乳房に埋めて隠した



『いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です。』という某警部の名言が私の頭に木霊していた。

私と彼が付き合い始めて1年が経ち、キスは挨拶代わりみたいなものになってしまって、それ以上の行為にも慣れざるを得なくて。
それでもやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいけれど、出会った頃よりは幾分マシだと思う。

最近では、相変わらず無駄に多い彼のスキンシップも『はいはい』と流せるし、夜のお誘いだって本当に嫌な時は丁重に断ることだってできる。

世間一般でいうところの『初心』だった私が、こんな風に大人の階段を登らざるをえなかったのは偏に上司でもあり仲間でもあるヒュウガのせいだ。
そこで先ほどの冒頭の名場面を思い出す。

あれはもうまさに『盗まれた』、又は『奪われた』に等しい。

私の好みの男性はアヤナミ様のように硬派な人だったはずで、間違ってもヒュウガみたいな軟派な人ではなかった。
なのにどうしてか私は彼と付き合い始め、事実こうして一年が経過している。

これは私の人生において最大の疑問であるが、恐らく死ぬまで答えは出てこないと思う。
だって私の心は彼に『盗まれた』のだから。
盗まれたのであれば、いくら考えても仕方がない。


「あれ?名前、今日お休みとらなかったの?」


朝、中佐が眠気眼を擦りながら執務室にやってきた。
もちろんハルセさんと共に。
そのハルセさんも、私が今日はお休みをとるとばかり思っていたのか、若干驚いた表情を浮かべている。


「仕事溜まってるんでですね。」


確かに、私はここ最近ヒュウガが長期遠征から帰ってきた次の日は休みを取るようにしていた。
長期遠征から帰ってきたヒュウガの部屋でお泊りして、次の日はのんびり過ごす。というパターンが出来上がってきてはいたのだが、今は月末。死ぬほど忙しいのだ。
他部署には書類を早く提出しろと急かされるし、それでなくてもいつもの業務だってあるのに。


「ヒュウガ拗ねないの?」

「どうでしょう。昨日は特に何も言ってなかったですけど。」


一ヶ月の遠征から帰って来たヒュウガとコナツさんに執務室で労いの言葉を掛けてから、私の方が忙しいものだから会っていない。
会いたい会いたくないの問題ではなく、会えないのだ。

しかし気がかりな点が一点。
彼が長期遠征に出る前、私が生理で、彼はしたいと言って来たけど私が嫌がったから結局できなかったし、その後はもちろんヒュウガは遠征で会えてないしで1ヶ月以上してないのだ。
情事に対して前向きすぎる彼がいつ無理矢理にでも行動に及ぶか、時間の問題だと思う。

帰ると部屋にはヒュウガがいて…とか、なんてホラーだ。


「早く帰ってあげてはいかがですか?」


ハルセさんまで…。
皆、優しいですね。


「出来る限り、そうしますね。」


そうして私が笑って頷いてから数時間…いや、15時間が経った。
時計の針は当に0時を差したところで今日の分の書類がやっと終わったが、今日の分が終わっただけで明日にはまた明日の分の仕事が溜まっている。
今はそれに見向きもせず、誰もいなくなった執務室の電気を消して部屋を出た。

ヒュウガはもう寝てしまっただろうか。
彼のことだから起きているとは思うけれど、時間も時間だから訪ねにくい。

顔、見たいな…と思った後すぐ、少しだけ彼と触れ合いたいと思った。
あの大きな手が私の体を滑るのが好き。
次第に余裕がなくなっていく彼の表情を見るのが好き。

このまま自室に帰る気がすっかり失せてしまった私は、彼の自室に向かって歩き出した。

もちろんわかっている。
このまま彼の部屋を訪ねればきっと食べられてしまうだろうことくらい。
明日の仕事にだって響くだろう。
だけど、食べられたいと思った。


扉をノックすると、開いた扉の隙間から起きていたであろうヒュウガが驚いた顔を一瞬見せたが、彼はすぐに嬉しそうに笑って私を招き入れた。


「今まで仕事してたの?」

「うん。忙しくって。」

「月末だからねぇ。」


人事のように言うヒュウガ。
遠征に行っていた人はその月末の書類から逃げられるから少しだけ羨ましい。

部屋に入ると彼は一人でお酒を呑んでいたようで、足の低いテーブルの上にボトルと、飲みかけのグラスが置いてあった。
長期休暇の後はまとまった休みがもらえるから、ヒュウガは1週間の休みを満喫中だったようだ。
今頃きっとコナツさんものんびりしているのだろう、と思い至ったところでふんわりと後ろから抱きしめられた。

耳に彼の唇が当たる。


「襲われに来てくれたの??」


彼からお酒のにおいがする。
濃いアルコールの香り。


「少しだけそのつもりだったけど…お酒飲んでるなら出直してくるよ。」


酔っ払いとでは、できるものもできないし。


「大丈夫♪まだ飲み始めだったから勃つよ。」

「…いや、そんなこと聞いてないんですけど……」


耳元でダイレクトにそんなこと言わないで貰えますかね、と内心呟きながらも、右手を引かれてベッドまで誘われる。
ベッドの前までくるとゆっくりと押し倒されて、背中にひんやりとしたシーツの冷たさが伝わった。


「ずっとあだ名たんとこうしたかった。…なんか久しぶりだよね。」


ヒュウガの手が私の頬を撫で、耳を撫で、首筋から鎖骨へと滑り降りてゆく。
私が頷いて彼を見上げ、首に腕を回すと、キスが降ってきた。
遠征中に触れ合えなかった分、長く、深く。
ヒュウガからお酒の香りが漂ってきて、私までクラリと酔いそうになる。
何度も角度を変え、優しく食むように唇を動かし、そして舌を互いに絡めていくと、久しぶりに触れ合えただけで胸は昂ぶっているのに、甘い行為に熱を帯びてゆく。


「今日は絶対拒否させないから。」


キスの最中に囁くような吐息から聞こえてきたヒュウガの声は熱っぽかった。
久しぶりの行為に興奮しているのも、今日こうして触れ合えるかもしれないと期待していたのも、どうやら私だけではなかったようだ。

ヒュウガは舌を絡ませながら、私の軍服を器用に脱がせてゆく。
下着も全て取り払われ、待ってましたとばかりに彼の舌が胸の膨らみに齧りついた。
すでに主張している胸の突起を舌で押しつぶすように舐められれば、段々と息が荒くなり、甘い声が漏れ始める。


「あだ名たん、もっと声聞かせて…」


熱い下腹部に彼の手が触れると、ビクリと身体が跳ねた。
何度身体を重ねてもこの瞬間だけは慣れない。
私と彼しか触れた事のないそこはすでに潤っているようで、人差し指と中指が私の中で更に潤そうと抜き差しされ、たまに親指がそのすぐ上の敏感な突起を掠めるように触れると、自分でも大げさなくらい身体が跳ね、全身に力が入る。

ヒュウガはそんな名前の力を抜かせようと再び唇にキスを落として指を抜くと、自分も服を脱ぎ散らた。
私は生理的に浮かんだ涙をシーツへと零しながら、取り出したヒュウガのそれを精一杯腕を伸ばして優しく掴み、数回上下に扱くと自ら秘部に擦りつける。

彼は、大胆になったねぇ、と言いながらもどこか嬉しそうに笑っていて、今日は何だか彼の嬉しそうな表情ばかり見ていることに気付いて、私も嬉しくなった。

軽く腰を浮かすと、先端が中に入ったのがわかり、久しぶりの膣はそれだけでキュと締まった。
ヒュウガはここからはオレの独擅場だよ。と私の手を離し、腰を進めた。


「っ!!……ぁ、…はぁ…、ん……」


内臓が競りあがるような圧迫感の中に、確かに快感があった。


「ヒュウガ…、私、ね、」

「ん?」


慣らすようにゆっくりと律動する彼の頬に手を伸ばすと、その手に彼の手が重なった。
まるで交じり合うように、重なるように、溶け合ってしまいそうな錯覚に陥りながら、「私も、ずっと…こんなふうにヒュウガに触れて欲しかったの。」と微笑を浮かべると、彼は不意を衝かれたように目を大きく開き、次いで顔を赤くしたように見えたのだが、何故か彼の大きな手が私の両目を塞いだせいでしっかりとは見えなかった。


「なんで隠すの?!?!」

「…いやいやいやいや、反則だよねそれ。」


彼は片手で私の両目を塞いでいるため、指の隙間から覗き見ると、そのことに気付いたヒュウガは私の胸の谷間に顔を埋めて指の隙間を閉じた。

こうまでして隠したいということは、絶対赤くなってるんだ。と確信すると、ヒュウガの赤い顔なんて見たことないことに気付く。
これは絶対に見なければ。
アヤナミ様が純白そうに笑うのと同じくらい貴重な光景のはずだ。
いつも飄々としたヒュウガの表情が崩れたところを見たい!!!という一心で、私の目を塞いでいる彼の手を両手で剥がしたが、彼は変わらず私の胸の谷間に顔を埋めたままで、全然表情が見えない。
窒息死してるんじゃないかと心配になりかけて、彼の前髪を払おうと手を伸ばすと、止まっていた律動がまた再開した。
しかも先ほどまでのゆっくりとした律動とは変わって、もうラストスパートをかけるかのように早く、最奥を突いてくる。


「ぁっ、ん、んん、ぁ、ッ。」


一気に余裕を奪われてしまった私が彼を見た頃には、すっかりいつもと変わらない飄々とした、それでいて情事中特有の熱っぽい表情を浮かべていた。

腰を掴まれ、肌を打ち付けられる度に互いに絶頂へと駆け上ってゆく。
太ももが痙攣し始め、腰を掴んだままの彼の腕を掴んだのとほぼ同時に私は果てた。
彼は私の蠢く膣に尚も腰を打ちつけ、そのまま欲を放つと身体を前に倒し、私をきつく抱きしめて動かなくなった。

私は彼の背中に腕を回して同じように抱きしめる。
ピロートークがお得意な彼のはずなのに、今日はどこか情熱的で心が燻られる。
あのまったりとした時間も好きだけど、こうしてきつく抱き合うのもたまにはいいかもしれない。

思えばヒュウガの行為は1年前に比べたら少し大人になったような気がする。
元から上手かったけれど、なんというか、焦るような愛し方ではなくなった。
欲を放ちたいがために行為をしているというよりも、『愛したい、気持ちよくさせたい』という感情がひしひしと伝わってくるのだ。
そう考えると、彼は少しこういった行為に優しくなったように感じる。
そんな風に彼を変えることができたのが私だったとしたら、それはひどく誇らしい。


「ヒュウガ、好きだよ。」


昔の貴方も、今の貴方も。


「オレも。好き。」


彼は確かに私の心を盗んだけれど、私もまた、彼の心を盗んだのだのかもしれない、なんて自惚れながら彼の後頭部を撫でた。


END

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