毒舌メイド、参上!
「名前=名字と申します。メルモット上級大将の命により、今日から参謀様のメイドとしてお仕えすることになりました。どうぞよろしくお願いいたします。」
「……。」
人の第一印象とは大切なものである。
最初にあまり良い印象を与えられなかったなら、深い交友関係を築いていかない限り良く思われないことは必須である。
第一印象だけでは人間の中身まではわからないと言いはするが、その印象が良くなければ、きっかけがなければ仲良くする気も起きないというものだ。
つまり、何事も始めが肝心。
それが上っ面だけの笑顔だったとしても、しない人間より幾分かマシだろう。
上記の人間は交友関係、0からのスタートだが、そうでない人間の交友関係はマイナスからのスタート。
少なくとも、自分はそう思っている。
思っているだけなので、それを人に押し付ける気も更々ない。
そういう自分だってニコリとも笑わないのだから、いくら人に説いても説得力の欠片もないだろう。
それでも、それでもだ。
男は度胸、女は愛嬌という先人の言葉があるように、女性は少しくらい微笑んでもいいと思うのだ。
この言葉が男女差別だと言われるかも知れないが、これも人に説く気もないので右に同じ。
今までの女性は少なからず、緊張した面持ち、もしくは微笑んで挨拶をしてきた。
ところがどうだ。
目の前の女性はニコリとも笑わず、はにかみすらもしていないではないか。
一見、緊張しているのかと思いもするが、どうもそんな様子ではない。
はたまた顔に出ないタイプなのだろうか。
それはそれで構わないが、それでも第一印象は大切だと改めて思わされる出会いとなったことは確かだった。
「名前=名字と申します。メルモット上級大将の命により、今日から参謀様のメイドとしてお仕えすることに、」
「何故二度繰り返す。」
しかも先程より声が大きい。
「お返事がなかったもので。聞こえてないものは言ってないものと同じです。参謀様のお耳は遠いのかと思い、大きい声で言い直しさせてもらっていたのですが、不必要だったでしょうか?」
その薄く淡いピンクの唇から紡ぎだされる毒舌に一瞬耳を疑った。
相変わらず微笑みもしない女、名前は上品に体の前で手を重ねてまっすぐにこちらを見てくる。
「必要ない。」
憮然とした態度で返すも、女も憮然とした態度なのであまり意味はないようだ。
背筋は嫌味のようにピンと伸び、顎は小さく引かれ、両足の踵はきっちりとくっつけられている。
まるで女の性格を表すかのような姿勢だ。
「左様でございますか。」
「仕事内容はこの紙に書いている。目を通しておけ。主に執務室の掃除と私の自室の家事全般だ。」
「かしこまりました。つきましては、私からお願いがあるのですが。」
「何だ。」
「参謀様という呼び方は少々堅苦しいのでアヤナミ様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
勝手にその呼び方をしておきながら、堅苦しいとほざく女。
役職名で呼ばれるのは大して気にもしていなかったが、こうも堂々と堅苦しいと言われると目の下が小さく痙攣した。
「勝手にしろ。」
「ありがとうございます。ではアヤナミ様、先程から目の下が痙攣しておりますがストレスですか?」
誰のせいだ、誰の。
ただでさえ面倒なのはヒュウガでたくさんだというのに、さらに面倒なのが増えた。
「それとも寝不足の方でしょうか?目の下の痙攣はビタミン不足とも言われておりますが、青汁などお作りしましょうか?」
「いらぬ。」
「子供のような好き嫌いは関心いたしません。」
仮にも主人を子供扱い。
痙攣しっぱなしの目の下を軽く揉んでやる。
「放って置けば治る。」
「主人の体調管理をするのもメイドの務めでございます。早速私の仕事を奪われるおつもりで?」
「そういうことは、やることやってから言え。」
「そうですね、大して心配もしていないのでそうすることにいたします。助言ありがとうございます。」
一言多い上に毒舌メイドにこれから骨が折れそうだと思えばさらに痙攣してくる。
少しだけでも微笑めば可愛げもあるというのに。
これからたくさん吐かされることになるであろうため息の、記念すべき第一号を吐き出した。
(この女、第一印象は最悪)
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