クリスマスパーティー

クリスマスイヴ当日、マルフォイ邸の応接間にある暖炉から煙突飛行で 一組の男女――それも少年少女といえる容貌――がやってきた。
少女の方は艶のある深緑の上品なドレスを優雅に着こなし、口元には笑みを浮かべていたが、対して男の方は、といえば少女と対になるような燕尾服を身にまとい、無表情を貫いている。
口を開いたのは少女の方だった。


「お招きいただき光栄ですわ、Mr.マルフォイ。私はシェリル・ウィンターソンです。こちらはセオドール・ノット。ご子息にはいつもお世話になっております」

「これはご丁寧にどうも。息子が迷惑をかけてないと良いのだがね」


二人を出迎えたのはこの屋敷の主人、ルシウス・マルフォイだった。

常ならば、挨拶をしてパートナーを紹介するのは男性の役目でもあるのだが、それが例外になる時がある。
女性側の家格が上の場合だ。
それもあってか、セオドールは何も言わないし、ルシウスもまたその事実を知っているため指摘することは無かった。

彼はシェリルとセオドールを見定めるような視線を送った後、にこりと笑ってあいさつに答えた。


「いえ、とても優しくしていただいております。自慢の友人の一人ですわ」

「君の話は息子から聞いているよ。とても賢く、美しく――最高の”友人”だと」


ドラコから入学前の、コンパートメントでのやり取りを聞いているのだろう。
ルシウスの言葉は意図的にそれを伝えようとしているのか、友人の部分を強調した。


「もったいないお言葉ですわ。それに、贈り物まで頂いてしまって……」


形の良い眉を申し訳なさそうに下げたシェリルに気を良くしたルシウスは微笑を浮かべてシェリルの手を取り軽く口づけた。


「贈り物くらい気になしなくてもいいさ、ドラコがお世話になってるわけだし。君のおかげで成績が上がったと喜んでいたからね」

「滅相もございません」


謙遜するシェリルの後ろではセオドールが不機嫌そうな表情でルシウスとのやり取りを聞いていた。
(そもそもシェリルはドラコに一切世話になんかなってない!というセオドールの主張が二人のそばにいる人間が見れば表情から読み取れるだろう)


「それにしても君は美しいな」

「ありがとうございます」

「私が既婚でなければ間違いなく君を口説いていただろうね」


妖しく笑うルシウスと微笑みを崩さないシェリルの会話を聞きつつだんだんと不機嫌さが増していくセオドール。(もうすでに口説いてんだろ、このロリコンオヤジめ!シェリルは自分の息子と同い年だろうが!というセオドールの(略))

そろそろセオドールの機嫌が過去最低になりそうな瞬間、こんこんとドアがノックされ、中に入ってきたのはルシウスの妻、ナルシッサだった。
今日のパーティーのこともあるるのか上機嫌のようだ。


「ルシウス、皆さんそろったわ。あなたもお客様をご案内してちょうだい」

「あ、あぁ。分った。すぐ行くよ」

「あら、綺麗なお嬢さんね!とっても可愛いわ!」

「Mrs.マルフォイ、お褒めに預かり恐縮ですわ。私、シェリル・ウィンターソンと申します。こちらはセオドール・ノット」

「あら、あらあらあら!貴女達がドラコが言っていたお友達ね。ノットくんの方はお父様を存じているのよ」


うふふ、と笑うナルシッサは妙齢になっても今だ少女のような可憐さを持ち合わせており、そしてそれがとても似合っていた。


「シシー、そろそろ」


ルシウスに促され、自分が何のためにルシウス達を呼びに来たのか思い出したナルシッサは笑ってシェリルとセオドールの背中に手を当て歩き出した。







大広間はクリスマス色に飾り付けがさており、華やかな中に上品さがあって見た者が嘆息する幻想的な光景がそこにはあった。

天井近くから頭上あたりで降っては消える雪。
キラキラと輝く銀色のベル。
中央に置かれた大きなクリスマスツリーは電飾はないのに目に痛くない程度の明るさで七色に光っている。

パーティーの参加者も騒がしくする者はおらず、むしろパートナーの肩を抱き談笑したり、クリスマスツリーを指差しては何かを囁きあっている。

ふと、来客用の入口の方で驚きの声が次々に上がる。

驚きの声につられて周囲の客たちがそちらへと視線を向けた。その先には、美しいという言葉では足らないほどの姿をした女性がいた。

横に流して緩く編んだ艷めくハニーブラウンの髪。
やや不健康といえるほど白い肌。
一目見れば目を離すことなど出来なくなるほど、溢れる魅力的な笑み。
綺麗なシルエットを映し出すマーメイドドレスは光沢のある手触りの良さそうな絹で作られ、彼女は柔らかな黒を纏っている。

彼女の傍らには漆黒の男がいた。
周囲を威嚇するような鋭い視線を振りまき、彼女に集ろうとする害虫に目を光らせ、彼女の隣でただ、彼女にだけ意識を向けている。

そんな所へ、主催の妻であるナルシッサが喜びを一面に出して駆け寄った。


「ジル!それにセブルスも!」

「ごきげんよう、シシー」

「来てくれてありがとう、二人とも。待ってたのよ。ほら、ドラコ。挨拶を」


ナルシッサの後ろをついて来ていた愛しの甥っ子を前にジルは完ぺきだった微笑みを崩して親しい者へと向ける柔らかい笑みへと変えてドラコに笑いかけた。


「ジル叔母様、それにスネイプ先生も!お久し振りです」

「ドラコ!少し見ないうちにまた大きくなったわね」

「ホグワーツでも顔は合わせているが元気そうで何よりだ、ドラコ」


礼儀正しく挨拶をしたドラコに二人は笑みを向ける。
グリフィンドールが絡むとアレだが、基本的にはこの甥っ子(教え子)がどうしようもなく可愛くてしょうがない二人なのだ。
ナルシッサはそんな三人の様子に微笑みを見せると、客人の迎えに行って戻ってこないルシウスを迎えに行くと言いその場を離れた。


「そうだ、叔母様に紹介したい子がいるんです」

「誰かしら?もしかしてドラコのガールフレンド?」

「違います!確かに美人ですけど、そんな関係では……」

「あら、そうなの?セブルスからも仲がいいって聞いてるけど」

「!スネイプ先生!」


むぅ、と怒っていると示したドラコはスネイプを軽く睨むと、本人はやれやれとばかりに肩を竦めた。


「ほら、拗ねてないで後ろにいる可愛いお嬢さんを紹介してちょうだい」


ジルに言われて振り返ったドラコの視線の先にはシェリルとパートナーとして来たセオドールがいた。その後ろにはナルシッサとルシウスもいる。


「シェリル、よく来たな!」

「ドラコ、今日はお招き頂きありがとうございます」

「紹介する、親戚のジル叔母様だ。叔母様、シェリル・ウィンターソンです」

「初めまして、ジル様。両親からお噂はかねがね伺っております、以後お見知り置きくださいませ」

「ふふ、二人にそっくりね。よろしくね、シェリルちゃん」


美女と美少女の組み合わせに周囲の目は釘付けだ。


「……そろそろ挨拶に行かなくては」


ベルベットボイスに視線を向ければ、そばにいたスネイプは心底不機嫌な表情で周囲を睨みつけている。


「そうだったわね。……それじゃあ残念だけど、ドラコ、シェリルちゃん。また会いましょう」


次はお茶でも、とジルはスネイプの差し出した腕に自分の手を絡ませつつその場をあとにした。