「……あ」
通勤中。電車の中で開いた端末。そこに表示される日付を見て気付く。
今日、銃兎の誕生日じゃないか。
「何も用意してないなぁ……」
銃兎が私の上司になって初の誕生日……。いやそんなにおおごとにするほどのことでもない、か?とりあえず職場に着いたら一声かけておこう。それで十分だろう。
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結果から言うと、考えが甘かった。
朝来た時点でまだ銃兎は来ていなかったが、職場全体……主に女性陣が浮き足立っている。男性陣もどことなく落ち着きがない。大方、出世頭な入間銃兎に擦り寄りたいか、彼に弱みを握られていて少しでもご機嫌を取りたいかの二択だろう。機嫌を取れるのかは分からないけど。
これでいいのかよ、ヨコハマ署。
そう思うと同時に、こんな雰囲気の中で銃兎の直属の部下である私が何も用意していないのはやばいんじゃないかという焦りが生まれる。だからって今からじゃどうしようもないしなぁ……。
始業五分前。まだ銃兎は来ない。
いつもならもう居るのに、と思っていると端末が鳴った。
『今すぐ静かに外まで出てきてくださいますか』
銃兎からのメッセージだったが、それ以上の言葉はなく。
……もしかして、この署内の雰囲気、毎年のことなのか……?
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他の連中に見つからないようにこっそりと外に出ると少し離れたところに、いつもの銃兎の車。運転席の彼に目線で乗るように指示される。
「急にすみません。今日一日、外回りに集中させてくださるとありがたいです」
「別に構いませんけど……誕生日おめでとう、銃兎」
人気者は大変だねぇ、と軽く続けると、彼の目が少し丸くなる。
「まさか那由多に祝っていただけるとは思いませんでしたよ」
「思い出したの通勤中だから特にプレゼントも何もないけどね。署内は皆、銃兎が来るの待ってソワソワしてたけど」
「勘弁して欲しいんですがね……私に媚を売ったところで何にもならないでしょうに」
「いやいや、女性陣は媚を売るというより、銃兎の彼女の座を狙ってるでしょ」
あ、やばい。多分余計なこと言った。
「……そうですね。今年、彼女たちをお断りするのに貴女が彼女になったので、と断ってもいいんですよ?」
「勝手に部下を口実にしないでくださいませんか、入間巡査部長殿?」
「結構いい案だと思うんですが。貴女、付き合ってる男性がいるなんて公言していないでしょう?だったら
「銃兎」
助手席に座る私。運転席からジリジリと距離を詰めてくる銃兎。
「毎年大変なんですよね。名目だけで構いませんから」
「銃兎、それ以上は怒るよ」
「……冗談ですよ、冗談」
身を引く銃兎。冗談のタチが悪い。というか半分以上本気だったと思う。余計なことを言った私も悪いが。
「断るのは……まぁ自力で頑張れ」
「冷たいですねぇ」
「私があいだに入るほうが面倒なことになるでしょう?プレゼント、今日中とはいきませんが、今度なんか買ってくるのでそれでお願いしますよ」
ただでさえ、他のディビジョンからの引き抜きという時点で冷遇されて、馴染むまで時間がかかったというのに。これ以上立場を悪くしたくはない。
「仕方がないのでそれで手を打ちましょう」
「なんで貰う側が上から目線なんだ……」
「貴女の上司ですからね。さて、仕事しますよ」
「はぁい。今日もヨコハマのゴミ掃除に勤しみますか」
Happybirthday!!!
(「何か欲しいものあります?」)
(「そうですね……」)
(「彼氏の座、とかは冗談でも無しですからね」)
(「チッ」)