奇跡の人

13歳のクリスマス。私はクララに選ばれなかった。

地元のバレエスクールで毎年恒例のくるみ割り人形。
主人公のクララはバレエを習う少女なら1度は誰もが憧れる夢というか、母娘の努力の証というか、バレエダンサーへの登竜門というか。
そのクララという役にとにかく私は毎年選ばれず、もうクララの歳ではなくなりつつあった。

そもそも身長が同年代の中で周りより頭1つ分高く「華奢で夢見がちな少女・クララ」という感じでもないのが厳しい。
クララの兄・フランツ役のほうが板に付いてしまったのも手痛い。

ラストチャンスに近い中2の年でクララに選ばれなかった私は十分な母親の失望と叱責を受けたが、代わりにと言うべきか、なぜか大手事務所に見つかった。

「当たり前だけど、髪は切ってね」

幼少期からバレエのために伸ばし続けた長い髪は、13歳を境にショートカットのままだ。
もう私がクララになることはない。
華奢で夢見がちな少女はいない。
むしろ、夢を売る運命の王子様だし。

世間が不思議に思うまま、ドロップアウトの機会などいくらでもあったにも関わらず、なぜか今ここにいる。
奇妙な偶然が積み重なっただけだと思う。
あの人の気まぐれかもしれない。
自分自身がいちばん納得できないまま、それでももらった役割をなんとかこなして、気付けば結局この事務所で十数年過ごしている。