意識が鮮明になってすぐ、これは夢だな、と分かった。
この世界で私はまだ小学生なのに部屋は今自分が眠っているこのマンションで、時系列がめちゃくちゃだからだ。

私はなぜか樹のリビングで、ランドセルを隣に置いて宿題をしていた。

算数の問題を解いていると、突然ガチャっと玄関のドアが開く音がする。
樹が帰ってきたのだと思って急いで出迎えると、全く知らない女の人がいた。

「あ、ああ。はじめまして、妹さん?」

やけに親しげににこにこしながら、高い声のトーンで話しかけられる。彼女の隣に座った。

「こんにちは、マリア。兄さんからたくさん聞いてるわ。一緒に遊ぼうか?」

女性は優しく言葉をかけるが、マリアにはその笑顔が何故か不安を掻き立てた。

ほどなくして、樹が帰宅する。
樹の顔を見た瞬間、女性の表情が一層明るくなる。
樹もまた、女性とマリアが仲良くしている光景に満足そうな笑顔を浮かべた。

「よかった、みんなで仲良くできそうだな」と樹は言った。

しかし、マリアの心中は複雑だった。彼女にとって樹はただの兄以上の存在で、誰にも分けたくない特別な人だった。恋人が現れたことで、自分が樹の心の中で置き換えられたように感じ、深い悲しみに包まれた。

部屋の空気が突然重くなり、マリアは耐え切れずに立ち上がり、部屋を飛び出していった。廊下を駆け下り、外へと飛び出し、涙が止まらなかった。ポケットから携帯電話を取り出し、唯一心を開ける人物、高地に電話をかけた。

「こーち…寂しいよ。私の樹が、私の樹が…」電話の向こうで、高地はマリアの言葉を静かに受け止めた。

「マリア、大丈夫だよ。君の樹は君のものだ。僕たちはみんな君の味方だからね」と高地は優しく慰めた。その声は温かく、マリアに安心感を与えた。高地の言葉には、いつも人を惹きつける不思議な力があった。

「ありがとう、こーち…」マリアは少し落ち着きを取り戻し、星空を見上げながら深呼吸をした。この夢の世界でさえ、高地は彼女の心の支えであり続けた。

夢の中の一幕は、マリアにとって現実の世界よりも深い感情の揺れを教えてくれた。兄への深い愛情、恋人への嫉妬、そして高地への信頼。それらが織り成す複雑な心情が、マリアを成長させていく。

朝、マリアが目を覚ますと、夢の記憶が鮮明に心に残っていた。夢の中で感じたことすべてが、彼女をより強く、そして優しくしていく。現実の世界での樹、高地、そして自分自身についても、新たな理解と受け入れが始まるのだった。