03

那由多から連絡を貰って、今日は何がなんでも早く帰ってやろうと決めた。転勤となれば那由多も準備とかで早く帰っているだろうし、なにより那由多の口からちゃんと話を聞きたかった。
でもそうはいかないのが仕事なわけで。
いつもよりは早く終わった。終電じゃない。それでも定時は大幅に過ぎた。普段より人の多い電車に揺られて家へと帰る。

「ただいま……」
「えっ!独歩おかえり!早かったね」

玄関に入りリビングに声をかけると、奥からパタパタと那由多が駆け寄ってくる。

「那由多とちゃんと話、したかったから」
「それで仕事早くあげてきたの?ごめんね、お疲れ様です」
「いや、お前は悪くないだろ……悪いのは俺がいつもいつも仕事が遅いからで」
「独歩はいつも頑張ってるでしょうに。悪いのは仕事を過剰に振ってくる上司だよ」

私はもう食べちゃったけど今ご飯温めるから、なんて言いながらリビングに戻る那由多。そのスーツの背中を追って歩きながらふと思う。
いつも那由多の出勤はスーツだ。職場に着いてから警察制服に着替えてるって前に聞いたことがある。だから、今スーツを着てるのはおかしくもなんともないんだけど。

「……那由多、そんなスーツ持ってたっけ」
「あ、忘れてた。似合う?」

明日から制服警官じゃなくなるからねー、と。
いつもの明るい色のスーツから一変して、黒いジャケットに黒ネクタイ。ジャケットのポケットから皮手袋らしきものが見え隠れしていた。

「うん、似合ってる。今日買ってきたのか?」
「そうそう。ちょっと着てみるだけのつもりだったんだけど、ちょうど独歩帰ってくるからビックリしちゃった」
「それはラッキーだったな」
「大袈裟だなぁ。どうせ明日の朝には見るんだから」
「それでも、だ。自分の飯くらい自分で用意するし、那由多は着替えた方がいいんじゃないか?」
「ん、ありがと。着替えてくる」

……似合ってはいたけど。アレ、那由多の趣味だったか?


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試着するだけのつもりだったのに、ドンピシャのタイミングで独歩が帰ってきて、スーツのお披露目になってしまった。いや、隠すつもりはなかったし構わないんだけど、どことなく気恥ずかしい。
部屋着に着替えてリビングに戻ると、丁度独歩が食べ始めたところだった。冷蔵庫からお茶を取り出して彼の前に座る。
彼の夕食を邪魔しない程度に言葉を交わす。

「さっきの、那由多が選んだのか?」
「スーツ?」
「そう」
「いや、引き抜き先の上司のご指定」
「やっぱりそうか」

流石幼馴染。私が選んだものじゃないと一目で分かったらしい。
シンジュク署の机を片した後で個人的に銃兎へ連絡を入れた。案の定私を引き抜いたのは彼の仕業。明日の出勤の注意事項や必要な携帯品を確認した時に指定されたのが黒のスーツとネクタイ。シャツは指定されなかったが、まぁ白で問題ないだろう。革手袋はただの趣味だったのだけど。

「似合ってたけど、いつもの方がいいな」
「分かるけどさ。多分舐められないように、だろうね」
「どういうことだ?」
「ヨコハマ署での所属が組織犯罪対策部になったからね。大体は暴力団関係だから」
「……そんな危ない所属になるんだな」
「まぁ、ね」

一口お茶を飲む。独歩もすっかり食べ終わっていた。

「頼むから、無理だけはしないでくれよ」
「分かってる」
「那由多のヒプノシスマイクの実力は知ってるけど」
「大丈夫だよ、独歩」

不安になる気持ちは分かるけど。警察官になるって言った時もこんな感じだったなぁ、となんとなく懐かしい気持ちになった。

「ご飯も食べたし、お風呂入って、明日も早いしちゃっちゃと寝ちゃお」
「……風呂、一緒に入るか?」

へらりと笑いながら言う独歩に、ばーかと軽口で返して。
独歩が風呂から上がったら久々に一緒にベットに入ろう。ここ最近、私が先に寝ていたから。
明日からはまた忙しくなりそうだし、ね。



変わる日常

(「寝る時に独歩が居るの久々かも」)
(「那由多が起きてる時に帰って来れてるのが珍しいからな」)
(「ふふ、独歩、おやすみなさい」)
(「あぁ、おやすみ」)