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その日、私は遠い目をして道に迷っていた。


「あっれ〜…」


道といってもそこは建物の中なので人に聞けばいいのだろうが…、さすがに恥ずかしいものがある。

適当に歩いていれば目的地に着くかもしれない。と結論を出し、見たこともない通路を歩いていると、ちょうど部屋からでてきた男と…ではなく、その開かれた扉に顔面衝突してしまった。


ゴンッというか、ガンっというか…もろ見事に額と鼻を打ち付けてしまった。


「いった!」


絶対鼻潰れた!
ハナペチャになったらどうしてくれる!と部屋を出てきた男を睨む。


「ごめんねぇ、大丈夫?」


軽い…。
それが人に謝る態度か?!
サングラスくらい取りやがれ!!


「大丈夫じゃない。」


そっちが普通に謝るだけだったら別に大したことないと言っていただろう。
でも私だってそんなに器が広いわけではない。

それなりに誠意ってもんが必要でしょ。


「痛いの痛いの飛んでけー。」


男は何を思ったのか、恥ずかしげもなくそんなことを言いながら私の額を擦ってきた。


…こいつ、私のこと馬鹿にしてるの??


「もういい。」


絶対馬鹿にされてるような気がする。
胡散臭いサングラスしやがって!と柄悪く内心毒づいて、その場を去ろうとしていたときだ。


「ねぇ、」


声をかけられた。


「あんまり見ない子だね、」

「……関係ないでしょ。」


絶対あんたには関係ないことだもん。
関係あるのはあの有名な…、


「名前は??」

「知らない。」

「歳は?」

「知らない。」

「今暇?」

「知らない。」

「んじゃ、ちょっといっかな?」


グイッと腕を引かれ、部屋の中へ入れられた。


「ちょ、何すんのよ!」

「オレ、今お腹空いてるんだ〜。」


あは、と笑う男は私の腕を引いたままベッドのほうへと向かう。


喉がゴクリと鳴った。
同時に冷や汗も尋常じゃないくらいに背筋を流れる。


「だからさ、食べてもい?♪」





「ゃっ!ちょっと放して!放せっていってんでしょ!」


ベッドに押し倒され、両手を縛られて自由を奪われた。


こんなところで知らないヘンな男に襲われてたまるか!と抵抗を見せるが、一向に隙も見当たらない。

腹を蹴り上げようが、縛られた両手で男の頭を殴ろうが、まったく利かない。

むしろ、


「たまには勝気な子もいいよね〜。新鮮♪」


だなんて言われてしまった。

誰と比べているのか、全くいい気分ではない。


そんな私の心境など知ったことかと言わんばかりに一枚一枚脱がしてゆく男。


仕方なしにザイフォンを使って攻撃するが、そのザイフォンも男のザイフォンによって打ち消されてしまった。

私のザイフォンを物ともしない男にゾクリと粟立った。

先程までは怒りが勝っていたが、今は…違う。


逃げられない。


そう頭で理解すると怒りなんかより恐怖の方が勝った。

カタカタと肩が震える。


「ぃ…ゃ……」


恐怖で声が出ない。

誰か、誰か…。


恐怖に溺れる。
息が上手くできない。


そんな私に男が気付いたのか、顔を上げるとニコっと笑った。


「震えてるの?大丈夫、すぐ気持ちよくなるから♪」


もはや男の言葉など理解できなかった。

この男は何といったのだろうか。


理解できないものか、脳を動かそうとすると、男は肌蹴た私の胸元に顔を埋めてきた。


「ねぇ君いくつ?幼い顔してるけど胸おっきいね〜。」


この場に似つかわしくない声だ。
まるでこの状況を楽しんでいるような…。


「あ、そうそう、オレヒュウガっていうの、よろしくね☆」


ヒュウガ…??
あのブラックホークのヒュウガ少佐と同じ名前だ…。

いや、同一人物か?
…まさか、そんなはずがない。
あのアヤナミ様率いるブラックホークの人間にこんな男がいるわけがない。


「で、君の名前は?」

「し、っらない…ゃっ!」

「つれないねぇ〜。」


男、ヒュウガはふっくらとした豊かな胸のその弾力を楽しむように揉みはじめた。
もう片手は白く滑らかな太ももへと伸び、ゆっくりと撫でる。


「ひゃっ、ゃ、め…ッ、」


イヤイヤと首を振って抵抗するが、やはり逃げられない。


突起を舐められ、吐息が熱くなってゆく。

素直に気持ちがいいと思えるような愛撫だ。
それほど慣れているのだろう。


「なんで、こんな…ことっ、」

「お腹空いたから♪」

「ご飯食べてよ!」


切実な願いだ。


「ご飯より君の方が美味しそうなんだもん。」


冗談じゃない。
この男の空腹のためだけに私は食べられるのか??


「ふざけないで!」


大声で叫んだ私に驚いたのか、男は顔を上げた。


「…君、変わってるね。」


男は太ももに伸ばしていた右手を私の目尻に運び、ボロボロと零れる涙を拭った。


「どこがよ!」


気丈に振舞うが涙は一向に止まらない。


「普通女の子って甘い言葉囁いてちょっと愛撫してやればすぐ善がって鳴くのに。」

「あんた一体どんな女の子ばっかり抱いてきたのよ、馬鹿ぁ…」


えぐえぐと子供みたいに泣けば、ついには男はオロオロとし始めた。


「泣かないで?ほら、気持ちよくしてあげるから。」

「根本的に違うっ!!」

「…じゃぁどうしたら泣き止んでくれる?」

「上から退けて、これ外して、それから服返して。こういうことしなかったら泣かないから。」


男は最初は渋ってみせたものの、ソロソロと上から退いて脱がせた分の服を手渡してくれた。


「あと後ろ向いて。」


そう言えば今度は素直に従ってくれた。


ゴソゴソと急いで服を着る。
まったくひどい目にあった。
今朝見逃した今日の占いは絶対最下位だったに違いない。


「もういいよ。」


ベッドから降り、男の横を警戒しながら通り過ぎる。

ドアノブを掴んで部屋を出ようとすると、男はさも残念そうな顔をしながら私の肩を叩き、「忘れ物」と髪留めを渡してくれた。


「…ありがと。」

「ホントにお腹空いてたのに…。」

「何馬鹿なことばっか言ってるの。」


おなか空いた、空かないで食べるものではないはずだ。


「今日のことは犬に噛まれたと思って忘れるから。もう二度としないで。」

「抱かれてもいいかなって思ったらいつでもおいで♪」


懲りてないな、この男。


「言っておくけど絶対ないから。私は愛のある行為しかしないの。こんなことばっかりしても報われないよ。貴方も、抱かれた女の人も。…ほら、手、出して。」


私はため息を吐いて、ポケットから取り出したそれをヒュウガの手のひらに乗せた。


「それ、あげるから。もう止めなよね。」


と、部屋を出た。


残されたヒュウガは手のひらに乗っているアメをしばらく眺めて、包みを開けると口に放り込んだ。


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