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眉間に皺を寄せたお師匠さまが見つめる先には、ご老人と、若い女性がいた。どうやら村を目指して歩いているらしく、ご老人の歩幅に合わせ、女性は歩いている。
そんな穏やかな風景に似合わない、三匹の魔物が二人を狙っていた。魔物を実際に見るのは初めてで、少しわくわくしたのはお師匠さまにも秘密だ。
「これはいかん! あのままでは、魔物に襲われてしまうだろう。さあ、ウォルロ村の守護天使、ユリエルよ。我らの使命を果たすときだ!」
お師匠さまは、修行中よりもよほど厳しい顔をして、魔物のもとへ飛んでいく。初めての魔物にわくわくしていた僕は、慌ててうしろを追いかける。
僕たちが近づくと、魔物は僕たちに気づき、襲いかかってきた。天使界で何度も手合わせの経験はあるけど、実戦はこれが初めてで、何しろ僕は剣の扱いがうまくないから、お師匠さまの足を引っ張るだけになってしまうだろう。
お師匠さまが剣を振ると、三匹の中で一番強い魔物が倒れた。さすがお師匠さま! なんて思っていると、スライムが僕に攻撃をしてくる。
大したダメージではなかったが、驚いたせいで「ふぎゃ!」という間抜けな声が出てしまった。これからこの村を守護するというのに、こんなことでいちいち驚いてはいられない。
僕が大袈裟な声を出したせいか、お師匠さまは僕に「大丈夫か?」と声をかけてくれる。腕についていたのはかすり傷で、大したことはない。
結局、三匹のうち二匹は、お師匠さまが一撃で倒してくれた。僕だって、スライム一匹を倒せたよ、と心の中で誇ってみる。
僕たちが魔物を倒し終えてすぐに、二人が僕たちの横を通りかかる。人間である二人は、やっぱり僕たちには気づかない。不思議だなあ。
女性は、僕たちの少し横で立ち止まる。村の入口を見て、ご老人に笑いかける。気立てのよさそうな人だ。
「ほら、ウォルロ村が見えてきたよ。おじいちゃん」
彼女の言葉に、ご老人は安堵したような表情を見せる。
「おお……。もう無理かと諦めかけたが、なんとか帰って来られたのう」
そんな弱気なことを言うご老人に、彼女は腰に手を当てて、怒ったふりをする。もちろん、表情はちっとも怒ってなんかいなくて、むしろ可愛らしい表情をしていたのだけれど。
「もう、おじいちゃんったら、大袈裟なんだから!」
そう言うと、彼女は空を見上げた。そこには特に何もなかったけれど、彼女は手を合わせて、空に祈る。
「道中お守りくださって、ありがとうございます。守護天使、ユリエルさま」
彼女の口から僕の名前が出てきて、なんだか嬉しいなあ、と余韻に浸る間もなく、彼女の身体から、青く輝くものが出てきた。
「お師匠さま、これって星のオーラですよね!」
「ああ、そうだ」
「すごい、本物だ!」
初めて見る星のオーラに興奮していると、お師匠さまがこほん、と咳払いをした。
「感動するのはいいが、我ら天使の使命を忘れてはいけないぞ」
「あっ、もちろん、わかっていますよ。星のオーラを、世界樹に捧げるのですよね?」
「ああ。それではユリエルよ、ひとまず天使界に戻るとしよう!」
「はいっ! うわあ、楽しみだなあ」
お師匠さまが、大きな翼を羽ばたかせる。空高く舞い上がるお師匠さまを、僕も追いかける。