01




買い物がすき、
おしゃべりが好き、
甘いものが好き、
可愛いものが好き、

そして何より歌が好き。





まだお日様も高い位置にある時間帯のこと。


「あっれ〜??コナツってばどこ行くの??」


久しぶりに…本当に久しぶりにまともな休みをもらえた僕は、たまたま通路であった少佐のほうを振り向いた。


「少し出かけてきます。」

「軍服で?」

「パトロールも兼ねれますから。」

「まっじめだね〜。」


少佐が不真面目なだけです。と心の中で呟いて、「いってきます。」と街のほうへと歩き始めた同時刻…。


荒い息遣いを整えることもせず、一生懸命足を動かす女の子。
あと少しだけ走ろうか。
でも追っ手は来ていないみたい。


ゆっくりと速度を落として息を整え始める。

久しぶりに歩く街と人をキョロキョロと見回す。
うん、大丈夫そうだ。
もう、マネージャーってばしつこいんだから!

さて、どこに行こうかと私は心を弾ませた。

洋服だって選びたいし…
髪型も変えたいけど勝手に切ったりなんかしたら事務所がうるさいしなぁ〜。


そんなことを考えながらとりあえず店の中に入る。

このスカートかわいい!
あのパンツもいーなー。

久しぶりの買い物だからか、とにかく目移りばかりしてしまっている。
日頃は出かける暇なんてないから、ネットやカタログでの買い物で味気ないし…。
こうして仕事抜け出してきてよかった!
やっぱ暇は作るものよね♪


あ、靴も欲しいし…
とにかく買いまくろうじゃないかっ!
どうせまた数ヶ月は街に買い物になんかこれないんだ。
欲しいときに欲しい物を買っておかなくっちゃ。


「ねぇ、もしかしてさ…」

「確かに!声かけてみる?」


少し遠くのほうから聞こえてきた会話に耳を傾けた。


…やば、もうバレ始めちゃった。


私は手に持っていた服をレジへと持っていき、何食わぬ顔で店を出た。

店内にずっといたせいか太陽の光がすごく眩しい。
気持ちがいいくらい青空。
買い物日和だーと携帯を開いて時間を確認する。
サイレントモードにしていたので気付かなかったが…
メールと着信の件数がとんでもないことになっていた。

…すべてマネージャーからだ。


「たまには休んだっていいじゃない。」


私だって女の子なんだもん!


街の店のあちこちから私の声がする。
新曲を出したばっかりだからね…と胸の中で呟く。

でも少なからず皆が聞いてくれているのは嬉しい。
少し気恥ずかしい気もするけど。


「んじゃぁ、次はどこ行こっかな〜♪」


キョロキョロしていると、ドンッと誰かにぶつかった。


「いってーな、オイ」


…厳つい男だ。
今日は私の運が悪いのだろうか。
朝の占いは見損ねたが、もしかしたら最下位だったかもしれない。


「ごめんなさい、余所見をしていて…。」


ペコッと頭を下げて通り過ぎようとすると、キツク手首を掴まれた。


痛ったいなー!!
こちとら女の子なんだよ!
加減してよ!


「よく見たら名前に似てんじゃねー?」


全身を舐めるように見られ、吐き気がしてきた。


「気のせいですね。よく言われるんですよー。もう困ってて。」


なんて嘘。
私はこの男が言っている名前。

今大人気の歌姫ってやつだ。


「何か歌ってみろよ。」


違うってんでしょ。
人の話はちゃんと聞きなさいってママから教わってこなかったの?


「ほら、歌ってみろって。」


男が急かす中、通行人はそんな私達を見てみぬ不利。
関わりたくないの、わからないでもないから仕方が無いと思う。
ま、人間こんなものだ。


「あるーひ、もりのーなか、クマさんに、であーった、」

「舐めてんのか。」

「歌えって言われたものですから。」


歌ったじゃん、ほら、ご一緒にいかが?


「はなさくもーりーのーみーちー、クマさんにでーあーあったー。はい、終わり。じゃ!」

「お前、舐めんのもいい加減に、」

「女性に何をしようとしているんですか?」


あろうことか私を殴ろうとした男の手を掴んだハチミツ色の髪をした青年。


助かったー。
一応歌姫やってるんで顔だけは勘弁して欲しかったのー!!


「なんか急に掴みかかられちゃって…」


きゅるん、と瞳を潤ませる。
歌姫なのに女優モードONだ。


「なっ!こいつがぶつかってきたんだよ。」

「私何度も謝ったんです…でもこの人が…」


ハチミツ青年は小さくため息を吐いた。


「何となくわかりました。貴方も許せないようでしたら、納得いくまでこのまま警察に行って話しましょうか。」

「べ、別にもう気にしてねーよ!!」


男はそう捨て台詞を吐きながら、人ごみのほうへと消えていった。



「はー。助かりました。軍人さんですか?」


ハチミツ青年は軍服を着ていて、何となく次のライブでは軍服とか着たら面白いかもしれないと思った自分は根っからの歌姫らしい。

…まぁ、私の曲のイメージではないからボツになるだろうけれど。


「えぇ、ここらへんはあまり治安も良くありませんから気をつけてくださいね。」


薄く微笑むハチミツ青年。


…なんか…うん、カッコいいかもっ!
軍服??
軍服で二倍増しなの?!?!
笑顔が可愛くて素敵だ!


「どこの軍所属で、お名前は何て言うんですか??」

「えっと…お答えするほどの者ではありませんので…」


ちぇっ。
上手くかわされちゃったよ。


「それよりもお怪我はありませんか?」

「はいっ!」

「それは良かったです。それでは僕はこれで…」


そういって去ってゆくハチミツ青年。

…うん、王子様だ!
私の王子様見つけた!

ぜっっったい恋人同士になってみせる!!!





「ねーねーねーねー!!!!」


バタバタとマネージャーの下へ帰ってきた私。
あのあとも迫ってみたけれど、またもや上手くかわされてハチミツ青年は去っていってしまった。

また会いたい…

そう思ってしまったから…

もう行動あるのみ!!


「名前っ!一体今までどこに!!」


マネージャーは私の顔を見るなりホッとしたようにため息を吐いた。


「あのね、お願いがあるの!」

「その前にレコーディングよ!」

「うん、するから。するからさ、私のお願い聞いてくれない?」


私が不敵に笑うと、マネージャーはひどく青ざめた。


アルバム用のレコーディングが一息つけるようになった数時間後…

マネージャーはソファに座って大きなため息を吐いた。


「で?」

「だから、そのハチミツ青年を探しだして欲しいのっ!」

「…名前、それはお礼をちゃんと言いたいから?それとも恋心ゆえ?」

「んー、どっちも。」

「貴女ねぇ…自分が歌姫だって自覚してる?」

「してるしてる!」

「仕事放りだして買い物に言ったかと思えば、次は男の子見つけて欲しいだなんて…」


ネチネチ、
ネチネチ…


「……ねぇ、探してくれるの?くれないの?」


探してくれないと仕事放ってでも自ら探しに行くよ?とばかりに低い声で呟くと、さすがにマネージャーも焦ったのか、渋々頷いてくれた。


それでこそ優秀なマネージャーね♪


「じゃぁ、探偵でも何でも雇っていいから、早めによろしくね。」

「情報がハチミツ色の髪の毛の青年ってだけなんて…」

「2週間以内でよろしく☆」

「それは無理!」


じゃぁ、とりあえず一ヶ月…
気長に待ってみますか。





「あ、コナツ〜おかえり〜。」

「ただいま帰りました、少佐。」


出かけにも出会った少佐と帰ってくるなり、またも出会ってしまった。


「パトロールお疲れ様〜。」

「少し外の空気を吸いに行っただけですよ。」

「休みなのに軍服で行くなんてやっぱ真面目だよ、コナツは。それだからオレも安心してサボれるんだけど☆あ、そうだ!」


少佐は何を思い出したのか、ポンッと手を叩いた。


「今ねーハルセがケーキ作ったから食べにおいでって誘われたんだ〜。コナツも探してたみたいで、出かけたよって教えたけど、帰ってきたならコナツもいこーよ。」

「そうですね。」


ハルセさんのケーキは美味しいから、食べないのは少し勿体無い。


僕と少佐は二人、ハルセさんの部屋へと向かった。



「やほー。コナツもちょうど帰ってきたから連れてきたよ〜。」

「あれ〜?コナツなんで軍服着ているの??」


中佐が頬に生クリームと、青空ソースをつけてイスに座った僕に話しかけてきた。

中に入ると、アヤナミ参謀とカツラギ大佐を除くブラックホークの皆がケーキを食べながら談笑していた。
…何か、休日だというのに仕事の日とあまり変わらない顔ぶれに小さく笑ってしまった。


「コナツってばパトロールも兼ねて外に行ったんだってさ。」

「わーまっじめー。」


…何だかこの二人に言われると馬鹿にされているような複雑な心境になる。


ハルセさんが持ってきてくれたケーキを食べながら、ふとテレビがついている事に気がついた。

日頃、部屋にテレビがるというのに、あまり見ない自分なので、久しぶりにテレビを見たような気がする。
自分の部屋にあるテレビなんてほとんどお飾りみたいなものだ。


「おいしーね、コナツ。」

「そうですね。」

「コナツ、青空ソースかけるともっと美味しくなるよ!」

「わぁ、ありがとうございます、中佐。」


……


「ハルセ、アレ、止めたら?自分のケーキにイヤじゃないの?」

「…いえ、気にしていませんよ。」

「コナツも味オンチだからな〜…」

「…否定はできませんね。」

「あれ?少佐もかけたいんですか、青空ソース。」

「いっ、いらないよオレは!」


「そうですか?」と首を傾げて大人しくしているとテレビから聞いたことのある女性の声が聞こえてきた。

ふとテレビに視線をやり…


「あ、あぁぁぁああ!!さっきの!!」

「どったのコナツ。」

「あ、あれ、あの女性…知ってますか??」

「ん?あー今人気の名前でしょ?知らない人の方が少ないよー。何々?コナツの好みなの?」

「…さっき会いました。」


それでもって何だかしつこかったです。


「「…は?」」


中佐までもが首を傾げた。


「さっき、街で会いました。…多分。」

- 2 -

back next
index
ALICE+