌味男……」


アヤナミさんの悪口をペラペラとしゃべっていた男だ。


「思い出してくれたか。あの時は世話になった……礼を言うぞっ!」


足で横顔を蹴られ、また床に体を打ち付けるようにして倒れこんだ。


「っ!!…相変わらず…救いようのない男ね。」

「減らず口を…。」


床に倒れこんだままの私の腹に蹴りをいれてくる。


「っぐ……」

「まだ寝ていろ。…お前の処刑場につくまではな。」


男の顔を尻目に、私は痛みのせいで気を失った。




***




顔を平手打ちされて目が覚めた。
なんとも目覚めの悪い起こし方だ。


「…せっかくいい夢見てたのに…」


邪魔しないでよ。

私が寝ている間に場所を移動したのか、私はホークザイルに乗せられていた。
眩しいくらいにいい天気なのに、この男の顔のせいで私の心の中はどんより曇り空だ。


「貴様ともここで別れだ。」


首元を掴まれ片手で持ち上げられると、私をホークザイルの外へ吊り下げた。
下を見れば数メートル先は地面だ。
落ちれば痛いだろうが死ぬことはない高さ。


「私が悪かったと泣き喚いて懇願するのなら…助けてやらないこともない。」


嘘だ。
どんなに懇願してもこの男は助けてくれない。

知らない場所に置いていかれようと構わない。
この男にだけは…縋りたくない。


「懇願するのは…あんたの方かもね。」


自分の人差し指を思い切り噛んで血を出し、一瞬にしてそれを刀に変えた私は男の腕を切りつけた。
その拍子に外れた男の手。

ホークザイルがだんだん遠ざかって、私はまた落ちてゆく。
聞こえるのは男の叫び声と風の音。

今回は誰も受け止めてくれる人なんかいない。
私は空中で体制を整えて、身軽に地面に着地した。


「名前ちゃんかっこいいー☆」


自分で自分を褒めながら上を見れば、男の乗っているホークザイルが慌てる様にして遠くなっていった。
本当に一人残された。
……どうやって帰ろう。

血の刀を見つめていると、背後から「死ね」などという物騒な声が聞こえた。
とっさに刀で背後から切りかかってきた男を切りつける。


「…何よ、ここ……」


なぜ自分が知らない男から殺されそうにならなければいけないのか。
切りつけられただけの男はすぐに起き上がりまた襲い掛かってくる。


「は?!ちょ、ちょっと!!」


その男の背後には数えきれないくらいの…男達が殺意を向けてこちらにつめよっていた。


「…もしかして…ここ戦場?!」


次々と襲い掛かってくる男達。
ここでは殺さなければ殺される。
私は血の刀をしっかりと持ち、向かってくる敵を切っていった。

人殺しなどしたくはなかった。
戦争だから人を殺していいなんてあるはずがない。
戦争に正義も悪もない。
あるのはただ…悲しみだけ。

でも戻りたいの。
みんなの元に。

だって、あそこは温かいの。
すごく、好きな場所なの。


「っ。」


敵を切るたびに顔や体にかかる生温かいドロリとした赤い血。
一瞬気を抜いたせいで血が地面に広がり零れた。


「まだ…、アヤナミさんに謝ってないの!」


叩いてごめんなさいって…。
だから…まだ死ねない。


もう一度血の刀を創りだし、ザイフォンを発動させ、血の刀と融合させる。
ヒュウガにほぼ毎日特訓してもらっていたおかげで、苦もなく融合できるようになった。
この時ばかりはヒュウガさまさまだ。


「感謝しなくっちゃ。」


積みあがる屍。
広がる赤い血。

何度も血の刀が零れ落ち、そしてまた創りだす。
私の体にもあちこち剣で切られた傷ができた。

恐怖がないわけじゃない。
でも死にいく恐怖より、みんなに会えない恐怖の方が大きいのだ。


「…はぁ、はぁ……」


息が上がる。
血の使いすぎと体力の低下。
どんなに強い能力を持っていても、それを使いこなせる体力と能力がなければいけないのだ。

つまり…実践不足。


「きっつ……」


苦笑交じりに呟くと、左肩を一本の刀が貫通した。


「ぁあああっっ!!」


一気に体全体を激痛が走る。
その拍子に右手の刀もただの血に戻り地を濡らした。


「…っ。」


トドメを刺そうと近寄ってくる敵の足音。


ごめん…


小さく心の中で呟いた瞬間、誰かが崩れ落ちる私の体を抱きとめてくれた。

嗅いだことのある香りだ…

そう思っていると、抱きとめてくれた人が発動させたのであろうザイフォンが、まわりにいた全ての敵を一瞬にして塵へと化した。

私の周りにはコナツやヒュウガ達みんなが敵と戦っている。
そしてここにいるのは…
そう、この香りは…


「アヤナミさん…」


必死に足に力を入れてアヤナミさんの軍服にしがみつく。


「無事か。」


私を見下ろすアヤナミさんの顔は今まで見たことないくらい険しい表情だった。


「は、い……」


気が抜けて一気に涙が目じりに浮かんだ。


「泣くな名前。ここはまだ戦場だ。」

「っ、はい!!」


右手で両目をゴシゴシと擦った。


「やはり…戦場に似つかわしくないな。…涙も、お前も。」


ふんわりと抱き寄せられ、アヤナミさんはまたザイフォンを発動させた。

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