酒が回ってきた。
缶の底を指先でなぞるように持ちながら、ふと名前をスクロールして、
昔の仲間に電話をかけた。

ワンコール、ツーコール。
出るかどうか迷ってる間に、つながった。

「……なに? 珍しいじゃん、酔ってるの?」

「うん。深酒してる。潰れる前に、どうしても話したかった」

電話越しに、少しだけ間が空いた。

「……大丈夫?」

「大丈夫じゃないから、電話してるんだと思う」

素直な言葉が、こんなに簡単に出てくるのは、きっと相手が大我だからだ。

「男だろうと女だろうと、好きだし」

少しの沈黙のあと、大我は静かにそう言った。
心の底から吐き出すように。
アルコールのせいじゃない。これは、ずっと言いたかった本音。

「なんかもう、性別なんてものめんどくさいな。
そんなこと、全部取っぱらっても――好きなのに。ただ好きなだけなのに。一緒にいたいって、それだけじゃだめなんかな」

胸が詰まる。

わかるよ。
私もずっとそうだった。
名前とか、見た目とか、どっちのグループに所属するかとか、そんなことに翻弄され続けて、
“ただ好き”を言うことすらできなかった。

「覚えてるよ。お前さ――」

大我の声が、ふっと柔らかくなった。

「興味もない遊戯王見て、やりたくもないのにポケモン覚えてさ。男子に混じろうと、必死で、好きでもないことして、無理して……あの頃のお前、ほんと、無理してたよな」

ドキリとする。
あの頃の私は、誰にも見えていなかったと思っていた。
ただ浮かないように、必死で、男っぽく生きようとしていた。
男でも女でもない自分が、せめて居場所を作るために。

「なんかさ、うまく言えないけど……それを見てるの、ちょっと、つらかったんだよな。俺」

それは――
恋バナとして、受け取っていいの?

飲み込もうとして、できなかった言葉が、ぽろっと漏れた。

大我は少しだけ黙って、それから言った。

「ありがちで悪いけどさ、それ――本人に言ったの?」

「似たようなことは、ちょくちょく」

「……ふうん」

「なんか気持ち悪くない?」

「まあ、そうかもね。でも、それが“本当”なら、気持ち悪くてもいいんじゃね」

そう言って、大我は笑った。
電話越しの笑い声は、どこか寂しくて、でもあたたかくて。

“明日”がどうでもいいって思えるくらい、
今この瞬間、大我の言葉が沁みていた。