08_感情をなくした日


あの日は雨が降っていた。かっちゃんと約束を交わした翌日、私にも個性が発現した。その個性は親のものとも違う突発的に現れた個性だった。
たまたま親とぶつかった。その途端親が持っていた個性とおなじ個性が自分に発現した。その代わりに親は個性を使えなくなっていた。どういうわけか最初は分からなかったけれど、一つの結論が出された。

私が個性を盗んだのだ

親はうろたえ、どこかへ連絡していた。連絡してからすぐさまマントを着た人たちが家にやってきた。
マントを着た人の一人が大量の札束を入れたケースを親に渡していた。そして私はマントを着た人たちに手を引かれ車に乗せられた。どこへ行くかも教えられず、親に助けを求めようとしたが2人ともこちらを向くことなくただ手にした大金だけを見ていた。
その光景を見て幼いながらにも理解した。私は売られたんだと。

そこからの日々は地獄でしかなかった。
薄暗い地下室に連れて行かれ、感情をなくす訓練をされた。敵が殺される瞬間を記録した映像を起きている時間はずっと見せられていた。最初は怖くて泣きじゃくり、嘔吐も繰り返した。
だが慣れとは恐ろしいもので1か月もすれば何とも思わなくなり、ただ映像を眺めるだけになっていた。
その次にひたすら組織の理念のようなものを頭に叩き込まれた。まるで洗脳のように。
そして個性を自在に操れるように、捉えた敵をつかって個性を盗む特訓をした。その成果か盗んだ個性を使う事のほかに所有者に戻すことや盗んだ個性を消し去る使い方を覚えた。

全てをマスターし初めて任務を与えられたのは7歳の頃。
その頃には喜怒哀楽の感情など一切なく、ただ任務を遂行することだけを考えるようになった。ピカピカのランドセルを背負って学校へ行く同い年ぐらいの子供を見ても羨ましいと思うこともなかった。
自分がしている任務が当たり前だと思わされていたから。

ただ、どれだけ感情を抑えつけられていても爆豪と・・・かっちゃんと過ごした日の記憶だけは消えなかった。

任務を繰り返し15になった。
新しく与えられた任務は敵連合と接触のあった雄英に潜入して、死柄木弔を始末することだった。
初めて着た制服は慣れず、教室へと足を踏み入れた時顔にはださなかったが驚いたことがあった。
この12年間記憶の片隅にずっといた存在が目の前にいたのだ。
だいぶ容姿は変わったがすぐにわかった。だけれど任務中の今、それも忘れなければいけない。だから私は彼と距離をとった。