2003年6月19日

小さい時こそエマと一緒に真一郎くんや、圭介やマイキーについて回って遊んでもらうことも多かったけれど、小学校に上がると学校の女友だちやエマと一緒に過ごすことが段々と増えていった。それでも佐野道場に通い続けていたこともあって学校の友だちよりもよりもエマと遊ぶことが誰より一番多かったし、同じ理由でマイキーやドラケン、圭介たちに構ってもらうことも多い。エマとは学年がひとつ違うけど、わたしたちは一番の友だちだ。親友だってわたしは思ってる。お揃いの服や髪留めをつけているとほんとの姉妹みたいで、おもしろがった真一郎くんにはしょっちゅう写真を撮られるんだけど、うれしいからケータイの待ち受けはエマとのツーショットやプリクラに設定することが多い。
5年生になる頃、公営住宅の団地の抽選に当たったとかで引っ越しをした。元のアパートから歩くには少し遠い距離で、隣の学区に移り転校することになった。新しい友だちもできたけれど、やっぱりエマと遊ぶことが一番多かった。

わたしの交友関係はとても狭いけれど、圭介も似たようなもので遊ぶのはだいたいマイキーたちで決まってやんちゃしていた。いつからか一虎と仲良くなってから、一虎のちょっと危ない感じと圭介の悪いところが合わさって、マイキーとふたり真一郎くんの真似して回ってたときよりも怖い時がある。
さすがに眠いっていう理由で知らない人を殴ったって話を聞いたときはドン引きしたし、めちゃくちゃ怒った。圭介はなんでそんなに暴力的なの?!
夜に家にかかってくる電話は仕事帰りのお母さんじゃなかったら、警察か病院の人からだ。圭介は高学年くらいから他の学校の子たちとケンカすることか増えたし、それくらいから佐野道場にもあまり行かなくなって中学生になったら辞めてしまった。わたしが夜暗くなってから外を歩くのはちょっとは心配してくれてるらしくて、空手の帰りにお迎えに来てくれるけど。
よくお母さんから「お母さんの知らないところで圭介が悪いことをしたら、つむぎが代わりに叱ってね」と言われていたから、やんちゃな圭介の成長と反比例するようにわたしは妹なのにお姉さんぶることが増えていた。
そんなこともあり、わたしは東京卍会結成の場に偶然居合わせた。

*****

圭介はここ何日かずっと機嫌がいい。きっと一虎とかとまた悪いことを考えてるんだ。だいたい悪さをするときは武蔵神社で作成会議だかなんだかして、その日の夜か次の日にはどこかの誰かとケンカしてる。
学校から帰ってきて駐輪場を覗いてみると、圭介のバイクがなくなっていた。武蔵神社に行ってみると階段の下に全部で5台のバイクが止まっていた。その中に圭介のバイクを見つけて、わたしの勘は当たってたんだとわかった。階段を上ってくと、境内のところで集まる男の子たちを見つけた。

「見つけた」
「げ、つむぎ…」
「なに、オマエ妹連れてきたのかよ」
「連れてきてねーよ」

さっき遠目で見た時はみんな怖い顔で話していたのに、圭介をからかってる顔は怖さなんてちっともなかった。

「圭介たちが悪いことばっかりするから叱りにきたの」

今度はどんな悪巧みをしてるのかと自分のできる精一杯の怖い顔をしてみたけど、圭介がちょっと面倒くさそうな顔をするくらいで、他のみんなは面白そうに笑うだけだった。

「場地の妹じゃなくて母ちゃんじゃん」
「チイママだ、チイママ」
「全然反省してない!」

チイママってなによ。
ムッとしてると「ベル、そこあちーだろ。こっち来いよ」ってマイキーに呼ばれて大人しく日陰に入る。

「おまえほんと場地のこと好きだな〜」
「……べつに、ふつーだもん」
「マイキーだってエマのこと好きじゃん」
「はあ?ふつーだ、ふつー!」

わたしをからかうマイキーを、今度はドラケンがおかしそうにからかった。ほんとは恥ずかしくて誤魔化したけど、わたしはそれなりに圭介のことは好きだし、マイキーだってエマのこと好きなはずだ。だって低学年の時や姉妹ならともかく、学校の子たちはわたしたちほどしょっちゅう男の子兄弟と遊ばないのだ。

「で、黒龍とやり合うって話だったな」

また懲りずにケンカの話しようとしてる!
しかもブラックドラゴンって、あれだ。真一郎くんの作ったチームだ。話を止めようとしたら、近くにいたドラケンに止められてしまった。まーまーって肩を抑えられる。

「オレらで暴走族チームを作るんだ」

圭介は声高に宣言して、「それぞれポジションも決めてる」ってひとりひとりを順番にみて役割を伝えていく。それから最後にわたしを振り返った。

「ここにいる、つむぎがチーム結成の証人だ!」
「なにそれ?勝手に決めないでよ!」
「これでベルも後に引けないなー」

悪いことするから叱りにきたのに悪巧みの仲間に引き入れられてしまった。楽しそうに笑う男の子たちの中でひとり一虎だけがヘンな顔をしてる。いつも率先して悪いことするのに、変なの。おまけに「いいのかな…そんな簡単に…」ってぼそぼそ言う言葉はますますらしくない。

「チーム名ももう決めたし」
「え!?決まったの!?」
「東京万次郎會だ!!」

自信満々のマイキーにみんなは「だせぇ!!!!」って声を揃えた。声こそ出してないけど、わたしもそう思う。みんなにチーム名を否定されたマイキーはわたしにも「ベルはいいと思うよな?」って聞いてきた。

「うーん、マイキーらしくて・・・・・・・・いいんじゃない?」
「ほら、ベルはこう言ってる!」

チイのそれは言わせてるんだろ、とか、らしい・・・ってだけじゃん、とか、ぎゃーぎゃーとチーム名についてまた話し出した。男の子ってほんと子どもだ。みんなわたしよりふたつも年上なのに。

「記念にみんなでお守り買おーぜ!」
「チイにも買ってやるよ」
「さっきからチイってだれ、わたしのこと?」
「チイママのチイだ」
「えーっ!悪いことばっかする息子、こんなにたくさんいらない!」

だいたい兄の圭介ひとりで手一杯なのだ。怒ってみたけど悪ガキたちはケラケラ笑うだけだった。この日からわたしはチイってあだ名も増えて、つむぎって名前で呼ぶのはお母さんと圭介と、それから真一郎くんくらいになった。つむぎも、ベルも、チイも、それぞれが特別なわたしの名前。

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High Five!