18 気づいてた感情


合宿襲撃事件から2日後。
私は病院のベッドの上にいた。

大きな怪我をしたわけではなかったが、念の為検査を受けることになり入院することになった。
というのもただの名目で、実際は敵の狙いの一人であった為、またいつ狙われるかわからない為ヒーローが護衛できるように匿われていた。

コンコンと病室のドアがノックされた。
少し間をおいてからゆっくりとドアが開いた。

「癒月…起きてるか?」
『電気…起きてるよ』
「大丈夫…じゃないよな…その…」

手に持っていたフルーツの盛り合わせを横にあった台に置くと、丸椅子にゆっくり腰をおろした。

『ありがとう。大きな怪我とかないし、きっと平気だよ』
「……」

電気が心配しているのは体のことではないとわかっている。
一連のことをおそらくすべて聞いているのだろう。
私の目の前で、私を庇って爆豪くんが敵に連れ去られてしまったこと。

「大丈夫だよ。絶対。強いからな」
『…うん…そうだよね…』

ぐっとあふれ出そうな涙をこらえ、右手の指を握りしめた。

「…っていうか癒月ちゃんと寝てるか?目の下に隈できてるぞ」
『…寝てるよ』

電気が私の目を捉えて離さない。
全てを見透かされている。
この目に私は弱い。

『…寝てない』
「いつから?」
『2日前…かな』
「2日って…襲撃あった日からじゃん。心配なのは分かるけど…」
『寝たら…生きてる証が消えちゃうから』

心配で眠れないのももちろんある。
けど、それだけじゃない。

「お前…もしかして個性を」
『…うん』

爆豪くんに腕を引かれ、すれ違ったとき一瞬手先が触れた。
ほんの一瞬だったけど、私は個性を発動した。
とっさのことでどうして発動できたのかは分からなかった。
けれどその指先は確かに私の物ではない。

『まだ温かい。だから生きてる』
「…無理すんなよ。あいつが帰ってきたときに癒月が倒れてたら意味ないんだからな」
『うん。ありがとう…電気』





その日の夜中に爆豪くん救出作戦が行われ、翌日の朝、無事に救出されたと護衛のヒーローから聞いた。
報告を受けてすぐホッとしたのか、気が緩んだのか、私は意識を失った。






気が付いたときには私はまたベッドの上で仰向けになっていた。
あのまま寝てしまったのかとボーっと天井を見ていると、手がぎゅっと握られた。
顔を横に向けると、そこには会いたくて会いたくて仕方なかった爆豪くんが私の手を握っていた。

『ばっ…爆豪…くん!!』

慌てて起き上がろうとしたが、体が重くうまく起き上がれない。

「ばっ…無理すんな」
『よかった…無事で…ほんとに…』

溜まっていた涙が一気に溢れ出る。

「心配かけて悪かった。どこも怪我してねぇし無事だから」

涙が溢れて止まらない私の背中を爆豪くんは優しくなでてくれた。
落ち着いた頃に私の目元は少し赤くなっていた。

「つーか癒月、またあの個性使ってただろ」
『うっ…だって心配で…』
「…まァ、そのおかげで怪我せずになんとしても帰らないとって思えたけどな」

優しく笑ったその顔に胸が締め付けられる感覚がした。
あぁ、まただ。
ずっと気づいてて気づかないふりをしてた感情。
握られていた手を私は握り返した。
その行動が予想外だったのか、爆豪くんは驚いたように肩をびくっとさせた。

『好き』

呟くような本当に小さな声。
風の吹く音や周りの音よりも遥かに小さな絞り出したような声だった。
頬が顔全体が熱を帯びている。
きっと聞こえていないだろう。
でも私にとっては思い切って出した言葉だった。
顔をあげたとき、夕日に照らされているせいなのか爆豪くんの顔が赤く見えた。