prologue



私の日常は朝起きて天井を見上げることから始まる。
自分の体温で温かい布団と朝日に包まれながら、染み一つないオフホワイトの天井を寝ぼけ眼で見上げていると丁度1分後に目覚ましが鳴り響く。
今日も時間通りの起床。絶好調だ。
ヘッドボードに手を伸ばして目覚ましを止めると体を起こした。

「よし!」

いつもと何ら変わらない一日の始まり。
ベッドから降りてキッチンに立つと、オーブントースターに食パンを放り込んでタイマーをセット。
やかんに水を入れて火にかけ、その間に洗面所で顔を洗った。
さっぱりしたところでキッチンに行けばやかんが私を呼んでいて、お気に入りのマグカップを戸棚から取り出してインスタントコーヒーをスプーン二杯いれて火を止めたお湯を注ぐ。それからたっぷりの牛乳も。

「うわ、焼きすぎた。」

端が若干焦げた食パンをトースターから取り出して軽く焦げた部分をスプーンでこそぎ落としてお皿に乗っける。
冷蔵庫からバターとジャムを出して椅子に座って温かいパンに塗って囓った。
テレビをつけて今日の天気と運勢を観て、その結果に一喜一憂する。
どうせ仕事に行く頃には忘れているのに。

コーヒーを啜りながらテーブルの上の携帯を手に取り、発信履歴の一番上にある人物に電話を掛ける。
規則的な機械音が耳に届き、コールが5回目にして漸く相手が電話に出た。
しかし声は聞こえてこない。その様子に小さく笑みが零れる。

「おはよう、お寝坊さん。今日はいい天気だよ。」

カーテンを開ければ昨晩の雨が嘘だったかのように雲一つない快晴が広がっていた。
太陽の光を浴びて左の人差し指でキラリと光る指輪にキスを一つ落とす。
先日電話先の相手がくれたものだ。結婚を約束する証。
それなのに彼は未だうんともすんとも返答がない。

「参謀様が遅刻なんて部下に示しがつかないでしょ。はい、起きる起きる。」

朝には滅法弱い我が国の参謀はたっぷり3秒の沈黙の後、「お前は今日も朝から元気だな。」と寝起き特有の低い声が聞こえた。
確かに私は朝に強い。でも夜は弱くて、11時にもなれば眠たくなってくる。
彼とは正反対だ。

「昨日何時に帰って来たのか知らないけど、遅刻はできないでしょ?起きれる?」

「あぁ。」

「起きる?」

「あぁ。」

生返事に苦笑いするが、ベッドからもぞもぞと起き上がるシーツの擦れる音がして彼が起きたことを知らせてくれた。

「今日もお仕事がんばってね。」

「名前。」

いつも通りの流れで電話を切ろうとしたが、名前を呼ばれて離しかけた携帯を再度耳にあてた。

「今晩時間はあるか?」

「うん。いつも通り定時には終わると思うよ。」

「部屋にいろ、迎えに行く。」

「わかった、待ってるね。」

電話を切ると使った食器を洗って、今度は歯を磨きながら軍服に着替える。
うがいをしてドレッサーの前に座って化粧を施し、髪の毛を梳かせば準備は万端だ。

「いってきまーす。」

一人暮らしの悲しい性。
返事はもちろん返ってこないのをわかっていても呟いてしまう。
それでも今日の声色はいつもより明るいように思えた。
なんといっても今晩はアヤに会える。
同じ軍人とはいえ参謀であるアヤが定時に上がれるとは思っていないが、どんなに遅くなっても会いに来てくれることを知っている。
明日は休みだ。のんびり待ってあげるとしよう。

私は今日を始めるために扉を開けた。

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