不釣り合いだと笑っておくれ



「名前、ホントに一人で帰れる?」


心配する友人を余所に私は「帰れる帰れる!」と陽気に返事をした。
ちょっと足取りが覚束ないし、呂律が上手く回らない上に瞼が重たいような気がしなくもないけれど、全然平気、全然大丈夫、ちょー余裕。
彼氏から『会いたい』とメールを貰った友人を、親指を立てて見送ろうとするが、どうも信用がないのか友人の表情は浮かない。
ホントごめんね、今度また飲みに行こうね。ちゃんと軍まで帰るのよ。と去っていった友人を見えなくなるまで見送り、私は踵を返した。

彼氏かぁ…、いいなぁ。とちょっと寂しい気持ちになりながら、軍までの道のりをヨタヨタと歩きはじめる。
おかしい、ふわふわと地面が揺れてる気がする。
あれか、最近でいう異常気象ってやつか。


「私も彼氏欲しいなぁ…。」


そう、例えばアヤナミ様みたいな。
こんな時迎えに来てくれたらとっても嬉しいんだけど。
カリスマ性があって、『一人で帰ってこい』とか言いながらも迎えに来てくれそうな不器用な優しさをみせてくれる人がいい。
そう、例えばアヤナミ様みたいな。
人望が厚く、誰よりも強い人がいい。
そう、例えばアヤナミ様みたいな。
軍人とはいえど下っ端の下っ端である私なんかが想いを寄せていることさえ許されないような人だけれど。
それでも、彼を想うのは私の勝手だ。

友人には『あんたは理想が高い!』なんて言われるけれど、それでも、私はアヤナミ様に憧れにも似た恋心を抱いている。
彼と私では釣り合わないことくらいわかっているけれど、それでも、好きだから。


「わ、っぷ!!」


考え事をしながら歩いていたせいか、それとも千鳥足のせいか、ドンッと人にぶつかった。
勢いのあまり尻餅をつく形で転倒しそうになったが、腕を引かれてそれは免れたものの、ぶつかった人の胸板にぶつけた鼻が痛い。
鼻ぺちゃになったらどうしてくれる。


「す、すみません…。」


鼻を摩りつつ謝りながらぶつかった人を見上げると、そこには非常にアヤナミ参謀にそっくりな人が立っていた。


「あれ…アヤナミ参謀の……そっくりさん??」


髪の色も、瞳の色も、体格も、顔だって似てる。
むしろ似ていないところを探す方が難しいだろう。


「わー。すっごく似てますねー双子ですか??」

「余程酔っているようだな。誰かといるのならまだしも、女が一人でそれほど泥酔するまで飲むのはあまり感心しないな。家はどこだ。」

「家…軍、かな。これでも軍人の端くれなんですよー。」

「そうか。私も戻るついでだ。送っていこう。」


歩き出すそっくりさんについて行くような形で私も歩き出す。
その歩調は私に合わせてくれているようでひどくゆっくりだ。


「何故私がアヤナミではないと思う?」

「だってこんな居酒屋ばっかりの通りにアヤナミ参謀がいるっていうイメージが沸かないし、そっくりさんもそう思わない?」

「まぁ、確かにこの通りを歩いていただけだな。」

「私、アヤナミ参謀のことが好きなんですよー。冷酷だとか非情だとか噂がありますけど、私には部下のブラックホークの方々は人望を寄せているように見えるんですよねぇ。あ!そうそう、私一度アヤナミ参謀に声を掛けてもらったことがあるんですよ!すごいでしょう??」

「何がすごいのか理解し兼ねるな。」

「え、だってあのアヤナミ参謀から声を掛けてくれたんですよ!!確かあれは私が隊長補佐に昇進したばかりの頃で隊長にくっついて初めて会議に出席したんですけど、もう会議が始まる!!って時にあらかじめ目を通しておくようにと配られてたレジメを忘れてしまったことがあったんです。取りに戻る時間もないし、でもレジメは必要だし、前に座る隊長に見せてもらうこともできないしであたふたしてたら、アヤナミ参謀が自分の分のレジメを私に黙って差し出してくれたんです!それで私、アヤナミ参謀も必要なはずだから『さすがに受け取れません』って言ったら、アヤナミ参謀は」

「全て記憶しているから。問題ない。」

「…え?え?!?!そ、そうです!そう言われたんです!え、ちょ、もしかしてそっくりさんってばその場面見てたんですか?!?!?!」

「お前の頭の回転は少しズレているようだな。」


呆れたような言葉だったけれど、その声色はどこか微笑を孕んでいた。


「はー。なんかアヤナミ参謀の話ししてたら興奮してきた!あれは絶対惚れるよ!反則だよアヤナミ参謀ー!!」

「うるさい。この酔っぱらいめが。」


今度こそ呆れたような目線を送られたが、私は何だかとても気分がよかった。
ただでさえお酒を飲んでいるのだ。さっきから高揚しっ放しで何だかまだまだ眠れそうにない。

なのに。
あんなにゆっくりと歩いていたのに、あっという間に私の自室の前についてしまった。


「少しの間でしたけどお話できて楽しかったです。」


同じ軍人のようだし、またいつかは会えるだろうけれど別れを惜しむくらいには楽しかった。
今度は2人で飲みに行くのも面白いだろう。


「今年やっと副隊長になったから一人部屋なんです。まだ全然狭いですけど、それでもよければ送って下さったお礼にお茶でもお出ししますよ、そっくりさん。」

「そう簡単に男を部屋に上げるものじゃないな。」

「駄目ですか?」

「そこまで言われると誘われているととるが?」


妖しく口の端を小さく上げるそっくりさんに、私は「それでもいいかな。」と呟いた。
お酒の力というのは恐ろしいものだ。


「どうせアヤナミ参謀への恋心が叶わないなら、そっくりさんでも……って、貴方に失礼ですよね、ごめんなさい。」

「…いや、そうでもない。」


2人で部屋に入り、明かりをつけることなくベッドに縺れ込む。
吐き出す吐息が熱いのは、酔っているからか、それとも私を組み敷いているのがアヤナミ参謀だと錯覚してしまっているからか。
長い彼の指が私の髪を梳き、唇が触れ合う。
冷たい唇はその温度と反してとても優しいものだ。


「名前…。」


キスの合間に熱っぽい声で名前を呼ばれた。
そこでようやくお互いに名乗っていないことを思い出す。
どうして彼は私の名前を知っているのだろうか。

疑問が頭の中にふと浮かんだが、するりと服の裾から下着越しに胸を揉まれ始めるとそんなことどうでもよくなった。
確かに彼の温度や感触を感じているのに、お酒は私を夢の中へ誘いはじめる。
きっと自室に帰ってきたことでホッとしてしまったのもあるのだろう。
しかし今ここで眠ってしまえば、朝起きた時にはすでに彼はきっと私の目の前からいなくなっているに違いない。


「あ…、名前、なんていうんですか?」


この人なら、私は今のこの想いを忘れて、新しい恋が出来そうな気がする。
だからせめて、名前だけでも知っていたい。
店からこの部屋までの一時間に満たなかった時間を一緒に過ごしただけかもしれないけれど、またこの人と話したいと思うのだ。

彼は何かを考えているようで少し間を空けたが、私が睡魔に負けそうになっていることに気付くと、悪巧みを企んだ子どものような笑みを浮かべ、言った。


「朝、起きたら教えてやろう。」


不釣り合いだと笑っておくれ
それでも私は、彼のことが好きなのです。

(んなっ?!ななななんでっ!?なんで同じベッドにアヤナミ参謀がっ?!)

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