01



清々しい朝。
気分良く目覚めた私は制服に着替えると髪を整えてから階段を降りてリビングへ向かった。


「おはよ。お兄、パパ」

「おはよう」

「おはよう、桃子さん」


双子の兄である桃矢お兄と父よ藤隆パパと挨拶を交わし、飾ってある母の写真にもおはよう、と声をかけた。

亡くなった母の撫子だ。
父が毎日写真を変えているからか今だ同じ写真を見ることは無く、今日の写真も幸せそうに笑みを浮かべ、薄オレンジのドレスを着た母の写真に笑いかけた。


「桃子、今日サッカー部の朝練だけどどうする?」

「んー、雪もいるんだよね?」

「多分な」

「じゃあ後ろ乗せてって」

「おー」


雪とは高校1年の三学期に転向してきた月城雪兎のことだ。雪が転校してきてから仲良くなった私達は毎日予定が合えば登下校を共にしている。

その時二階からドタバタと慌てた様子で降りてきたのは私とお兄の妹、末っ子のさくらだ。

からかわれるのを分かっているのか、気まずげにリビングに入ってきたさくらを見てお兄は意地悪く笑う。


「なにばたばた暴れてんだ」

「あばれていもん!」

「おまえが歩くだけで怪獣が闊歩してるみたいな音がするんだな」

「さくら怪獣じゃないもんーーー!!」


怒るさくらを軽くあしらい、お兄はまた笑った。
それを見ている私はまたか、と呆れつつパパが用意してくれた朝食を食べ始める。

毎朝同じようなやり取りだが、これがお兄と妹ののコミュニケーションだ!(多分)


「朝から仲よしさんだねぇ」


にこにこと笑ってパパは、さくらの朝食を持ってきた。
ようやく食べ始めたさくらを視界の端に収めつつ、私は箸を進める。
お兄は既に食べ終えてお皿を流しへ片付けていた。


「ごっそさん。桃子、行くぞ」

「ん。ご馳走様でした!」

「えっ?!もう出るの?」

「サッカー部の朝練」


制服のブレザーを羽織って答えるお兄。
パパから自分とお兄のお弁当を受け取ってリュックに入れるとお兄のあとを追って家を出た。
いつものようにお兄が自転車に跨って待ってくれていたので、私はその後ろの荷台に乗るとすぐに走り出した。


「お兄はいつもさくらに意地悪するね」

「うっせ」


家を出てそんなに経たない内にパパに送り出され、ローラーブレードでさくらが急いで追いかけてくる。


「ちょ、ちょっとまってーー!」

「もう少し遅く出ても間に合うだろうに」

「うう……」


呆れた表情を浮かべるお兄に代わって私が言うとさくらは「だってぇ……」と言い淀む。
何が何でも私とお兄に時間を合わせる理由は大体見当がつく。


「おーい!」


学校へ向かう途中で待ち合わせをしている雪兎がいた。
さくらが私達に合わせて家を出る理由は雪兎に会うためなのだ。

……途端に『はにゃーーん』状態になるさくらをお兄も私も苦笑いで見ていた。


「よ!」

「雪、おはよ」

「桃矢、桃子、おはよう!さくらちゃんも、おはよう。早起きだね」

「は、はい!」

「怪獣は五分で朝飯食えるからな」


にやっと笑って言ったお兄にさくらがローラーブレードで蹴りを入れていた。これはいいところに入ったらしく痛みに悶えるお兄。

乙女をからかうのはいけません!


「お兄、朝練遅れるよ」

「お、おー……」

「行こうか」


雪は自分の自転車に乗る。合わせて走り出して学校へ向かった。


「そういえば最近、さくらちゃんお寝坊さんなんだって?」

「え?え?どうしてですか?!」

「桃矢に聞いたんだ。最近夜更かししてるのか朝なかなか起きてこないって。夜眠れないの?なにか心配事?」

「のうてんきに心配事なんてねぇな」


あー、またそんなこと言うと蹴りが入る……と思っていたが、さくらにとってはタイミング悪く小学校に着いてしまった。
残念そうに声を上げるさくらに向かって、雪兎がキャンディを投げた。


「またね」


うっとりと見とれているさくら。


「あーあ、雪兎も罪作りねー」

「?何のこと?」

「桃子、やめとけ。雪は鈍いんだから」

「仕方ないか、雪だもんね」


何のことか分かってない雪兎に苦笑した私とお兄。

学校に着いてお兄は朝練へ向かって、私と雪兎は教室へ。


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