愛ストーリーは突然に





まだ幼かった私にとって
あの人は兄のような存在だった。

いつも優しくて、私に温かく笑いかけてくれる。

そんなあの人が大好きだった。


コナツ=ウォーレン。
私が慕った兄のような人。

1歳しか変わらないのに、コナツ兄(にぃ)の背中はどこか大きくて、いつも私の先を行くから、少しだけ寂しかったのを覚えてる。

私に何も言わずに士官学校に入って、全く会わなくなって…

たまたま耳にしたのはコナツ兄がブラックホークに入ったってこと。


ということで、
士官学校の研修みたいな形でだけど…
コナツ兄を追っかけてブラックホークまできちゃいました!!

今日から私、名前=ウォーレンはアヤナミ様の仮ベグライターとして、
2週間だけだけどブラックホークで働きます。

初めて着る軍服に袖を通し、服の中に一緒に巻き込まれてしまったショートカットの髪を外へ出してやる。
鏡の前で襟をただし、ちょいちょいと髪を整えれば準備は完了だ。


「よし!」


気合を入れて、私は自室の扉を開け廊下へ出た。

コツコツと靴音が廊下に響きどこか心が跳ねる。
これからコナツ兄に数年ぶりに会えると思うと、もうこの廊下が長く長く感じて仕方がない。

コナツ兄、びっくりするかな??

なんて一人微笑みながら廊下を歩いていると、曲がり角で一人の男性とぶつかった。


「きゃうっ!」


尻餅はつかなかったものの、後ろへよろめき倒れそうになったところを、ぶつかった男性に腕と腰をつかまれ、それは免れた。


「ごめんねー♪前見てなくって☆」


背、高っ!!
謝ってくる男性を見上げれば、その人は胡散臭そうなサングラスをかけていた。


「いえ、こちらこそすみませんでした。」


私は前どころか周りさえ見えてなったのだからきっと私の方に非がある。


「助けていただいて助かりました。ありがとうございます!」


ニッコリと笑ってペコリとお辞儀をすると、その男性は何故か私をジーッと見つめていた。


「あ、あの…??」

「名前は?」

「へっ?!あ、名前です。」

「そ、名前ちゃん♪初めて見る顔だね。ドコの部署の子??」

「えっと、今日からブラックホークでアヤナミ様の仮ベグライターとして働かせていただきます。」

「あー!!今日来るっていう研修の子かぁ〜。……口説いたらアヤたんに怒られるかな…?」

「はい?何か言いました??」


最後の方の声が小さくて聞こえなかった。


「うんにゃ、ひとり言♪今から執務室行くの?」

「はい。」

「じゃ、一緒に行く?」

「…?」

「オレ、ヒュウガね。ブラックホークの少佐だよ〜。よろしくね☆」



少佐??

え、えっと…確か、私の情報によると、
コナツ兄は少佐のベグライターで………


「えぇぇええ?!アナタが?!?!」

「ん〜…そこまで驚かれるとさすがに傷つくなぁ…」

「い、いえ、そういう意味じゃなくて…」


コナツ兄の上司だからもっときっちりしてるイメージがあったというか…。

誠実で、硬派で、博識で、こんな胡散臭いサングラスなんかかけてないような…そんなイメージ。

全然違うじゃアリマセンカ…


「ま、いっか。急がないと遅れるよ?」

「え?あっ、本当だ!」


左手につけている時計を見て驚き、私は急いで執務室がある方へ歩き出そうと…
したところを、ヒュウガ少佐に腕を引っ張られて止められた。


「ドコ行くの?」

「え?執務室に…」

「…執務室?」

「執務室です…。」

「………執務室、あっちなんだけどなぁ。」


私が歩き出そうとした方向とは反対の方を指差すヒュウガ少佐。


「ま、間違っちゃったみたいですね…ありがとうございます。」


少しだけ恥ずかしくて私が俯きながらお礼を言えば、ヒュウガ少佐は私の手を握って歩き出した。


「あ、あのっ///」


異性に手を繋がれるなんてコナツ兄以外で初めてで、ちょっぴり心臓が高鳴る。


「急ごっか。遅刻しちゃうとアヤたんに怒られちゃうし。」


私は繋がれたままの手を見ながら、「はい。」と頷いた…





「本日より2週間、アヤナミ様の仮ベグライターとして配属されました、名前=ウォーレンです!よろしくお願いします!!」


コナツの手からペンが滑り落ちたのをヒュウガはしっかりと見ていた。
呆然と口を開いているコナツに対してヒュウガはどこか嬉しそうだ。


「戦闘に対して優秀だと耳にしている。期待している。」


アヤナミ様はそう言って書類に目を向けた。


「アヤたんが褒めるなんてめずらしー!ね、コナツ。」

「…。」


どうやらまだコナツは状況が把握できていないようだ。


「よろしくー名前。ボク、クロユリだよ。階級は中佐。」


はぅ!
こんな小さい子が…小さい子が、中佐だなんて…


「私はクロユリ様のベグライターでハルセと申します。」

「私はカツラギです。」

「あ、よろしくおねがいします。」


なんか、ふと思ったんだけど、
コナツ兄もハルセさんも、ベグライターのほうがしっかりしてませんか??

不思議なとこだなぁ…


「名前ちゃん、こっちはオレのベグライターの…」

「コナツ兄!!」


ヒュウガの紹介に耳を傾けず、私はコナツ兄に思いっきり抱きついた。


「や、やっぱり名前っ?!」

「久しぶりっ、コナツ兄♪」


ぎゅーッと抱きしめれば、コナツは周りの視線を気にしたのか、私をベリッと剥いだ。


「な、なんでここに?!」

「コナツ兄が何にも言わずにいなくなっちゃうからよ!」

「だからって…」

「ビックリした?」

「当たり前!」

「コナツ兄、また背伸びたね。」

「名前はあんまり変わりないかな。」

「少しは伸びたもん!」

「ちょ、名前!」


またギュッと抱きつけば困ったようなコナツ兄の声が聞こえる。


「…はぁ……抱きつき癖も相変わらずみたいで……」


げんなりとコナツはうな垂れたところに、ヒュウガが横から話しかけてきた。


「あのさ、さっきからお知り合いみたいなんだけど…どういう関係??」

「「従兄妹です。」」


名前=ウォーレン、コナツと同じウォーレン家生まれだ。

コナツはまたもベリッと名前を剥がした。
その手つきも慣れたものだ。


「紹介が終わったのなら名前、仕事だ。」


アヤナミ様に呼ばれた私は「はい!」と返事をし、受け取った書類をとりあえず各部署へ届けに行った。






「ねーねーコナツ、名前ちゃん可愛いね。」


名前がいなくなった執務室でヒュウガがベッタリとコナツに後ろから抱きついた。


「そうですね。昔からモテてましたから。少佐、離して下さい。重いです。」

「そうだよね〜あれだけ可愛ければね〜……」

「?なんですか、少佐。」

「コナツも好きなの?」


ストレートボールがコナツの顔面に当たったかのように、コナツは顔を渋い顔をした。


「好きですよ。妹として。」

「え〜ほんとにぃ〜??」

「本当です。」

「さっきね、名前ちゃんに笑顔向けられたときドキってしちゃったんだよね♪アヤたん聞いて!心臓がキュンって、これって恋だよね☆」

「…」


ビシィィィィィ!!


「無駄口を叩く暇があったら仕事をしろ、クズが。」

「いやん♪今のアヤたんに心臓キュンってしちゃいそ☆」


バシッッッ!!


「痛いよアヤたん!!」

「黙れ。」

「ねーコナツ、ムチで叩かれたら痛いよねー?」

「少佐、兄として忠告しておきますけど、名前に手だしたらただじゃおきませんから。って、聞いてますか??」

「名前ちゃん可愛いよね〜。こうギュってして押し倒し…」

「少佐!!ふざけたこと言わないでください、刺しますよ。」


……(汗)


「や、ヤだな〜冗談だよコナツ…安心して。押し倒したりなんかしないからさっ☆」
「その『安心して』が一番安心なりません。」

「もーコナツってばシスコンだなぁ…」

「シスコン言わないでください!!」

「名前ちゃんに恋愛感情があるっていうより、こっちのほうが図星みたいだね〜☆コナツかっわいー。」

「…貴様ら、いい加減に仕事しろ。」

「「……はい。」」


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