プロローグ
オーク元帥から命令が下った。…らしい。
オーク元帥に呼び出されたアヤたんがそれはそれは不機嫌に執務室に戻ってきた時は、一気に執務室の温度が下がったくらいだ。
参謀長官室に入るなり不機嫌な上に考え込んでいるようで、オレは恐る恐る話しかけてみた。
「アーヤたんっ♪難しい顔してどうしたの??」
「…」
無言。
しかもチラッと見られただけですぐに視線が戻されたから余計に性質が悪い。
気付いているのに無視。
苛め?苛め!?!
「…ヒュウガ、先日貴様はホークザイルを勝手に乗り回したあげく壊したな。」
「え、急に何?」
確かに壊したけれど。
それも全壊。
修理になんて出すまでもなくもう乗れないくらいにめっためたのぐっちゃぐちゃになった。
あれはあそこに断壁があったのが悪い。
オレは擦り傷一つないしケロリとして帰ってきてみたら、アヤたんに全壊したホークザイル並みにめっためたにされるかと思った。
断壁にぶつかったのに傷一つつかなかったオレに、傷をつけたアヤたんはやっぱりアヤたんだと思う。
一生ついて行きたい。
「その前は鞘を振り回して窓ガラスを割ったな。」
「……うん」
何だか空気が怪しい方向へと進みだした。
この場からどうにかして逃げようと思案し始めたその時、アヤたんがやっと顔を上げた。
「ヒュウガ、今回の件はお前がメインとなってリリィナ・フォン・ファイエルバッハの護衛とその指揮を勤めろ。」
リリィナ??
ファイエルバッハ??
「誰それ。」
「オーク元帥の知人の娘の名らしい。」
「……アヤたん、何か色々とオレに押し付けてるでしょ。」
「全壊したホークザイル、窓ガラス。」
「脅しっ?!!?ねぇ、それって脅しだよね!!」
ひどいアヤたんっ!と詰め寄ると、スッと鞭を取り出されたのでオレもスッと一歩後ろに下がった。
「受けるのか?受けないのか?」
「喜んで受けるよアヤたん!!」
面倒臭いな〜。
護衛なんてちまちました仕事はオレには合わないんだよねぇ。
でも断ったらアヤたんが怖いし。
世の中って世知辛い。
「そうか。これはオーク元帥からの命令だ。サボるな。」
「わかってるよ〜。」
「それと。ここからは私からの命令だ。」
「何?」
「ついでで構わない。そのリリィナ・フォン・フォイエルバッハのコンパニオンを勤めるであろう名前=名字も守ってやれ。」
「名前?誰?」
「名前は…ちょっとした知り合いだ。」
アヤたんから女の子の名前が出たことにちょっとビックリだ。
しかも『名前』だなんて呼び捨て。
アヤたんが他人に仕事を頼むということはそれなりに期待と信頼をされていることなのだろう。
若いのかそれともそうでないのか。
全くもって想像がつかない。
「歳いくつ?」
「……いいかヒュウガ、あれはやめておけ。」
「何、どうしたの急に。」
「一応忠告しておいてやる、やめておけ。」
「あ、もしかしてアヤたんの恋人?」
「ふざけるな。あんな女、願い下げだ。本人の前でそれを口にするなよ。忠告はしたからな。」
「…うん。」
いつもだったらこんな曖昧な言葉の言い回しなんてしないのに、今日はいくら聞いても答えなんてもらえなかった。
むしろあまりにもアヤたんから珍しく鬼気迫る表情が見て取れたので、それ以上は深く聞けなかった。
その分、名前=名字に興味を持ったのだけれど。
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