ハート泥棒常習犯

「琴葉ちゃん、何かあればお願いしますね。頼りにしてます!」
「はい、霞先輩!」

霞先輩に手を握ってお願いされたから気を引き締める。学長と霞先輩の後ろ姿を見送って、東堂先輩と真依先輩を振り返るとふたりはもういなかった。

「え、まって?ふたりともおらんなるの早ない??」

誰にちょっかいかけてるのやら、ふたりの呪力を辿るよりも前に派手な衝撃音が聞こえてきた。地響きが聞こえるから犯人は東堂先輩やな。どっかちゃうとこから銃声もところどころ聞こえてくるけど以前に真希さんと一緒に任務した感じやと、残念ながら真依先輩が真希さんに敵うとは思えないので東堂先輩の方に向かう。噂のオッコツさんとやらがだる絡みされてんのやろ。
白虎を呼び出して背中に乗せてもらうと全速力で東堂先輩の元へ行く。ついでに東堂先輩を縛るための護符を手元に用意する。持ち合わせの護符は普段の任務で使つこてるやつやけど、特級バケモンの東堂先輩でも一時的に動きを止めるくらいはできるはず。

「見つけた!」

東堂先輩に護符を投げつけた直後にパンダが飛び出してきて東堂先輩に殴りかかっていた。えっ???パンダ?????えーっと、ちょっとよぉ分からんけど、誰かの術式かな…?!ふつーにビビるねんけど。

「東堂先輩!余所で人様に迷惑かけたあかんでしょ!てかなんで自分服脱いで──…」
「いくら」

東堂先輩が大人しくなったのにかこつけてダメ出ししかけたら名前を呼ばれた。

「棘さん!!」

白虎の背中から飛び降りて真っ直ぐに棘さんのところへ向かう。飛びつくとしっかりと抱き止めてくれた。護符に東堂先輩の名前を書いてへんかったのにやけに大人しいと思ったけど、どうやらうちらふたり分の呪言が効いとったらしい。未来の夫婦の共同作業やね!棘さんはオッコツさんを隠すように地面に下ろしてくれたあと、すぐに乱れた髪を整えてくれはった。

「お久しぶりです!お元気でしたか?」

<<お会いできてうれしいです!>>
<<琴葉も元気そう>>
<<棘さんに飴さん買うてきたんですよぉ、たんきり飴>>
<<いつもありがとう>>
<<棘さん髪下ろさはったん?よぉ似合におてはるわあ>>
<<琴葉は髪伸びたね>>

編み込み終わりの毛先をいらわれる。ちょっと照れくさい。

<<えへへ、似合う?>>
<<かわいい>>

朝から編み込みをがんばった甲斐あったなぁ、頭を撫でてくれはるから大人しくされるがままになる。

「つーかオマエらなに見つめ合ったまま黙ってんだ?」
「あっ、失礼いたしました!ついふたりで話し込んでもうて……」
「え、オマエら喋ってた?」

どんな術式か知らんけど、パンダ…さんは喋ってはった。

<<パンダは呪骸だよ>>
<<え、呪骸なん?棘さんそれほんま??>>

心を読まれて、教えられた答えにまじまじとパンダさんを見る。あれ、東堂先輩は??

「あの、東堂先輩はどこ行かはったんですか?」
「東堂ならついさっき帰ったけど、気づいてなかったのか」
「すみません、つい話に夢中になってしもて……」

東堂先輩はそもそもナントカちゃんってアイドルに会いに東京きたって死ぬほど言うてたし、これから不意打ちとかもないな。

「オッコツさん、立てますか?」
「おかか。こんぶ」
「えっオッコツさんやないん?東堂先輩に絡まれとったからそうやと思ってんけど、えっとメグミ、さん?」

棘さんに教えてもらった名前を確認しつつ、手を差し出すとえらい据わった瞳と目が合った。東堂先輩にだいぶ揉まれたみたいやなぁ。顔に血ぃ垂れとるし、なんて思ってると棘さんから待ったが入った。棘さんが抱えて連れてってくれるんやて。ほんま棘さん頼もしなあ。前よりもまた逞しなって、すき。

(20210429)

狗巻家は心で会話するらしいので、ふたりの意思疎通は心で行いたいという願望の表れでした。

title by 誰そ彼「自分に似合いの私になるのよ」


High Five!