とっておき防衛任務の前に愛真がトリガーの付け替えしていると、隊室のドアが開いた。当真がゆるい挨拶をしながら定位置のソファに落ち着く。愛真も当真に倣ってゆるく挨拶を返す。
「あれ?冬島さんは?」
モニターの前には真木しかおらず、ぐるっと隊室を見回して隊長がいないのに気づいたらしい。
「開発室の手伝い。今日入隊式でしょ」
「あ、今日か」
真木の言葉に当真はなるほどと頷いた。毎回入隊式の日は新入隊員たちのトリオン能力なんかを同時に調べているから開発室は忙しくなるらしい。
そういえばこちらに帰ってきてから何度か訓練室に仮入隊らしき見知らぬ顔が出入りしていた気もする。当真は今回はどんな新人が来るのかと二人に振ろうとすると、目が合った愛真が口を開いた。
「あと迅くんが夜忙しくなるの視たって言ってたよ」
「開発室ってわりといつも忙しくしてね?」
「わざわざ言うくらいだからもっと忙しいんだよ」
何言ってるの?と愛真は当真に言った。うちの末っ子は結構はっきり言うよな〜と当真が愛真の頭を小突くとうっとうしそうに手を払われる。全くつれない。
実質の権力者の真木と違って愛真の方は素直が過ぎるだけだから、生意気と思うことはあっても怖いと思うことはない。今はいない隊長はそんな愛真にも時々どうしていいかわからず戸惑っているようだが。その冬島も年がら年中忙しなくしている開発室へは手伝いなのか、女子高生ふたりを体良く避ける口実なのかは分からないが度々入り浸っているから難儀だなと当真は他人事ながらに思っている。話しながらもトリガーの調整を終えた愛真は専用の小物入れに道具を片づけていく。
「またラッドってやつ大量発生でもすんのかね」
「さすがにそれは分かってたら共有されるでしょ。迅さんも遅番で防衛任務に入ってるんだから」
「だよなー。愛真はなにが視えてんの〜?」
「別になにも視えないけど」
愛真のサイドエフェクトがあくまで感覚的なものだと知ってるくせにこんな無茶振りを言ってくる。じとっと当真を睨め付けた。
「でも迅くんちょっと笑ってたし、大したことないと思うんだ。別に嫌な感じもないしね」
「どうせ機材トラブルとかでしょ。二人ともそろそろ時間」
「はーい」
「へーい」
真木の言葉にふたり揃ってゆるい返事をすると、トリオン体へ換装を済ませ隊室を出た。
「あれ、今日弧月いれてんの?それも迅さんから?」
「ううん、明日慶くんと遊ぶから肩慣らし」
「最近太刀川さんとよくやってんな〜」
「ちがうの。慶くんしつこいの」
仲が良くて微笑ましいとでも言うように当真はにまにまする。仲は悪いどころか良い方ではあるけれど、人から言われるのはむずがゆくって捻くれた返答になってしまう。太刀川とは素直に仲が良いと言い出せない兄弟みたいな関係を築いていた。当真は不満とでも言うように顔をしかめる愛真の頭をぐしゃぐしゃにかき回した。
「もーやめて!縮む!縮むから!」
仕返しとばかりにバシバシ腕を叩いてくる愛真を当真は適当にあしらいながら防衛担当地区に向かった。
冬島隊として防衛任務に入るとき、ランク戦が近い時や新しいトリガーを試す時に連携して任務にかかることもあるけれど、冬島は冬島で担当地区に罠を張り巡らせ、愛真と当真は担当地区を分担してそれぞれ個別に対応することが多かった。隊を組んで最初の頃こそ遊び半分で当真と愛真の二人で倒した数を競うようなこともしたけれど、愛真の勘がいいのか、引きが強いのか。圧倒的に当真の分が悪いとわかってからは競うこともなくなった。
ゲートから現れるトリオン兵にいつも通り対処していると、不意にボーダー基地からトリオンが漏れているのが見えた。
「理佐ちゃーん、なんか本部の方でトリオン兵でた?」
<<なんか爆発みたいなのあったな>>
<<トリオン兵は感知してないけど、破壊部位あるね。確認する>>
「嫌な感じしないし、大したことないと思うけど」
仮にトリオン兵の襲撃だとして、今日は入隊式だから手伝いなんかで本部に正隊員はそれなりにいるだろうし、防衛任務中の愛真たちだってすぐに駆けつけることができる。警戒区域内で人の往来がないのは分かっているけれど、なんとなく道端によって真木からの連絡を待っておく。
<<原因がわかった。今日入隊した
狙撃手志望の子が壁をぶち壊したって>>
「え?なんて??」
聞き返したところで同じ答えが返ってきた。愛真が最近知り合った玉狛の子たちも今日入隊だったよな、とふと思った。
チカちゃんだったりして。
そう思うとほとんど確信に変わっていく。いざ防衛任務を終えて真相を知った時、「そりゃ迅くんも笑うよね」と独り言ちた。
(20211205)
(20220321)
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