01
ヴァンパイアは眠らない。
眠る必要が無いのだから眠らない、と言うより眠れない。人間に必要な眠るという行為は元より、トイレや食事、労働につきものの疲労さえ、縁がない。
食事に関しては2〜3日に一度はする必要はあるが人間の様に毎日三食に取らなければいけないわけではない。
喉が焼けるような渇きさえ我慢すればヴァンパイアは永遠に食事など必要としない。
まぁ、最後には結局渇きに耐えられなくなり我を忘れて人間の血を貪ってしまうのだが。
ヴァンパイアが人間の様に振る舞うには理由がある。それはイタリアにいるヴォルトゥーリ一族が秘密を守ると決めたこともあるし、もっと言えば、種の繁栄を邪魔されない為でもある。
他にもヴォルトゥーリが決めた掟はあるが、それはまた今度話すことにしよう。
つまり、何を言いたいのかと言うと、今この瞬間、彼女……サラは人間らしくしなければいけないということだ。
およそ100年の間でカーライルとエドワード、エズミ、ロザリー、エメット、アリス、ジャスパー達と暮らして大抵のことには慣れたつもりのサラだが、これは、その範疇を超えていた。
まさか、としか言いようがない。
だが余裕がありすぎるヴァンパイアの頭の中にはもう既に驚きや恐怖なんてものは薄れていて。サラはする必要の無い息を吸って深くため息をつく。
―――なんでこんなことに。
本当にそれしか出てこない。わたしはただ、転生してからも欠かすことのなかった実の父と母、そして兄への墓参りをしに日本へ訪れようとしただけなのに。
毎回ジャスパーがどこかからパスポートや身分証を調達してくるのだが、それは今回いらないと突っぱねて(そうじゃないとジャスパーはきっとまた書類を用意させている人間を脅してる気がした)海を泳いで渡ってきた。呼吸をしなくて済む体になったのは物凄く気楽だった。
いつまでも潜ってられるし、何より匂いを嗅ぎたくない時は息を止めていれば何ともない。
嗅覚が鋭くなるといいこともあるが、やはり狩りの時などは辛いものだ。特に人間が近くにいることに気付けなかった時。
閑話休題。海を渡ったサラが陸に上がると、そこにはいつも見慣れた港などなく、大昔に本で見た江戸の町並みが並んでいたのだ。
濡れていた服は防水対策をしておいた鞄に詰めていた物に着替えて人間がいる場所へ向かったのだが、周囲を見ると洋服ではなく、和服。それも現代の服に比べればボロボロと言っては過言ではない程度の。
思わず口をついて出たのは「O my god……(なんてこと……)」で、とりあえずサラは夜を待つ必要がある。
日光にあたると肌がキラキラと光ってしまうため、今は人目の多い場所へは出られない。夜を待って(最低でも夕方)それから話を聞こうとサラは身を隠す。
―――あぁ、エドワードがいてくれたら話を聞くまでもなく分かるのに。
サラは海岸沿いの森の中に隠れる。
ヴァンパイアの匂いに人間よりまともな反応を示す動物達はサラが森に入るとピタリと鳴き止んだ。
静かになった森の中でサラは遠く離れた家族を思いながら木の上でただ時がすぎるのを待った。