赤ずきんと王子様
「ふっふふ〜ん♪」
陽気に鼻歌を歌い、空を飛んでいる女が一人。
ホークザイルに乗っているわけでも、デッキブラシに乗っているわけもないないその放棄に乗っている女は曇り空を見上げた。
「あーあ、曇りなんて残念。」
空を飛ぶ時は晴れが気持ちがいい。
だから今の天気にご不満なのだ。
そんなお気楽な女が雲と雲の隙間から顔を出した太陽に目を細めた瞬間、ドンッと体に何かが当たった。
それがホークザイルだったのに気付いたのは、体が真っ逆さまに地面へと落ちていっている時だった。
女は「もう、前を見て運転してよね…」と重力に逆らうこともせず、ただただ落ちていきながら思ったが、「私が姿を消して飛んでたから仕方がないか」と口を尖らせた。
自問自答した結果、自分が悪いことを悟った女は心の中で謝って地面へと降り立つ準備をする。が、どうやらその前に誰かに受け止められたようだ。
ぶつけられた瞬間、びっくりして人から見えなくなる魔法が解けてしまったようで、落ちてきた私を受け止めてくれた男を見て首を傾げた。
「空で交通事故にあったんだけど、怪我してたら保険下りるかな??」
***
空中事故にあった私は地上で受け止めてくれた男に無愛想に「適用されない」と言われてしまった。
とても美形だ。
王子様だ。
王子様。
すごくカッコいい。
となれば私はお姫様…??
いや、私はただのしがない魔法使いか。
まさかちゃんと答えてくれるとは思ってもいなかったので、優しい人だなぁ、と思いながら男の腕の中から地面へと降り立った。
「そうかぁ…、残念。」
パタパタと服を叩いて皺を伸ばし、背筋を伸ばすとゆっくりと男に向かってお辞儀をした。
「受け止めてくださってありがとうございました。」
「ホークザイルから落ちたの?無事でよかったね☆」
私を受け止めてくれた男の背後から現れた男2は、サングラスを指で軽く押し上げながら「あは☆」と笑った。
「いや、それがホークザイルにぶつかられたんですよね。でも大丈夫みたいなのでもう帰ります。それでは!」
ふわりと宙に浮けば、鞭が私の体に巻きついてきた。
鞭の実物を拝む日が来るとは夢にも思わず、目が点。
これは鞭。
うん、鞭。
そう、鞭。
鞭…。
「えぇ?!?!鞭っ?!?!?!」
空に飛び立つことができず、ビックリした。
いや、それ以上に鞭にビックリしたのだけれども。
「私ノーマルです!SMとかちょっと…。いや、マンネリ化してきたらたまにはいいかもだけど、でもノーマルのフリはしておこうかな、とか…、」
「何の話だ貴様。」
鞭ごと引っ張られた私は男の下へ逆戻り。
それはそれは逆再生したよりも滑らかだ。
今の私はブルーレイにも負けていないだろう。
「あ、あの…」
「何者だ。」
一人は鋭い目つき、一人は笑顔だけれど警戒を緩めないところを見ると、どうやら私は怪しまれているよう。
「…あ、姿消して飛ぶの忘れてた。」
やば、人間にバレちゃったよ…。
帰ったらお母さんに怒られちゃう。
「なんか、君って魔法使いみたいだねぇ〜。」
「あ、はい。そうです。」
……
え?なんで無言なの??
これだから人間は。
人間に使えないヘンな力を持ってるってだけで化け物扱いだもんなぁ。
見てよ、この顔。
私を受け止めた銀髪の男なんて見下すように見ちゃってさ。
これだから人間って、
「使えるな。」
「うん、使えるね☆」
そうそう、使える…って、違う!!
「貴様の名は。」
「…名前…。名前=クロイツェル。」
答えないと殺されそうだ。
この人の眼力…すごい。
「そうか。貴様はこれから私のものだ。」
「は?」
「貴様は空から落ちてきた。」
「うん。」
「それを私が拾った。」
拾ったって言うか、受け止めたっていうか…。
…拾ったでいいのかな??
「だからお前は私のものだ。」
「いや、意味がわかりません。」
「落ちていたものを私が拾ったのだから私のものだ。」
違う!
私は落ちてきたんであって落ちていたんじゃないの!!
これだから人間は!
「私、これからおばあちゃんのところにお見舞いに行くんです。だから…」
「赤ずきん??」
サングラスの男が面白そうに首を傾げた。
「だから魔法使いだって。それよりも本当に行かないといけないところがあるので、人間のものにはなれないんですよ。」
「狼に食べられたくなかったらオレたちと一緒に来たほうがいいよ♪」
「どんな脅しっ?!?!」
もう、これだから人間は!
私は魔法で鞭を緩め、スルリと逃げ出して宙に浮いた。
「じゃ、」
今度こそ本当に去ろうとしたら、次は銀髪の男にザイフォンで私の体を拘束された。
…しつこい。
私はまたもや魔法でザイフォンを打ち消した。
これでこの人達ともおさらばだと思った瞬間、首に手刀を入れられた私はその場に崩れ落ちた。
もうこれだから人間は!
何度でも言うよ。
これだから人間は!!
王子様?
いえいえ、ただの人攫いでした。
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