大きな鳥


 目覚めるとテントを出て、近くの川で顔を洗う。そして、朝の素振りを日課にしているオウエンのじゃまをしないように、アネットはそっと朝食の支度を始めた。
 オウエンが寝ずの番をしていた焚き火で、先ほど行商人から買ったパンを焼いてチーズをのせる。次いで川沿いで摘んだ野草でほし肉を包んで焼くと、なんとも言えないいい匂いが辺りを漂い始めた。
 初めは火を起こすのも、食べられる野草を探すのにも苦労した。だが、オウエンの助言のおかげでアネットも少し逞しくなってきている。
 オウエン曰く、本来なら火を起こすのもアネットの力なら魔法で出来るはずだということだ。アネットはそう言われて試してみたものの、うまくいかなかった。
 岩を粉々にしたことを気にしすぎるあまり、却って縮こまってしまう。一瞬火が出ても、マッチほどの威力にすらならないまま疲れ果ててしまった。
 仕方がないので、アネットが火を起こす際にはしばらくは原始的に起こすことにしている。その間「毎日一分でもいいから瞑想してイメージを固めるように」とオウエンに教わり、アネットは朝晩床にいる間に実行している。
 メニューがそろったところで、オウエンが素振りを終えたらしい。朝食を用意しているアネット隣に座り、素振りのついでに汲んできた水をアネットに差し出した。

「そろそろ食料が尽きるな。早く人のいる集落を見つけなければ」
「行商人に出会えたのはラッキーだったわね」

 アネットはそう言いながら、焼けたパンをオウエンに手渡す。彼はそれをがぶりと頬張り、おいしそうに顔をほころばせた。

「ダミューを探そう」
「ダミュー?」
「乗り物にもなる大型の鳥だ。もしも捕まえられたら移動が早く楽になる。この木の実を餌にするはずだから、恐らく探せばこのあたりにいるだろう」

 上を向いたオウエンにつられてアネットも見上げると、頭上の木に赤い実がなっている。

「この実は食べられないの? 」
「毒はないが、美味くもないぞ。やめておけ」

 おいしそうな色をしていただけに、アネットは少しがっかりした。
 手早く食事を済ませ、二人は歩き始めた。するとオウエンの読み通り、すぐにダミューに出会うことになる。
 ダミューはダチョウをそのまま一回り大きく、体格をがっしりとさせたような鳥だった。特に足はダチョウよりも随分太く、安定感がある。いかにもゴツい鳥だが、目はクリクリしていて愛嬌がある。かわいらしい、というのがアネットの感想だった。
 ダミューは馬よりも足が遅い。だが馬よりも人懐こく、気性も大人しい個体が多い。多少の警戒心は持っているが、餌を与えて気を引き、ダミューがその人物に心をひらけば野生でもその背中に乗せて走ってくれる。もちろん人間よりも早く走るし、大人二人くらいまでなら相乗りもできる。そのため、こうした旅には重宝される生き物だ。ちなみに、鳴き声はニワトリに近いが、鶏冠はない。

 野原の真ん中で出会ったダミューは、アネットの身長よりもやや高いくらいだった。アネットには随分大きく見えたが、オウエンが言うには普通サイズだそうだ。中にはもっと大きなものもいるらしい。

「よし、いい子だ。どうだ? 腹が減っているなら食べてくれ」
 
 そう言って、オウエンは先ほどの赤い実・アレシヤをダミューに食べさせようとしている。ダミューの方も空腹だったのだろう。警戒しながらも、アレシヤの実を美味しそうにつつき始めた。
 ひとしきり食べた後、満足そうなダミューは、オウエンにすり寄った。猫が飼い主に甘えるような仕草で、大きな頭を何度もオウエンに擦り付けている。どうやらずいぶんと気に入られたらしい。
 側にいたアネットもオウエンに促され、そっと手を伸ばす。ダミューはアネットにも大人しく撫でられている。

「これは心強いな。よろしく頼むぞ、ダミューよ」

 オウエンの言葉に返事をするかのように、ダミューは大きな瞳を輝かせ、「コケっ」と鳴いた。






- 9 -

<< >>

しおりを挟む
♂恋愛至上主義♀ ラブファンタジー 名も知れぬ駅 文芸Webサーチ