02

思い出すのは23歳の秋、警察学校の卒業を明日に控えた自由時間。
皆が寮に戻って2人だけになった教室でのこと。

「好きだ、那由多」

そう言って私の目の前に立つ男は同期だった。たった半年の付き合いとはいえ、本気と冗談の差くらいはつく。

「……銃兎って振られたことある?」
「何だ急に」
「いや、告白自分からするって柄じゃなさそうだし。モテそうだし」
「……振られたことは無いが」
「振ったことなら星の数ほどありそうだよね」
「お前真面目にっ……!」
「ごめん。銃兎とは付き合えない」

これ以上茶化すと本気で怒られそうだ。

「……理由、聞いていいか」
「私彼氏いるし」
「は、」

彼のここまで驚いた顔は初めて見たかもしれない。それもそうか。

「そんな事、お前一言も」
「言ってないけど、言う必要もなかったし」
「居るような素振りもなかっただろうが」
「警察学校入ってからずっと連絡絶ってたからね。向こうも仕事忙しいから」
「そう、か」

く、空気が重い……!
かといって茶化すことも出来ずに沈黙が続く。

銃兎とは大卒組の中でトップの成績を争い続けてきた。一度だけ大きく差が開いたのはヒプノシスマイクを使いこなすための訓練、の前段階とも言えるラップの講義だけ。
そのラップ講義を全くもって理解出来なかった私が、この入間銃兎という男にラップを教えてくれと頼み込んだのが最初だった。それからなんだかんだ交流が続き、今に至る。
ちなみに銃兎のおかげでラップの成績は全体2位まで上がった。銃兎には勝てなかったが。

「銃兎にはもっと似合う人がいるよ」
「それ、今一番聞きたくない言葉だって知ってるよな」
「だろうね」
「……お前の彼氏、どんな奴か聞いてもいいか」
「私が居ないとダメになりそうな奴」
「なんだそれ」
「幼馴染だからね。ずっと隣に居たし、これからも居るんだと思う」

これ以上、銃兎の傷を抉ることもないだろう。振られた相手に何を言われても今はきっと何も届かないだろうし。教室の扉に手をかける。

「那由多」
「ん?」
「ありがとな」
「……こちらこそ、銃兎がいたからこの半年楽しかったよ」

そのまま廊下に出る。後ろから聞こえた彼の言葉は聞かなかったことにして。


彼と過去の話

(「あ"ーくそ、それは狡いだろうが……」)