03
体育の時に見たものは気になるが、あれから何も変わりはなく無事に授業も終わって帰りのHR。
明日の注意事項やらを先生が話して帰りの礼をした。
「桃子、今日は先帰ってていいぞ。どっか寄るならちゃんと雪に送ってもらえよ」
「?はーい」
何か変わったことがあるとお兄は過保護になるのはいつものことで。
普段は意地悪に見えても心配してくれるし、陰ではこっそり助けてくれたりもする、実は優しいお兄ちゃんなのだ。
「雪、頼むぞ」
「うん。桃矢も気をつけて」
「お兄、部活頑張ってね」
そんなこんなでお兄を待つ必要は無くなったが、雪兎と一緒に喫茶店へ向かう。
道中、体育の時のことを話したり、色々と鈍い雪兎をからかったりしていればあっという間にお店に着き、中へ入った。
「うわぁ、美味しそう……!」
静かな店内はアンティーク調で揃っていて、とても落ち着きのある内装だった。
メニューに載ってる軽食やデザートなんかもキラキラ輝いてるのでは?というくらい美味しそうだ。
「雪はなに食べるの?」
「僕は蜂蜜たっぷりフレンチトーストとホットサンド、チーズ入りコンソメスープに東方美人のアフォガード、それと出汁入り力うどんかな。お茶は月の雫にしようと思って」
「相変わらず食べるね。それなら私は……桃のタルトとうれしのにしよ」
「それだけでいいの?」
「うん。パパがご飯作ってくれるから」
「じゃあそんなに食べれないね。すみませーん」
雪兎が私の分も注文してくれて、しばらくすると先にお茶が運ばれてくる。
綺麗な色の紅茶で、香りも良い。
「美味しい……」
一息つくと、前に座っていた雪兎が私を見て笑っていた。
「なぁに?」
「いや、桃子は可愛いなぁって」
「……何言ってんの」
プイッと顔を背けてしまった私。ちらりと横目で雪兎を見ると、やっぱり雪兎はにこにこと笑っていた。
私が美味しいタルトを食べ終える頃に雪兎はもう全て食べ終えていた。
一体どれだけ食べたら雪兎は満腹になるのだろうか
……。
「ご馳走様でした」
「……ご馳走様でした」
外はもう夕暮れだ。
二人で話し込んでいたら結局お兄の部活も終わりそうな時間になっていた。
「雪、連れてきてくれてありがとう」
「ううん、僕が桃子といたかったから」
「そっかー」
雪兎は恥ずかしげもなくこういうことを言うからいつも反応に困る。
結局喫茶店でのお会計も雪兎が支払いを済ませてくれて、帰りも家まで送ってくれた。
「じゃあ、桃子、また明日ね」
「うん、今日もありがとう。また明日」
手を振り、雪兎が角を曲がって見えなくなるまで見送る。
家に帰るとパパがアップルパイを焼いていた。
甘い香りが廊下まで漂っていて、さっき桃のタルトを食べたばかりなのにお腹が主張を始める。
が、食べてはならないのだ、乙女心のために!
「桃子さん、お帰りなさい」
「ただいまー。わ、アップルパイだー!」
「食べる?」
「ううん、さっき雪と一緒に喫茶店行っちゃったんだ。アップルパイあるって知ってたら行かなかったんだけど」
パパのアップルパイは天下一品なのだ。惜しむらくはここでアップルパイを食べてしまうと夕食が食べられなくなってしまう……。
パパは三人分のアップルパイと紅茶を用意していた。
「あれ?さくらの他に誰かいるの?」
「うん、知世さんが来てるんだ。あと誰か大阪弁の話し声が聞こえたから持っていこうと思って」
「私が持ってくよ」
「大丈夫かい?」
「うん。そのまま部屋で着替えてくる」
じゃあ頼みますね、とパパからお盆を受け取って階段を上がる。
そんなに重くないので、お盆を片手で支えてさくらの部屋の扉をノックすると、パパの予想とは違い、さくらと知世ちゃんしかいなかった。
「さくら、パパがアップルパイ焼いたからどうぞって」
「ああああぁ、ありがとーーー、お姉ちゃん」
「おじゃましてます、桃子お姉さま」
「お姉さまなんて柄じゃないんだけどなぁ。そういえば、来てるのは知世ちゃんだけ?」
「ほえ?」
「パパがもう一人声が聞こえたって言ってたんだけど。大阪弁で活きのいい……」
「そ、それわたしだよ!わたし!『なんでやねん!なんでやねん!!』」
持っていたオレンジ色のクマのぬいぐるみを片手に腹話術をするさくら。そのぬいぐるみに違和感を感じつつも、必死に誤魔化しているさくらが可愛かったので、「ふーーん……」とそのぬいぐるみを横目に見つつ部屋を出た。
夜、ご飯もお風呂も終わり、部屋で音楽を聞きながら窓の外を見ていると。
小さな物音がして、音楽を止めた。
「……?」
そのまま外を眺めていると、フリフリの花の服を着たさくらが窓から家を出ていくのが見えた。
「……またか」
さくらが家を抜け出すのは今回が初めてではない。
お兄の部屋の扉をノックして返事が返ってきたのを聞いてから中に入る。
どうやら勉強していたようだ。お兄の部屋はさくらとは反対側にあるから窓の角度が違うため、見てもかなり体を乗り出さないと見えない。
「お兄、勉強中?邪魔してごめんね」
「気にすんな。もう終わらせようと思ってたとこだから」
「そっか。あ、明日なんだけど、私自分の自転車で行くね」
「あ?なんでまた」
いつも自分の自転車に乗らず、お兄の後ろに乗せてもらっている私がいきなり言い出すのはお兄とって驚きだったのか目を丸くした。
「んー、ほら、気分」
「……そーかよ。なんなら早めに出て雪の後ろにでも乗せてもらったらどうだ?」
「え、でも明日試合じゃなかったっけ?」
「だから早めに出て待つんだよ」
「いや、それ早めとか言うレベルじゃないし、そもそもそれストーカーぽくない?大体何時起きよそれ」
私が呆れて言うと、お兄は机の上を片付けつつさくらをからかう時に見せる意地悪げな笑顔で言った。
「まぁどっちでもいいけど、さくらもどうせ見に行くとか言い出すだろうし」
私が明日のことを言い出した理由を察したお兄。
勘が良くて助かる。さすがお兄。
「あー、そっか。じゃあそうしようかな」
雪兎らぶなさくらのことだ。待ち合わせ場所に雪兎がいなければ理由を聞くだろうし、試合だと聞いたら必ず見に行くと言い出す。
我が妹ながら、ガッツのある子だ。
「雪も喜ぶだろうよ」
「んー、だといいけど。じゃあ私はそろそろ寝るよ。おやすみ、お兄」
「おやすみ」
最後にお兄の部屋を出たあと、寝室にいるパパに明日朝早いことを伝えておやすみの挨拶をした。
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