「あなたを裏切った私をお許しください」




アヤナミ様に拾われて3年。

アヤナミ様に特別な感情を抱いて2年。


アヤナミ様のおかげで初めて知ることができたんです。

こんなに幸せな日常があるということも、
こんなに苦しい想いがあるということも。



愛しています、アヤナミ様。


この想いが報われないのなら、
いっそ…





気まずい執務室。

私に現実をつきつけたヒュウガ少佐は『え?何なに??何かあったの?』だなんて楽しそうで…
……葬りたい。



この執務室にはヒュウガ少佐とアヤナミ様と私の3人しかいないからだろうか、より一層空気が重い気がする。

それともそう感じるのは私に疚しい感情があるからなのだろうか。


「アヤナミ様、今日は戻ってこられますか?」


昨晩のように一人はいやだとばかりの質問。


「…あぁ。」

「……わかりました。」

「あ、何?!この雰囲気、もしかしてあだ名たん告白しちゃったの??」


ビシッと私が石のように固まった。


「…貴様か…」

「え?何が?っぎゃぁあぁっ!!」


ヒュウガ少佐にムチを振り回すアヤナミ様。


「貴様のせいか。昨日の名前の行動がおかしかったのは。」

「え〜?」

「…アヤナミ様をお慕いしているという感情は以前から持ち合わせていましたが…そうですね、後押ししたのはヒュウガ少佐ですね。」


なにかが吹っ切れた。


「でも、お伝えしようと思ったのは私の意志です。」


静かにそういうと、アヤナミ様はムチをふるう手を止めた。


「……ヒュウガ、しばらくどこかでサボってこい。」

「え?いいの??あ、でもオレ仕事が〜」

「いつもはする気などないだろうが。とっとと出て行け。」

「はいは〜い♪」



わざわざヒュウガ少佐を追い出したアヤナミ様。

静かに扉が閉まった。


「…」

「…」


二人きりになって話すことなど高が知れている。


「奴隷として…貴方を裏切った私をお許しください。」


ポツリと呟いた言葉。
それが引き金になってくれたのか、アヤナミ様は私に詰め寄った。


「…私が、お前を引き取った理由を教えてやろう。」


それは今まで聞いたことのないことだった。


「初めてお前を見たとき、もう少し育てれば私の駒として使えると思った。もちろん最初は、お前をそのまま戦闘用奴隷として使うつもりだった。」

「では、なぜ…」


人として私を扱おうと思ってくれたのですか?

「情が沸いたのだ。背を向けた私の袖に遠慮がちに握られた手とまっすぐに見つめたお前の表情と瞳に。我ながら滑稽だ。」

「でも私はアヤナミ様以上に愚かです。奴隷として拾われたとわかっているのに、奴隷として扱ってくれたことがないから…こんなに幸せな日常を与えてもらえて、アヤナミ様をお慕いして…愚かです。奴隷としてこんな感情を抱いてはいけないのだとわかっているんです。でも…裏切ってしまってごめんなさい。」


私は奴隷として拾われた。
でもアヤナミ様は奴隷として一度も私を扱ったことはなかった。
だけれどこんな特別な感情を持つこと自体裏切り行為でしかない。


「それでも…貴方を愛しているんです。従者として、恋人としてお側においてください。それが無理ならば、いっそ…奴隷として扱いください。」


優しさは、私にとって希望でしかない。
中途半端に優しくされるくらいならば、希望も失うほど奴隷として…


「…自己満足の忠誠など必要ない。恋人か、奴隷か選べというのなら、ならば私の側にいろ。それがお前の役目だ。」


え?


「従者として、奴隷としてではない。恋人として側にいろ。」

「…っ、はいっ!」


思いっきりアヤナミ様の腕の中に飛び込んだ。
するとそっと抱きしめられた。


「…一晩考えたがこんな言葉しかでてこなかった。」

「いえっ、いえっっ、十分です!」


必死に首を振って、涙でぬれた頬をアヤナミ様に向けた。


「お前はもう奴隷ではない。」

「…はい。」

「だが、一生手放すことはない。それだけは覚悟しておけ。」

「はい…放さないでいてください、ずっと…ずっと…。愛してます、アヤナミ様。」

「私も、愛している…」


涙でぬれた唇に、そっとアヤナミ様の唇が触れた…





次の日の朝はいつもとは違った。

なんだか恥ずかしくて、くすぐったくて、ふかふかのベッドも、温かいアヤナミ様の腕の中も全てが新しく新鮮に感じた。

カーテンの隙間から差し込む朝陽が寝不足の目には少し眩しくて、開いていた瞳をもう一度閉じた。

それでも起きなければいけない時間は刻一刻と迫ってきている。


「名前が二度寝の体制に入るとは珍しいな。」

「…あまり寝かせて貰えなかったので。……///」


大人ぶった自分の言葉に自分で赤くなった。

クスリと笑われて、さらに恥ずかしくなった。


「もうっ、笑わないでください。おはようございます!起きますよ!!」

「あぁ。」

「紅茶にしますか?コーヒーにしますか?」

「紅茶で……いや、今日は私が淹れよう。」

「えっ?!いいですよ!私が淹れます!!」

「名前は先にシャワーを浴びて来い。」


体中ベタベタでお風呂には入りたかったことは確かで、私はハニカミながら小さく頷いた。


「名前は何を飲む。」

「えっと、紅茶でお願いします。砂糖とミルクたっぷりで。」

「お子様だな。」

「もう大人です!」


貴方が大人にしたんじゃないですか。とは口には出さないでおく。

ベッドの下に散らばっている服をかき集めてシーツを体に巻いてシャワーを浴びにいこうと腰をあげた、が…


「ひゃぁ!」


がくりと足腰に力が入らず無残にも床に座り込んでしまった。


「な?!力が入らないっ!」

「…一緒に入りにいったほうがよさそうだな。」

「這いつくばってでも一人で入ります!」

「そう無理をするな。」

「きゃぁ!急に抱き上げないでください!」


落とされないようにとアヤナミ様の首に腕をまわした。


「…幸せすぎて怖いです。」

「そうか。」

「……いいんでしょうか?こんなに幸せで。」

「名前は自分で幸せを掴み取ったのだ。3年前、私の服を掴んだのと同時に。」

「…アヤナミ様は、幸せですか?」

「言わずともわかるだろう。」


優しいキスを一つ、唇に落としてくれた。



幸せです。
幸せです。

貴方の側にいることができて
貴方に愛してもらえて
貴方を愛することができて

私は本当に幸せです。

fin

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