▼ ▲ ▼


 晴れ渡った空の下、のどかな村が見える。この村の名物である滝の前で、僕とお師匠さまは平和な村を眺めていた。綺麗な色をした鳥が、僕とお師匠さまの周りを飛び回る。一生懸命に羽を動かして飛ぶ姿は、なんとも穏やかで、この村の雰囲気とも相まって、眠ってしまいそうになるほどのんびりとしていた。

「天使、ユリエルよ」

 そんな優しい光景を見ていた僕の名前を、お師匠さまが呼ぶ。威厳があって、その表情のせいもあるかもしれないけれど、どこか怖そうな印象を与えてしまう声。

 もちろん、僕はもう昔のようにお師匠さまをただの怖い人だとは思っていないから、それほど驚いたりはしない。今は、尊敬すべき、厳しくて優しい僕のお師匠さま。

 お師匠さまに視線を向けると、珍しく表情を緩めて、少しだけ口角を上げていた。ほんの少しだから、よく見ないとわからないけれど、確かに微笑んでいた。

「よく頑張ったな。私に代わり、この村の守護天使を任せたときは、少々不安ではあったが……」

 ああ、やっぱり少しは不安がられていたんだなあ。

 別にショックなわけではなくて、仕方がないというか、むしろこんな僕を守護天使になれるまでに育ててくれて、お師匠さまには感謝してもしきれない。

 守護天使には向かない、もっと危機感を持て、と言われていた僕がこうやって守護天使になれたのは、全部お師匠さまのおかげ。

「お前のはたらきにより、村人たちも安心して暮らしているようだ」
「ありがとうございます。お師匠さまが僕を見捨てないでくれたから、ここまで来ることができました」
「いや、これはユリエルの努力の結果だ。立派に役目を引き継いでくれて、このイザヤール、師としてこれ以上の喜びはない。これからは、ウォルロ村の守護天使、ユリエルと呼ばせてもらうぞ」

 お師匠さまの言葉に、嬉しくなる。お師匠さまの、優しい言葉。いつも厳しいからこそ、こんなに嬉しくなれるんだと思う。

「はい。いつか、お師匠さまが驚くくらい、すごい守護天使になってみせますから」

 僕が言うと、お師匠さまは軽く笑った。それは決して馬鹿にした風ではなく、楽しみだ、といった風に笑ったと見えるのは、気のせいではないと思いたい。

 お師匠さまは、天使界でも随一の、優秀な守護天使。この村の平和を守ってきたのは、お師匠さま。すごいなあ、と思う。お師匠さまはてきぱきしてて、無駄な動きもなくて、長老さまやその他色んな人から一目置かれるのも、当然だ。

 そんなお師匠さまが、ふと前方に目をやる。いつもよりも柔らかかった表情が、見る見る間に険しくなっていく。

ALICE+