『Sweet Kiss』



もし、大切な用事が同じ日に2件できてしまったら…貴女はどうしますか??


「名前、明日の非番は出かける。お前も空けておけ。」


アヤナミさんは書類を運んできた私にそう告げた。


「おデートのお誘いですか?」

「あぁ。」

「めっずらし〜!嬉しい!!……んですけど、明日は先約があるので、また別の日にでも誘ってください。」


ミシッ。
まさか断られるとは思っていなかったのであろう、アヤナミさんのペンが悲鳴を上げた。


「…ヒュウガか?」

「いえ、ハルセさんですよ。」


先日ハルセさんに「おいしいケーキ屋さんがあるんです。ご一緒にいかがですか?」と誘われた。
その店は雑誌でも取り上げられていて今大評判の店だ。
値段は少々張るが、フルーツの乗っている多さと、こだわりの卵、小麦粉、牛乳などと雑誌で見たことがある。

だが、イマイチ食べに行く機会がなかった私。
その上ハルセさんの奢りだというではないか。
行くしかない。
これは行くしかない。
行かないでどうするよ、私。

ってことで、アヤナミさんのお誘い、今回ばかりはパスだな。


「恋人の誘いを断って他の男と出かけるとは、」

「先に言っておきますけど!!浮気とかじゃないですからね。ね、ハルセさん。」

「はい。明日は一日名前さんをお借りしますね。」

「…いい度胸だ。」

「先に約束をしたのは私ですので。」


おぉ!さすがケーキ屋の息子。
ケーキのことになるとアヤナミさんも怖くないってか。


「できるだけ早く帰ってきますから、大人しく待っていてくださいね。」

「い〜なぁ〜。オレもあだ名たんとデートしたかったなぁ〜」


ヒュウガはそのままホテルにでも連れて行かれそうなんでイヤ。


「はいはい、また今度ね〜」


んでもってアヤナミさんが許してくれたらねー。


「何か投げやり…。」

「そんなことないよ☆」


そんなことあるに決まってるじゃん!
だって…ヒュウガ、だよ??♪




***




「うはっ!!」


お値段もすごいけど、ケーキもすごい。
見た目だけでも楽しめる。
でも味はそれ以上だ。


「おいしすぎる…」


ストロベリー・ラズベリー・ブルーベリーの3種のベリーのケーキ。
タルト生地に生クリームとふわふわのスポンジ。
一口食べて感動してしまった。
ハルセさんの作るケーキと同じくらいおいしい。


「ハルセさん、一口いかがですか??」

「あ、私のもどうぞ。」


いただきます、とフォークで一刺しして口に運ぶ。
あ〜ん。と昔の私なら異性でも気にせずにしていた。
でも、今は私には恋人がいるし、それが同性ならいいが異性ならもう軽率な行動は取れない。


「チョコケーキもおいしいですね!!」

「ベリーの酸味のおかげで飽きがこないですね。…そういえば、アヤナミ様は今日は…?」

「あ〜、何か機嫌がすごく悪くて休みのくせに仕事に行きました。」

「悪いことをしてしまいましたね。」

「いえ、いいんですよ。いつも側にいるんですから、たまには。」


そんな他愛もない話をしながら、ハムハムと食べ終えてゆく。




***




ご馳走様でした。と食べ終え、店の外へ出れば急に私のケータイが鳴った。

心配性のアヤナミさんからかな〜。とケータイを見れば、なぜかヒュウガからだった。
なんだか拍子抜けだ。


「はい、名前ですー。」

『……』


ん?


「おーい、ヒュウガー??」


応答がない。
不思議に思ったハルセさんも私のケータイに耳をくっつけてきた。


『っ……ぎゃー!!た……』


何かあったのだろうか…?
今叫び声みたいなのが…


「ヒュウガ??どうしたの?!」
『あだ名…た、ん……ぎゃぁ!!た、助けっ!!」


助けて??
敵でも攻めてきたのだろうか??
だからってヒュウガが助けを請うなんて…ありえない。


『ア、アヤたんがっ!!』

「アヤナミさんが何?!」

『き、機嫌悪くてオレにムチをっ…!!』


……


『オレに当たってくるんだよ〜。早く帰ってきてぇ〜〜!!!』


なんって悲痛な叫びですこと。
っていうか、大人気ないですよアヤナミさん。

ヒュウガが可哀想になった私達はすぐに執務室に帰ってきた。
扉を開けば、阿鼻叫喚。
そこにはヒュウガがボロボロになって床に倒れていた。


「…遅かったか。」


ご愁傷様、ヒュウガ。
骨だけは拾ってあげるよ。


「死んでないから!!死んでないからね!!オレまだ辛うじて生きてるよ!!」

「…チッ。」

「何で舌打ちっー!?女の子が舌打ちなんていけませんっ!!」


何か叫んでいるヒュウガはそのままに、私はアヤナミさんの方へ歩みを進めた。
私が帰ってきたとわかっているくせに目線を交わすどころか、顔さえ上げない。


「…ただいま、です。」

「…」


無視ですか。
シカトですか。
あ〜そうですか、無視と書いてシカトですか。


「ただいま、です。ただいま、ただいま、ただいまただいまただいまただいま。」


こうなったら「おかえり」って返してくれるまで言ってやる。


「ただいま、ただいまただいまただいまただいま」


い、息が切れる。

…くそう、こーなったらヤケだ!!


「アヤナミさん!!」


女の子に有るまじきことだが、私は机に上に乗り上げて、アヤナミさんの握っていたペンを奪い取り胸ぐらを掴んで顔を上げさせるとそのまま唇に自分の唇を押し当てた。


「…急に何をする。」


呆然としているアヤナミ様。
やっとこっちを見てくれた…。


「何って、ただいまのちゅーですよ。アヤナミさん、ただいまです。」

「……あぁ、おかえり。」


まだ呆気に取られているアヤナミさんに私はもう一度「ただいま」とニッコリ笑った。

忘れないで下さいよ。
一時間、一日、離れていても、私は貴方のことしか見えていないんですから。
帰ってきたら「おかえり」と言ってください。
「寂しかった」と思ってください。
だって私はその倍、寂しかったんですから。
それから微笑んで、頭を撫でて、抱きしめて、キスを下さい。

ケーキよりも甘くてフルーツより甘酸っぱい、そんなキスを一つ…。


END

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