モストロの子ども
麗らかな昼下がり。
アクアリウムを模したラウンジ。
滴るレースのカーテン越しにも感じる外界の晴天とは反対に、店内は寒気を含む薄暗さだった。岩陰に潜み暮らす魚の寝床にも似た空間で、男が二人してテーブルを挟み、合わせ鏡のように向かい合っている。
「血は争えませんね」
「なにそれ、どういうこと?」
鏡合わせの姿形をした片割れ――ジェイド・リーチのどこか含みのある笑みを見て、フロイドは顔をしかめた。ジェイドが煙に巻いたような言い方をするのは、今回ばかりのことじゃないが、意味ありげに呟かれた言葉の真意は気になるもので、勿体ぶるなと続きを促す。
「フロイドもご存じの通り、ユズルさんのことですよ」
ユズル――アーシェングロットの血筋に連なることとなった、子どもの名前だった。結ばれたにも関わらず引き裂かれ、けれど世界を隔ててなおも想いを向け続けたアズールと人間との間に生まれた、実の娘。
「ああ、コダコちゃんかあ」
「おやおや、結局その呼び名に落ち着いたんですね」
「別にどうだっていいじゃん。……というかジェイドもさあ、今さら何がそんなに興味深いわけ?」
大して面白くもなさそうな表情で問いかけるフロイドに、ジェイドは待ってましたと言わんばかりに優雅に微笑んだ。
「だって、おもしろいじゃありませんか」
理論の理解。
方程式の応用。
少なくともツイステッドワンダーランドの地を踏んで、一年と、もう少しばかりが経過しているだろうか。しかし上級に魔法士でさえ難解とされる命題を、魔法の存在しない異世界から落とされたはずの子どもは、次々と吸収していった。身に着けてきた常識すら異なる状態で、やがて――禁術の行使にまで至った。
親を思う子の成せる奇跡か。それとも、会いたいと願う執念か。
どちらにせよ。
「まさに怪物の子ではありませんか」
人魚の血は確かに、ここに受け継がれり。
人間と人魚、そのどちらともの資質を受け継いだ者の辿る先に思を馳せ、肩を震わせてウツボは嗤った。