今夜、帝国劇場で

公演を終え劇場の楽屋口から外に出ると、街の冷気が容赦なく体温を奪った。思わずコートの前を合わせ直し、マフラーの端を手に巻き付ける。

吐く息が街灯に照らされ、白く可視化された。ステージの照明に似ている。

ぼんやりと暗い向こうに見える皇居の茂みに視線をやると、先ほどSNSに流れてきた内容が浮かぶ。エゴサーチのためにカスタマイズしたタイムラインの話題は、昨晩放送のゲスト出演したラジオについて。

「仲いいジュニアの子いないの?」

パーソナリティの先輩にそう聞かれたものの出せる名前は多くない。

無難に、大我と答えた。夏のコンサートを観に行った、と。(ほぼ)同期だ、とも。

「昔は一緒に踊ってることが多かったんですけど、シンメだった時期もありましたし」

「あ、そうだったっけ」

「でも大我はグループ組んで、なんか最近は一緒のステージそのものがなくなってきちゃったな」

「あれ、〇〇とか出てた?」

「やってましたやってました、懐かし。今でもチーム同士で抗争とかしたいんですけどね」

「いや役がないでしょ!」

「……もらえないですかね」

「まあ〜、そこ横並びの役はないだろうな〜!あなたもう天下の大スターだしね」
「そんな、」
「でもさ、きょーもっちゃんも、さあ、そこ2人並んでたわけでしょ?すごいよね」


私は事実として特殊な人間だと思う。
ジュニアの、デビューもしていない、グループにも所属していない。
それも女。
異例。
明らかな異物。

何故かやたらとプッシュされてこの地位にいる。分不相応な演技仕事を次々いただいて、いつの間にか辞め時すら失ってしまった。
煙たがられても仕方がない。それなのに面と向かって傷つけられることもなく、申し訳ないほどの温室の中で今日までのうのうとやってきてしまった。

役がない。

しかし誹謗ではない。尊敬の念を込めて、というその意味。この異質な存在に敬意を払っているからこそ、横並びのワンオブゼムに並ぶような役は「ない」のだという彼らなりの賛辞。

この世間からの扱いは一体何なのだろう。

前例がないから、あらゆる人が私を扱いあぐねている。他のジュニアと同じように扱うよりは都合が良いのだろうか。ファンの溜飲も下がるのだろうか。
こんな小娘が大先輩と肩を並べている方がよほど不名誉ではないか?

ローティーンの頃から続くこの立場は十分に私個人の自尊心と自信を苛め続けている。贅沢なのかしら。

ラジオについてのSNSでの反応はあらかた拾った。
もう十分だ。
よせばいいのに、「役がない」ともう一度あの日の光景を頭の中で再生する。
ビル風がコンタクトレンズを乾かし不快感に目を閉じた。強すぎるライトがまだ目の奥から消えない。不明瞭な視界のまま寒さに帰路を急いだ。