樂は……

目の前には真っ赤な髪の男の子が居る。信じられないくらい憎らしそうに私を見ているのだ。かつてここまで睨まれたことがあっただろうか。というか私が何かしたか?初対面だぞ。これでもかと体感時間の長い間が過ぎ、やっと喋ったかと思えば…
「俺を、女の子にしてくれ」
真っ赤な顔でそう伝えてきた子に対して、新手の告白か何かと勘違いしてしまうのも無理はないだろ。

樂から、従兄弟がこれから一緒に住むことになると聞いたのはつい先日であった。どうやら昔からある程度決まっていた話のようで、もっと早くに教えて欲しかったなんて思った。一週間後には隣の部屋にいるようで、ちょっと緊張する気持ちが強かった。なんて思っていた矢先にこれだ。この変態色の強い告白をしてきたのは、樂の従兄弟君らしい。確かに見た目は可愛らしく、女装なんかやらせたら上手くいくこと間違いなしだ。だが言葉遣いも男の子だし、何より所作が非常に男らしい。手には、普段荒くれた生活を送っているのか拳ダコができていた。身長もそれなりに高くてスラッとしているから幾分年上に見えたりもする。年下にここまで頭を下げて願う程、女の子になりたいのだろうか。女の子になることは彼にとって大事なのだろうか。そして何故私にそれを頼んできたのだろうか。私の若干の蔑みの目に動揺しながらも、お前みたいにしてくれと必死に告げる彼の姿は悲哀に満ちていた。何か深い理由があるようだ。まあその理由も、彼の次の発言でわかったのだけれど。


「懐かしい話をしてくるのね」
いや、懐かしいってまだ一か月前なんだけどなー。元々長かった髪をお下げにしてる姿は、しっかり女の子であった。気付けば女の子らしい言葉遣い、女の子らしい所作、女の子らしい見た目。そう、私が女の子にしてしまったのだ。名前は欒、私の隣の部屋の住人だ。気が合うようで、樂が読書に集中してれば私達は世間話に集中していた。週間文秋を買っては、様々な人に対する見解をひたすらに言う。まるで井戸端会議に勤しむババアのように。真面目な顔でくだらない話を続ける私達に対して、樂は呆れたように溜息を吐く。それがいつもの流れになっていた。楽しい日々の生活である。どうやらそれは、私だけのようだけど。樂は前以上に勉学や習い事に勤しみ、何かを父に乞うている。欒は毎晩誰かを思って泣いては、毎朝誰かの為に可愛くあろうと目の腫れを冷やすのだ。その点私は、誰かの為に何かをしているわけでも無いし、何か目標があるわけでもなかった。そういえば、火影様の子供と遊んでみたかったりするなあ。いや、どちらかと言えば火影様自身に会いたいのだけれど。きっと自宅まで行かないと子供には、会えない。それはつまり、奥さんの姿を見る可能性が高くなるということ。なんだか、勝手に気まずくなっている自分が気持ち悪い。まあ火影様の、奥さんにも子供にも会ってみたい。明日辺りには行ってみようかな。少し下がっていた気分も、楽しみな予定を立てれば上がった。
「ねえ、欒。明日はちょっと外出て遊ぼうよ」

あぁ、そういえば欒はあの時なんて言ったんだったか。震え誰よりもか細い気がしたあの男性は、あの時。上げた顔の目元から涙を零しながら、私の手を握って…
「お前みたいに、人形みたいに可愛くなればっ
可愛くなったら彼奴は、俺のことを…」

彼奴は、あいつは、アイツは…