04
翌朝、一番に目が覚めた私は自分の分だけ食事を用意して食べていると、パパが起きてきた。
「桃子さん、ごめんね」
「大丈夫だよ、いつもよりだいぶ早いし」
お寝坊なさくら、朝練もあるお兄、お兄に合わせて家を出る私達にいつもご飯を作って送り出すまでをやってくれるパパ。
今日はかなりイレギュラーな方なのだから仕方ない。
「ご馳走様でした。パパ、多分今日もさくら、ぎりぎりに起きてくるから簡単なものにしてあげた方がいいかも」
「そうかい?じゃあトーストにしようかな。桃子さんの勘は良く当たるから」
「えへへ、まぁね!じゃあパパ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい、気を付けて」
パパに見送られ、雪兎といつも待ち合わせをしている場所でで五分ほど待ってると。
「あれ、桃子?!どうしたの?」
「あ、雪!良かったー、すれ違いになってなくてー」
「桃矢は?」
「今日雪が試合って聞いてたから微力ながら応援しようと思って。あとお兄が今日はさくらを後ろに乗せる予定だったから」
「そうなんだ?……っと、遅れちゃうな。桃子、乗って」
「ありがとう!」
雪兎の自転車の後ろに座ると、普段より少しだけ遅めのスピードで走り出し、学校へ向かい始めた。
横向きで乗っていた私はそのまま雪兎の背中に寄りかかる。
いつもより冷たい風と、雪兎の背中の暖かさとが相まってとても心地よい眠気がやってきた。
「桃子、着いたよ」
「……!あ、うん!」
うとうとしていたらいつの間にか学校に着いていた。
雪兎が細心の注意を払って自転車を運転してくれていたおかげで荷台から落ちずに済んだようだ。
雪兎様様である……。
「じゃあ僕、準備してくるね」
「うん。頑張ってね、応援してる!」
雪兎と別れてしばらくすると試合が始まり多くの射手が現れ、順番に弓を構え射る。
雪兎の番になり、普段の様子からは想像出来ない真っ直ぐ前を見据える雪兎の表情に一瞬ドキリと心臓が跳ねた。
ヒュッと矢が風を切る音が耳に心地いい。
狙って放たれた矢はそのまま吸い込まれるように中心へ向かっていく。
「わああぁぁあ」
周りから歓声が上がる。
真面目な顔から一転、にっこりと笑顔を浮かべた雪兎のそばにはさくらとお兄がいた。
少し距離があるのか会話は聞こえない。
楽しそうに話しているところに割り込む気になれずそのまま教室へ戻ろうと踵を返したその時だった。
また、体育の時と同じ強風が吹いた。
屋根があるとはいえ外にあるこの場所であの風が吹けば、置いてあった的だけでなく、屋根の瓦も吹き飛んだ。
叫び声が上がる。突風に巻き込まれながら見上げれば、やはり同じ、大きな鳥が渦の中心にいた。
「っ……!」
自分の体も飛びそうになり堪えきれずしゃがみ込むと、小さな鳴き声が耳に入る。
怯えているような、まるで痛みに鳴く鳥の声が聞こえた。
見上げようとした時にはすでに風も弱まっていて鳥の姿も見えなくなっていた。
「桃子!」
「え、雪?なんで、」
私のところへ走ってきた雪兎。
「大丈夫?!怪我は?」
「してないよ、大丈夫」
「お姉ちゃん!大丈夫?」
雪兎に続いて走ってきたのはさくらだった。お兄もその後ろから来ていた。
「さくらも大丈夫だった?」
「うん!お兄ちゃんが助けてくれたから」
「おさえなくても飛ぶわけなかったな、重いから」
照れ隠しなのか、重いを強調したお兄にさくらの飛び蹴りが入る。雪兎は奇跡的その場面を見ていなかった。と言うより私の怪我チェックに精を出していたからだ。
夜、またこそこそと出て行くさくら。
「……今日で決着、かな?ねぇ、どう思うお兄?」
私の部屋で雪兎がくれたお菓子を二人で食べていたのだ。
もぐもぐしているお兄に話しかけると、手を止めてこれみよがしにため息をついた。
「知るかよ。つーかまた寝坊すんじゃねぇの?」
「今度はローラーブレード持ってないから大丈夫だよ。あの鳥さん可愛かったのになぁ。さくら、遊ばせてくれないかなぁ」
「無理だろ。あれで隠してるぽいし。つーかお前、あんなデカい鳥が好きなのかよ」
「えー、可愛いじゃん、鳴き声も!あーあ、後つければ良かったかなぁ」
私がそう言った瞬間にお兄から飛んでくる鋭い視線。
危ないことはさせんぞ!と目だけで言っている。
「分かってるよー。そう言えば、お兄は大阪弁で喋るぬいぐるみ知ってた?」
「あんだけ騒いでりゃな。気付いてないの父さんくらいじゃねーの?あれで隠せてるつもりらしーし」
「あはは、確かに賑やかだもんね。朝さくらを起こしてる時とか、私達がいない時もか。楽しそうにゲームしてるし、私もあんな喋るぬいぐるみ欲しい」
「おい……」
いいなー、と羨む私を睨むお兄。
「わかってるよー、あれがそんな可愛らしいもんじゃないってことくらい。これでもお兄より勘は良いんだから」
「……分かってんならいい。気をつけろよ、ただでさえ引き寄せるんだから」
「お兄は過保護だなぁ……」
見えるだけならまだしも引き寄せてしまう体質の私は小さい頃からお兄に助けてもらいっぱなしだった。
さすがに大きくなった今では大抵のことは自分でなんとかできるようにはなったが。
お兄は苦笑いしながら頬を膨らませた私の頭を優しく撫でてくれた。
「さくらにもこれくらい優しくしてあげればいいのに」
「怪獣にはあれで十分だろ」
ふん、と鼻で笑うお兄。
ほんと、素直じゃないんだから。
「俺はもう寝る!お前もさっさと寝ろよ」
「うん。おやすみなさい」
部屋を出ていくお兄を見送って私は部屋の明かりを消してベッドへと潜り込んだ。
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